【ポンコツ最終兵器は恋を知りたい】  手島 史詞/どぅーゆー ファミ通文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
「マスター、“恋”とはなんでしょうか?」

遺跡探索を生業とするミコトが、今回の調査で見つけたのは眠れる美少女だった。サイファーと名乗った少女は名前以外の記憶をなくしており、さらには見たこともない装備と武装を駆使する能力を持っていた。ミコトのことをマスターと呼び慕ってくるサイファー。しかしミコトは《人型災害》と呼ばれるほどの不幸体質で誰かといるのは好ましくない……のだが、ミコトに降りかかる災いをサイファーはその武力で解決していく。そんな頼もしい彼女が興味を示したのは“恋”することのようで――。人型災害×最終兵器の“恋”をするための旅が始まる。

手島先生の描くヒロインはほんと、ツボを押さえているというか、「可愛い!!」の要素をこれでもかと濃縮還元してくるよなあ。
サイファー、かわいいです。

ポンコツ最終兵器なんてタイトルで謳われていますけど、言うほどポンコツではないですよね、いや全然ポンコツなんかじゃないぞ!? 別に変な失敗もしないし誤解もしないし間違わないし勘違いして暴走もしない。【魔奴愛】の某聖騎士様なんぞはまさにこれぞポンコツ! という感じのポンコツ具合だけれど、こちらのサイファーはもっと単純に最終兵器としてはポンコツ、という意味合いなんじゃないだろうか。
最終兵器と呼ばれるに相応しい凶悪な兵器に求められる冷徹さ、感情を排して徹底した戦闘マシーンとして振る舞うべきそれを、サイファーはまったく身につけていない。
少なくとも、記憶をなくした状態で主人公ミコトに助けられた彼女には最終兵器らしさは全然見当たらに。
入力されて然るべき基礎データからぶっ飛んで、一から全部教えて貰わなくてはならず、口ぶりこそ一つ一つ冷静沈着にデータを収集する無感情のマシーンみたいな台詞回しだけど、その台詞を口にしているときのサイファーって、だいたい初めての体験にびっくりしたり喜んだり興味津々に飛び跳ねてたり、と仕草や反応がもう初々しい感情豊かな女の子なわけですよ。素直で懐っこくて好奇心たっぷりで、どこにも最終兵器らしさは見当たらない。
一方で、危機対応はなかなか完璧だったりするんですよね。極まった不幸体質のミコトは度々生命の危機すらあるだろう事故にあうのだけれど、それに対してミコトはその強大な力を持て余したり使いすぎたりもせず、必要最小限に適切な運用で被害だけを極小、或いは皆無の状態に落ち着かせる見事な対応を見せるのである。そういう面でも全然ポンコツじゃないんだよなあ。
暴走した馬車を止めた上で、落ち着かせた馬を抱きしめて撫でて可愛がるサイファーがかわいくて仕方なかったです。

彼女のどこにも、危険の予兆は見当たらない。この世界は概ね平和で、伝承で謳われる厄災が目覚める様子も見当たらない。これまではそうだった。そのはずだった。
しかし、たとえそうは見えなくても、そんな素振りは見当たらなくても、彼女サイファーは最終兵器であることは厳然とした事実だったのだ。

そして、主人公のミコトの不幸体質は一種の呪いの産物であり、彼自身悪意はないにも関わらず、公式に人型災害と認定されてしまっている。彼の人柄とは関係なく、殆の人は彼を避け、社会は彼を受け入れない。
理解者で保護者というべきミリアムさんという人こそ居たものの、彼はどうしようもなく社会のはみ出しものだった。世界から爪弾きにされた者だった。それでも彼は誰も恨まず、常に前向きに生きてきた。孤独の中を胸を張って生きてきた。
そんな彼の前に現れた、もう一人の孤独者。いや、最初から彼はサイファーの正体なんか知らなかったし、彼女に背負わされたものも知らなかった。でも、彼らは出会い、そして心を触れ合わせて惹かれ合っていった。
ただしく、ボーイ・ミーツ・ガールである。
世界に受け入れてもらえない、ただ二人きりの唯一無二。ふと、世界を憎むだけで、きっとあっさりと世界そのものを滅ぼしてしまえるだろう二人は、しかし誰も傷つける事も何も望まずにただお互いを想った。お互いを守りたいと思った。優しい二人である、真っ直ぐな二人である。
恋模様も、もだもだせずにまっすぐだったなあ。面倒くさいことにならずに、まっすぐに思いを伝え合う若者たち。おーい、大人連中もっとしっかりしろよ、いやこの作品の大人の人たちはみんな信念に殉じる頑固だけどこれも真っ直ぐな人たちだったけど、この作品の大人連中のことじゃないけど。
ミコトとサイファー。この世厄災にしてもっとも優しく善良な恋人たちの行く末に、幸せのあらんことを。