【衛くんと愛が重たい少女たち】 鶴城 東/あまな
 ガガガ文庫


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登場する女子、全員、愛が重たすぎ!

小さくて、細くて、色が白くて、気が弱くて…本当はもっと男っぽくなりたい僕・森崎衛。日曜の朝は必ず、姉の凛に女装させられて写真を撮られて「可愛い。愛してる」とか言われてSNSに投稿させられる。つらい。僕が想いを伝えられないうちに彼氏を作ってしまった幼馴染の瑞希。なのになぜか思わせぶりな目つきで僕に身体を寄せてくる。つらい。そんな僕の前に、従妹の京子がアイドルの仕事を突然やめて東京から帰ってきた。「つきあおう」って…何言い出すの??何のつもり??

人生がつらすぎる衛くんは、愛が重たすぎる少女たちに包囲されている!そして、その包囲網はものすごい速さで狭くなりつつある!!これは、愛が重たい少女たちによる仁義なき恋の戦いの物語。

うわぁ……と、思わず声が漏れてしまうほど、これは酷い。主人公・衛の置かれた状況がひどすぎる。
こんなの、愛が重いとかいう範疇じゃないですよ。
少なくとも姉の凛の衛に対しての所業は完全にDVですよ。虐待じゃないですか。その攻撃的な仕打ちに対して衛、完全に萎縮して怯えて言うことを聞かないといけない、許されない、という精神状態に押し込められちゃってるじゃないですか。
その上、嫌がっている女装まで無理やりさせて、SNSで公開して晒し者にするわ、自分の性欲を満たすオカズにしてるわ、とこれはもうアウトでしょう。挙げ句、束縛して他の女と接触すれば金切り声をあげて怒鳴り散らして罵倒して拘束して、と。両親は何をしてるのかと思えば、父親は休日でも理由をつけて帰ってこないし、母親はとばっちりが来ないように何が起こっていてもスルーして、と家庭崩壊してるんじゃないですか!?

学校では学校で、幼馴染が自覚的寝取られプレイで自分に好意を持っている衛の心を弄び、自分に彼氏が出来るたびに心の痛みにもがき苦しみ、健気に耐える彼の苦悶する様子を愛でて悦に浸るという鬼畜っぷり。わざと衛に気を持たせて好意を引き付けておいて、可愛い系ショタ男子な衛とは全く逆ベクトルの男をわざと選んで彼氏にして、衛を苦しませる。
鬼畜ってこういう輩のことを言うんですよね? クズもクズのクズじゃないですか。
それでいて、自分が衛の事を好きだというのは絶対に認めない、受け入れない。衛が自分を好きなのだ、という一方通行の上からの受容しか認めないんですよね。
その上で、東京から帰ってきた京子が衛と交際を始めた途端に、訳の分からない理屈を並べ立ててその邪魔をしだす。ほんと、まったく論理だっていなくて、自分の欲求要求だけを突きつけてそれ以外は無為に不定して踏みにじってキャンキャンと騒ぐばかり。いやぁ……これはちょっとたまらんですわ。
でも、当事者である衛にはこういう幼馴染の本性ってわからないんですよね。周りがどれほど忠告しても届かないって、こういうことなのか。
もう一人の幼馴染で男で親友の征矢。内向的な衛に取って数少ない友人であり、まじで良い奴なんですよね。他のことに関しては衛は心底から彼のことを信用して信頼しているにも関わらず、瑞希のことに関してだけはまったく聞きいれない。姉の凛のおかげで精神的に屈服しやすくなっているというのもあるのだろうけれど、瑞希に対しても踏みにじられて弄ばれているからこそ、それを受け入れる態勢になってしまっているのか、と思うほど。

愛が重い、なんてもんじゃないですよ、これは。二人共やっていることは虐待である。愛していれば何してもいい、てもんじゃないんですよ。人の尊厳を踏み躙り、支配して、搾取する。ろくでもない苛虐者たちじゃないですか。

この二人があんまりにもあんまりなもので、もう一人のヒロインにして、いやもしかしたら主人公なのかもしれない、衛の従姉にあたる宵ヶ峰京子も普通に見たら相当に愛が重たい、重たすぎるくらいの女のはずなのに、めちゃくちゃマトモに見えてくるんですよね。いや、普通にマトモです。愛が重たいかもしれないけど、それだけでマトモです。
衛に好きになってもらうために上京してアイドルにまでなった、というとびっきりの重たい女ですし、散々努力して振り向いて貰おうと頑張ったのにガン無視して瑞希ばかりに夢中になっていた衛に対して、復讐してやる。青春を費やして頑張ったのに報いをくれてやる。今度こそ衛を夢中にさせていざ自分を好きになったらその瞬間に振ってやって、ダメージ食らわせてやる、なんて面倒なことを考えていた彼女ですけれど、いざ衛と再会すると思いっきり逆上せるし、いやまだ全然好きじゃん、君まだ全然夢中じゃん、という有様で。
復讐のためというお題目で、何とか口八丁で交際までこぎつけ、思わずキスまでしてしまって、そのたびにアタマお花畑になってついつい復讐のことを忘れてしまい、幸せ絶頂になってしまう京子さんが、もう普通にラブコメしていて癒やしでありました。
その上で、衛が置かれている環境を親族という立場からもちゃんと把握しているから、配慮も欠かさないし、さらにもっと普通の衛が一方的に好意を抱いているだけの幼馴染関係だと思っていた瑞希の思惑を知ったことで、京子はちゃんと怒るんですよね、この娘。
自分と衛の間に割って入ったから、という理由じゃなくて、衛を傷つけていることに対して京子は激怒するんですよ。彼女だけは自分が自分が、だけじゃないんだ。ちゃんと、衛のことを思って考えている。凛によって踏みにじられ傷つけられた衛の自尊心を、笑ったり突き放したりもせず、ちゃんと慮ってるんですよね。
だからこそ、そんな風に接してくれたからこそ、搾取ではなく京子だけが与えてくれたからこそ、衛も今の自分を変えなくちゃ、と思うことが出来るようになった。思うばかりで何も行動できなかった臆病さに勇気を振り絞ることが出来た。
京子は京子で怒るばかりではなく、怒りを原動力にして衛を縛り付けている呪縛を解き放つべく奔走するのである。さすが、衛への愛のためだけにアイドルに成った行動力の化け物。そしてその行動力は自分のためじゃなくて、衛のためなんですよね。復讐なんて忘れてたでしょう、この時。
宵ヶ峰京子の愛は、そりゃあ桁外れに重いですよ。でも、この愛の重さは背負うに足る。きっと心地よい重さだ。苦痛をもたらし心を歪ませる重さとは全然違う。
もう面倒くさいいらん事考えないで、成就した愛に生きてほしいですよ、京子さんは。この物語において彼女の愛の重さは救いであったのですから。

しかし、最後また不穏な展開になってるなあ。これ、話を見たまんまに捉えるのもどうかという所なんですよね。果たして「彼女」の思惑がどこにあるのか。果たして敵か味方か。瑞希がまだ全然諦めていなかった、という以上に京子に対して敵意を漲らせていたのを見ると、放っておいてもまた激甚のトラブルを起こしそうではあっただけに。京子はもう終わった感出してたけど、桂花の方はなんか察していた節もありましたしねえ。
さあ、これからどうなることか。いや、京子と衛のカップルに関してはここからダダ甘方向へと流れ込んでいきそうな、あの衛の吹っ切れた無防備さなのですがw