【顔さえよければいい教室 1.詩歌クレッシェンド】  三河 ごーすと/ necomi 富士見ファンタジア文庫

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その歌声が、天才たちの学園を染めていく。

音楽、ダンス、ファッション――あらゆる分野の天才が集う芸能学校・私立繚蘭高校。
だがその実態は、「顔」をはじめとした外見ですべての評価が左右される教室だった。
俺の妹・池袋詩歌はヒキコモリで、兄ナシでは生活できない要介護人間のせいか、配信のセンスもスター性も壊滅的。
この学校では最弱かと思われた。
だが俺は知っている。ネットで顔を隠して伝説になったVSINGER。その正体こそが詩歌だと。
「――青、この曲の色。私はそれに合わせて歌うだけ」
ゆえに詩歌の歌声は唯一無二。学校のあらゆる常識を覆し、彼女の才能は見出されていく――!


いやいやいや、これタイトル詐欺じゃない!? 顔さえ良ければいい、なんて全然そんな事ないじゃん!
とはいえ掴みとしてはかなり強力なタイトルである。どんな歪んだ教育環境でエキセントリックな試練が課せられるのか、とついつい興味が引き寄せられてしまうじゃないですか。そういう意味ではインパクト大なのは間違いないんですよね。
顔さえよければそれで全てがまかり通ってしまうのか。顔がいいのが正義なのか。かわいいは正義だよ? でも、正義が通用するのはヒーロー番組だけなんだ。そしてこれはヒーロー物ではないし、顔がいいからってそれがイコール可愛いってわけでもない。
何が言いたいか勢いで書いているので自分でもよくわからなくなってきたが、とりあえず顔がいいというだけで何でも許される世界観、あるいは顔さえよければそれで成績アップ、みたいな学校なんじゃないか、と思っちゃうじゃないですか、考えちゃうじゃないですか。

違う。才能だ。そして結果だ。結果を出せ、それがすべてだ、という学校なのでした。芸能にまつわる学科なのでした。その結果が動画配信というのは今どきですよねえ。これ10年後とかどういう環境になってるんだろう、とちょっと考えてしまいますけれど、時事ネタにならない事を祈りたい。
何にせよ、顔さえよければいい、というのでは全然ない。とはいえ、顔が良いというのはある意味で前提である、という事実は否めないんですよね。
見栄えを整えるのもまた最低限やるべきことなのだ。その最低限をおろそかにしたことで、主人公の二人、楽斗と詩歌はのっけから躓いてしまうのだから。結果が成績に直結するばかりではなく、生活費にまで直結しているので死活問題である。
妹の詩歌がまともな生活力を持たない一方で文句なしの天才である事は間違いない事実だ。その厳然たる事実をもって、つまり才能のゴリ押しで集った芸能の才能を持った若人たちをなぎ倒していく無双無双のお話かと思っていたのですけれど、むしろ才能という原石だけではそれを持て余してしまう。才能はただ才能だけでは意味をなさない、結果を出せない、正しく導き磨き花開かせる、その道筋こそが重要なのだ、というのを色々と考えさせられるストーリー展開でありました。
兄の楽斗は生活のためのあらゆることが出来ない詩歌の面倒を見て、世話をして、彼女の才能をVtuberとして世に出して、と彼女のマネージャー兼プロデューサーみたいな事をしている青年で、この学校にスカウトされた際も自分と一緒でないと詩歌はダメなんだよ、とネゴしてついてきた、というか手を引いてきた練達の世話係である。
とはいえ、彼が天才的なマネージング力の持ち主か、というととてもそういう気配は見せてないんですよね。詩歌の才能をこの学校で成功させるために何度も何度も失敗を繰り返すことになる。というか、最初相当に準備不足だし情報収集も足りてないし、とマネージャーとしてもプロデューサーとしてもど素人な甘々の行動に終始してるんですよね。決して辣腕の仕事を見せてくれているわけじゃない。
ただ彼は絶対的な詩歌の味方として、彼女を成功させるための道筋をコツコツと積み上げていく。彼はまだ凡人型にしか見えないけれど、それでも詩歌のためという一点で諦めず揺るがず苦労を厭わない、という点で非常に頼もしい存在になっている。そのふてぶてしさも必須の才能なのかもしれない。いずれにしても、非常に発露しにくい詩歌の才能を活かし花開かせるために、彼はひたすらにその才能の原石を磨き続ける男だと言えるのだろう。
そういう意味では、詩歌はあっちこっちに寄り道はするし立ち止まって休むことも在るだろうし、道も間違えたりするかもしれないけれど、それでも楽斗の導きによって迷いなく山頂を目指し続けることが出来る子なんじゃないだろうか。
誰もが、そんな導き手を伴っているわけじゃない。或いはその導き手がまるでその相手のことを考えていなかったら、その人の才能はどうなってしまうのか。
磨かれない原石はやがてくすんで曇っていく。
才能のゴリ押しだけではどうにもならない、という厳然たる事実を大きな壁として眼前にそそり立たされているのは、何も主人公兄妹だけじゃないんですよね。この作品に登場したキャラクターは多かれ少なかれ、そんな壁の前で藻掻いている。渋谷エリオ、狛江乃輝亜といった楽斗たちが編入してきたときにはもう既に第一線でその才能の輝きをきらめかせている、すでに成功を収めているように見えた彼女たちでさえ、それは変わらなかったわけだ。
原石は磨かれなければ宝石にはなれない。だからこそ切磋琢磨だ。ときに協力しあい、時に本気でぶつかりあって、そうやってお互いを磨いていくのだ。これは、誰とも関わらない個人で活動しているうちには出来ないこと。それを必要としない才能も在るだろう、でもこの学校という環境でこそ磨かれる意義も在る。Vtuberとしてではなく、自らの顔をさらけ出して、池袋詩歌は己の才能を花開かせる。その輝きは圧倒的で、だがその輝きは他の光を覆い隠して塗り潰してしまうのではなく、光が反射して煌めくように、他の原石たちの曇りも吹き払って輝かせはじめる。
クレッシェンド……その意は「だんだん強く」。
そこに込められた意味を噛み締めて、思わずワクワクしてくるストーリーでした。

しかし、情報屋にして宣伝屋な麻奈ちゃんさん、他人をうまいこと利用するイイ性格したクセモノにも関わらず、いつの間にか兄妹の世話係みたいな立ち位置に追いやられてませんか? この邪悪な兄に都合よく使われる人になっちゃってませんか? なんか昔から二人の面倒を見ていた幼なじみみたいなポディションに収納されちゃってませんか? そして幼なじみでもなんでも無い学校で出会ったのが初めてなキャラにも関わらず、幼なじみは負けヒロインみたいな感じになっちゃってませんか? 大丈夫かーっ!?
ワンチャン、なし崩しでいつの間にか嫁、みたいになってしまう展開もありっちゃありそうな気もするけどw まったく今のところ恋愛の卦は一切見当たらないんですけどね? だからこそ、まったくラブコメ展開なく気がついたら嫁になってて麻奈ちゃんなんで!?みたいな宇宙猫みたいな顔してるエンディング迎えてそうな展開もなきにしもあらずな面白ポディションだぞ、秋葉原麻奈w
そういう娘、何気にかなり好きなタイプである。