【ラブコメ漫画に入ってしまったので、推しの負けヒロインを全力で幸せにする】 shiryu/バラ 角川スニーカー文庫

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この子が負けヒロイン? なら俺が誰よりも幸せにする!!

『幼馴染お嬢様が邪魔をして、普通のラブコメが出来ない』通称『おじょじゃま』、アニメ化も進行中のラブコメ漫画だ。俺の推しは、いわゆる負けヒロインの嶋田聖。クールに見えて、実は照れ屋でギャップが超可愛い。そんな彼女が今、目の前にいて……!?
(ああ、これは夢か。なら覚める前に一言――)
「好きだ」「なっ!? な、何を言っている、久村!?」
どうやら俺は、友人キャラの久村司になっているらしいが、聖ちゃんに愛を伝えられたなら何だっていい。もう大満足だが一向に夢から覚めることはなく。
……もしかして、漫画の中に入り込んだ!? だったら全力で推しを幸せにしてやる!

この娘、嶋田聖ちゃん。ヒジリじゃなくてセイちゃんなんですね。はじまって速攻で主人公の司に告られて情緒めちゃくちゃになってるんですが。
一応、クールな王子様系女性でメインヒロインの親友であり相談相手であり、クールで涼し気な物腰の裏にゲームの主人公への淡い恋心を募らせていきつつ、しかしメインのキャラが繰り広げる三角関係には割って入れぬままに、というサブヒロインらしいのだけれど。
いきなり告られてあわあわしているものだから、全然この娘のクールなところ見当たらないのである。ってかこの後ずっと赤面してあたふたして妄想をはかどらせて、とクールどころか落ち着きすら全然どこぞに落っことしてきたような様子なので、聖ちゃんっていったいどういうクールキャラだったんだろう、謎である……という風になっちゃってるんですがw
これだとただただ押しに弱いチョロい娘だよなあ。まあね、いきなり熱烈な告白をされて、圧倒的な質量の好意を叩きつけられて、冷静でいられる人はなかなかいないですよ。好意なんてものは、向けられたら誰だって嬉しいですからね。女の子だもの、意識だってしちゃうでしょう。
この段階だとまだゲームの主人公の勇一の恋愛模様は本格化しておらず、親友の志帆を応援していくうちに自身も恋心を芽生えさせていくという聖のそれも、全然発芽もしていない様子でしたので、それこそまっさらなキャンバスにいきなりバシャーンと絵の具をぶちまけられたようなものである。一気にその告白してきた相手、久本司という同級生に意識が塗りつぶされてしまったのも無理からぬ所だろう。
でもまあ、チョロいはチョロいですよ。それにしても動揺しすぎだし、返事もできなかったにも関わらず、やたらと司を対象に妄想をはかどらせてしまうようになってしまうのですから。……だからクールキャラという片鱗はいずこ。

一方で、まあよくわからないというか、実はなんにも考えていないんじゃないか、というくらいなのがこの久本司というこの作品の主人公である。本来はゲームのサブキャラにすぎなかった司に、この漫画作品をこよなく愛好する青年が事故にあったのをきっかけに憑依してしまい、ゲームの世界に入り込んでしまった彼が、常々この漫画の最推しキャラだった負けヒロインの聖をなんとか幸せにしてあげたい、とその一念で動き出す、という話なわけですけれど。
……この男、事故で死んだか意識不明なのかわからない状態だし、いきなり漫画のキャラクターになってしまったにも関わらず、そういう自分自身の事情についてはさして気にもとめていないんですよね。最初は夢だと思っていたものの、どうやら夢を見ているわけじゃないと理解した後も葛藤や混乱、自分はどんな状態になっているのかなど一切気にもせず関心もなく興味も持っていないようで、漫画の世界に入っちゃったなら大好きな聖ちゃんを幸せにしてあげたいぜー、という考えしか頭になく、それ以外なにも考えていない様子であっさりと順応していってしまうのである。
……けっこう怖いぞ、この男。いや、同姓同名とは言え別人になっているのに。知らない…わけじゃないけれど、漫画のキャラが家族になっているのに、普通に家族として過ごしてるもんなあ。
それに、キャラクターへの愛情と異性への愛情というのは本来まったくの別物だと思っていたのだけれど、彼にとっては区別する必要のない同一のものであるらしい。キャラが好き、というんじゃなくて聖という人間を好きになっていく、という過程もありませんでしたねえ。何しろ、速攻告白ですし、夢じゃないとわかったあとも全く同じ調子でアプローチを続けていますし。最後に漫画のキャラクターとしての彼女じゃなく、嶋田聖という娘が好きになったのだと彼は述懐してますけれど、あんまりそのへんの描写見て取れなかったかなあ。

また聖だけに夢中かというと、途中で漫画の主人公への恋心を拗らせて迷走するメインヒロインの片割れ、東條院歌織が本来の漫画のストーリーから逸脱する行動を取り始めると、途端にそっちに脇見運転をしだして、彼女へのフォローの方に労力を傾け始めてしまうのだ。結局のところ、彼は聖を幸せにしたいというだけじゃなくて、この漫画の登場人物全員に不幸になってほしくない、という意識があるようでそれは全然いいんですけれど、そちらへの対処のために肝心の聖が放置されちゃったんですよね。この件で聖とのデートももっとうまく活用できていたら良かったんですけれど、単純に聖のこと放置気味で中途半端になっていましたし、ちと作品としての軸が定まってない所が見受けられたように思います。
ってか、ラブコメとして見ると漫画のメインである重本勇一と藤瀬詩帆と東條院歌織の三人のお話の方が普通に面白そうに見えるよなあ、これ。