【勇者刑に処す 2 懲罰勇者9004隊刑務記録】  ロケット商会/めふぃすと 電撃の新文芸

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不死身の魔王イブリスを討伐し、ミューリッド要塞を守り抜いた懲罰勇者部隊。しかし、彼らに平穏は訪れない。
「ザイロ、人間が相手では、私は……能力を使えません」
「気にするな、雑魚が群れたところで大したことねぇ」
 なぜか《剣の女神》テオリッタを狙う暗殺教団、人に紛れているという魔王スプリガンなど、数多の敵がザイロ達の前に立ちはだかり、街ごと壊滅させるような大乱闘へ――!
 遠征を行っていた竜騎兵と砲兵も合流し、ついに集結した極悪勇者部隊は、激しさを増す闘争と陰謀の渦に巻き込まれていく――。


今回はザイロと女神テオリッタとの関係は安定していて、スポットは他の勇者隊の仲間たちと魔王現象との戦いにあたっている感じ。
実際、ザイロの悩みは尽きなくとも、テオリッタとどう接するか、彼女を戦場に連れていき彼女の能力を使うかどうかについては、ある程度割り切りというか、判断基準みたいなものが出来たみたいですしね。連れて行った方が助かるところではちゃんと連れて行ってその能力で助けて貰っていますし、テオリッタの承認欲求に対して思う所はまだありますけれど、それについてぐだぐだと思い悩む事はもう止めていますし。
図らずも、女神テオリッタと彼女を連れて戦うザイロの姿は英雄として怯える市民に勇気を与える存在になりつつある、というのは果たして良いことなのだろうか。
というのも、人類側の上の方が真っ黒もいい所なんですよね。真っ黒と言っても黒一色ではなく、様々な思惑がうごめいている、という感じなのだけれど。そもそも、人類の存続を望んでいるのか、という疑問すら湧いてくる。もっとシンプルに権力争いしているだけ、だったら前線現場で戦っている連中の足を引っ張る程度で済んだのかもしれないのだけれど。

今回非常に興味をそそられたのが、新しく勇者隊の仲間として登場した竜騎士と砲兵である。新しく、と言っても前から所属はしていて前巻では別の所に居たり懲罰房に入っていて登場する機会がなかったためで新参者、という訳では無いのだけれど。
竜騎士ジェイスの方はまだわかりやすい存在なんですよね。彼は人間でありながらあくまで竜側の価値観立場でしか物事考えない、人間社会の中で生きていけない人間だったからこそ彼自身罪と感じていない人類においては罪だとされる事柄を遂行して懲罰勇者にさせられた、という類ですから。
ただ砲兵ライノーの方は、もうなんか凄いですよね、こいつ。
そう、彼は犯した罪がないのに自分から志願して懲罰勇者となり、魔王現象と戦っている。彼は人の社会においては一切罪を犯していないのである。いや、命令違反しまくって懲罰房入れられまくっているんですが。
でも、人類としては罪を犯していない。でも、もっと大きな括りとして見るならば、彼もまた懲罰勇者に相応しい性格破綻者の重罪人。しかも彼に関しては勇者として戦えば戦うほど禊になるどころかむしろ罪を重ねることになっている。彼としては人類として合法的に自分の欲求を満たせることができるために勇者をやっているのだろうけれど。
こうしてみると、懲罰勇者たちが勇者刑に処せられることになった罪って何なんだって話になってくるんですよね。主人公のザイロからしてそもそも覚えのない動機や罪を押し付けられての懲罰勇者堕ち。こそ泥のドッタもあれ、単なる盗みが要因ではなく触れてはならない所に触れてしまったが故。
最後の「彼女」の勇者堕ちも含めて、懲罰勇者たちの少なからぬ人間が、人類サイドの禁忌に触れてしまったが故の罪っぽいんですよね。
そして、ライノーと対照的なのがブーシャムという敵方として出てきた存在である。彼は魔王現象の一つでありながら、人類の在り方に理解を示しそれに価値を認め、リスペクトしようとしている。もっとも、当然彼の価値観は人間のそれとは全く異なっているし、彼の言う尊敬や哀しみという言葉が果たして人が使う意味でのそれと全く一緒なのかはわからない。でも、彼が人類に理解を示そうとしているのは確かだし、彼が魔王現象として実に真っ当に在ろうとしているのは確かだろう。
そして共生派という存在である。人類を滅ぼそうとする魔王現象と共生しようという人類の裏切り者。往々にして人類殲滅戦争において敵対存在と共生しようというグループは狂信者などのアタマがおかしくなったカルトの類なのだけれど、本作においてはどうも様相が違うんですよね。
確かに彼らはエゴを優先しているのかもしれない。でも、せめて家族や親しい人たちだけでも守りたい、という願いはむしろ人間的ですらあるんですよね。実際、共生派として登場した人間たちはとても真っ当で、情が深い人たちでした。
血の繋がらない弟妹たちのために手を汚すことを選んだ男。姪の近くをうろつくザイロにそれまでの冷静沈着さを投げ売って牽制してくる叔父さん。
彼らの愛情は本物だったでしょう。だからこそ、
まともな人間ほど共生派になる、という作中での一文は衝撃となって突き刺さるものでした。

じゃあ、人類側は。そもそも、真っ当なのは、破綻していないのは、正気なのはどっちの陣営なんだ?
正当な騎士団の長として、ザイロの善き理解者となってくれて、人類の庇護者の一人として真っ当に身を粉にして戦っていた彼女が、パトゥーシェがその真っ当さ故に真っ当をハズレてしまい、あんな事になってしまった事が、なんかもうアタマの中をグチャグチャにされたような気分でしたよ。
ザイロの元婚約者であるフレンシィが未だ「元」の冠をつけずに婚約者として振る舞い、ザイロの後を追っていることが、何か癒やしとも救いとも思えてきた。そこの繋がりが、今となっては数少ないヨスガになるのか。