【真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました 9】  ざっぽん/やすも 角川スニーカー文庫

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『勇者』ヴァンを退けることに成功し、つかの間の平和な日常が戻って来たゾルタン。
しかし、ヴァンは自分を倒した先代『勇者』ルーティを討つことに並外れた執着と異常なまでの執念を燃やしていて……!?
その姿を目にしたレッドは、妹との平穏な日々を守るため、そして『導き手』として新たな勇者の道を正すため奔走する。
「お兄ちゃん、お疲れさま。いつも頑張ってるんだから、今日は私にまかせてのんびり過ごそうよ」
薬草農園で流れる悠然とした時間、妹と過ごすおだやかな日々に透き通る風が吹き抜ける――。
幸せ溢れるスローライフ・ファンタジー第9弾!

いやーー、これは凄いなあ。前回の感想でも書きましたけれど、自分はこの勇者ヴァンという少年はもう絶対無理だと思ってたんですよね。ある意味見捨てていたと言ってもいいかもしれない。
自分の価値観でしか物事を捉えられない狂信者。加護というものを人に齎した女神の意向を体現するAIシステムみたいな存在。彼にとって全ては女神への信仰のために捧げられるもの。そのためには人の犠牲とか個人の権利とか愛情とか世界の平和ですらも意味をなさない。
戦線離脱したルーティーの後釜として、こいつにはちゃんと勇者をやって欲しいから、レッドたちは彼をきちんと教導して心入れ替えさせて、人を救う世界を救う勇者にしようと方針をまとめていたわけですが、こればっかりは無理だろうと。
ある程度叩きのめしてゾルタンの地から追い出すか、ルーティーに関心を持てないくらい心折るか。はからずも倒してしまうか。もうそんな終わり方しか無理だろう、と思ってたんですけどね。
いやあ、凄いですわ。レッドの、勇者の導き手という加護は伊達じゃなかった。
適正のない相手に加護を与えてその人の人生を狂わせることに定評のある女神様ですけれど、ことレッドことギデオンに関してはこれ以上なく相応しい人物にその「勇者の導き手」という加護を与えたんじゃないだろうか。
もっとも、レッドくんは別に加護の力で勇者たちを導き得たわけではなく、あくまでも彼の手腕と思想でもってルーティーもしっかり育てたし、今回に至っては完全にバグっていたヴァンという少年を叩き直し目覚めさせたわけですから、加護の力なんかなくても関係なかったのですけれど。女神イランしw
まあヴァンに話を聞き入れてもらうために、導き手という加護の力そのものではなく女神から勇者を導くものとして指名されているという「権威」をレッドはうまいこと利用して、ヴァンに話を聞いてもらうための免状にしていたので、役立たずだったというわけじゃないのですけれど。
ともあれ、ヴァンの信仰や価値観を真っ向から否定して叩き潰すのではなく、まずヴァンの価値観と同じ舞台にあがって彼のルールに則りつつ、ヴァンが自ら自分の在り方を崩してしまうように揺さぶって、彼を信仰のシステムの一部ではなく人間の少年に戻してから改めて戦い対話をしていく、という手法はもうお見事という他ないものでした。
少年の純粋だからこそ凝り固まったものを、外から壊していくのではなく、自ら内から壊させる。凝り固まっているからこそ、どうしたって無理や矛盾は生じるもの。そして信仰に純粋だからこそ、彼は自分の中に矛盾を見出したときにそれを誤魔化さず無視できない。そうして鎧った信仰の外壁を崩していけば、現れるのは幼気な人間の少年だ。どれほど信仰の化け物と化そうとも、現実として彼はまず人間であり少年だったのだ。
そして、彼の在り方を否定するのではなく、彼の純粋さや信仰を悪いものとして排するのではなく、その上で勇者ヴァンと人の心を解する、人の情を解する、人の勇者へと導いてみせた。まさに、勇者の導き手ですよ、レッドさん。
ヴァンくんも、そりゃこの後の旅にもレッドには着いてきて欲しかっただろうなあ。もうこれ、人生の師と思っていいんじゃないだろうか。てか、人との関わりを知らなかった彼にとって、兄同然ともいうべき相手になったんじゃないだろうか。それはそれでルーティーの激おこ案件になりそうだけど。
妖精ラベンダも妖精であるが故に人と違う価値観でヴァンに執着している、まあ難しく考える頭を持たないアホの娘かと思ってたら、これはこれでとんでもない怪物だったんじゃないですか。よくまあリットは恋という共通点を足がかりにしたとはいえ、少しでもこの神代の怪物と話が出来る関係になったものである。もうヴァンしか眼中になかったのにねえ。
古い存在だからこそ、その在り方は頑なだ。それを少しでも和らげ、固執から僅かでも解き放ったのならリットの功績もまた大なりなんですよねえ。

まあ今回に関しては一番男を見せたのはアルベールでしたけれど。
いやーーー、化けたなあ。前回までもキレイなアルベールになったなあ、とは思いましたけれど、心が綺麗になっただけじゃない、守るべきもののために勇気を振り絞り生命を賭せる。自分の野心や名誉欲、承認欲求のためなんかじゃなく。これは文句なしに英雄の器ですよ。テオドラさんに惚れられて逆玉ー、とか思ってましたけど、いやいやいや、もうちょいと流石に役者不足だなんて思えません。立派にテオドラの横に並びたてますよ、今の君なら。イイ男になったなあ。
こうしてみると、レッドの人を見る目は確かなんですよねえ……ほんと、賢者アレスだけはどうしようもなかったんだなあ、と改めてしみじみと思ったり。