【僕は、騎士学院のモニカ。】 陸 そうと /おやずり  富士見ファンタジア文庫

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少女がくれた学園生活。少女のための学園ファンタジー

伝説の騎士は蘇った――なぜか自分を看取った少女の身体で。
少女・モニカが自らの命を譲ってくれたことを知った“僕”は『騎士になりたかった』という彼女の意思に応えるためにモニカの名を受け継いで騎士学院に通うことを決意する。
だが生まれて初めて経験する学園生活、それも女子寮。生前の“僕”に憧れる少女たちに囲まれる日々に戸惑いつつ、衰えない剣の技量を示すことで、モニカの名は瞬く間に学院で一目置かれる存在になる。そうして学院で強き騎士の姿を示す中で“僕”は知る――なぜ彼女が“僕”に命を譲ってくれたのかを。
少女のため伝説の騎士が駆け抜ける。学園ファンタジー!

おおぅ、なんだこりゃ。なんかすっごいゾワゾワしたぞ。性癖の喉元を擽られるようなえもしがたい感覚。
これはいわゆるTSモノだ。トランスセクシュアル、予期せぬ性転換によって本来の性別と異なる性となってしまった人物を主体に描かれる物語。
本作のモニカもまたそれだ。本物のモニカによって、致命傷を負った状態から助けられ、その心をモニカの肉体へと移し替えられた野良騎士ダレン。彼は恩人であるモニカの願いであった最強の騎士の称号を「モニカ」に与えるため、少女騎士として騎士・神奏術士を輩出するトーンハウス院へと編入してくる。本来、女性は騎士になるために必須と言える身体強化の能力を持たないために神奏術士になるのが従来の常識だったのだが、モニカはそれを覆すべく女性の身でありながら騎士科へと編入してきたのだ。
ところで、繰り返すがこのモニカは中身が男である。青年である。野良で騎士をやっているようなワイルド青年である。いや、元々一人称が僕だったりするので粗野な荒っぽい野郎だったとは言わないけれど、巷で最強の騎士なんぞと謳われていたようにダレンという青年は見るからに男であり中身も男らしい男性だった。
はずなんだが、騎士科に颯爽と現れ世代ナンバーワンの評価を独り占めしていたアルギュロスを撃破したことで話題騒然となったこのモニカさん……いや、どう見ても女の子ですよね?
もちろん見た目だけの話ではなく、立ち居振る舞い全部がどう見ても女の子なんですよね。明朗快活で元気が爆発しているようなハツラツとしたボクっ娘少女。明るく真摯でユーモアもあり人懐っこい。人好きする性格で上からは可愛がられ同世代からは親しまれ下からは懐かれる。そんなキラキラとした美少女だ。
……女の子なんだよ、どう見ても。女の子のフリをしているという感じでもなく。いや、TS少女ともなると肉体に引っ張られて女の子らしくなっちゃう、なんて傾向も巷にはあるのですけれど、モニカの場合なんかそういう感じでもなくって……根っから女の子な雰囲気なんですよね。
だいたい表紙絵から完全に女の子仕草じゃないですか。ゴム咥えて髪まとめてる様子とか。
カラー口絵もベッドのあの座り方。そして剣を抱きかかえる仕草。男じゃないよ!! キャラ紹介の立ち姿からして、めっちゃ内股! もう何から何までいちいち女の子!
ダレンさん、実は中身オネエだったりしたのか? と、思ってしまうほど。
元々の本物のモニカの影響があるのか、というとそれはないっぽいんですよね。だって、本来のモニカはもっとこう……陰キャっぽい鬱々っとした感じの印象の子でしたからね。こんな陽気で天真爛漫って感じじゃないんですよ。だとするならこの性格、このキャラクターどこから湧いて出たのか、と考えたら、ダレンさんしかないじゃないですか。
あなた、めっちゃ女の子するの楽しんでません? モニカの代わりにモニカを最強の騎士とするんだ、という目的はいいんですけれど、もうなんか元のモニカとは全然違うダレン風モニカを創りあげてノリノリでもう成り切ってますよね。成り切るというか、もう元に戻れない戻らないレベルでこういうモニカに成ってしまった、というべきか。
面白いのは彼女、物語の構造的に見ても異物、イレギュラーな立ち位置なんですよね。この物語の構成を見ると、実のところ主人公ポディションなのって、モニカのライバルキャラとなるアルギュロスくんなんですよ。そしてメインヒロインはヘリオローズなんですよ。この二人、入学式の出会いからして定番の、衝突から何となく息があってという流れから、ほぼコンビとみなされるような間柄になってますからね。ケンカップルですよ、ケンカップル。
それぞれの背景もまた十分、主人公とヒロインっぽいんですよ。特にアルくんは昔ダレンに救われ、彼から剣を与えられ、彼に憧れて強くなってきた、という英雄の後継者。ダレンの生き様の証明者でもあるわけです。道半ばで倒れたダレンの代わりに、英雄として強くなっていく。まさに主人公の立ち位置じゃないですか。志もあり、心も真っ直ぐで誠実で結構苦労性で、と実はモニカ抜きでも十分作品背負って立てるくらいの強度あるんですよね。
そう、実のところ物語として見るならばモニカって決して必要なキャラじゃないんですよね。しかし、彼女は堂々と割って入ってきた。いや、それは全然いいんだ。いいんだけれど、アルくんのライバルが女の子というのもまた別にいいんだけれど。
これだけ立派に女の子しちゃってるとさ、アルギュロスくんだって普通意識しちゃうじゃあないですか。可愛いし格好いいし強いし。必死に強くなろうと、それも騎士ダレンのように人を助けられる騎士となるべく頑張ってきたアルくんにとって、女の子という身体強化も出来ない身の上ながら実力を積み上げ自分よりも強い騎士として現れ、そして実戦でもその強さを証明し、それ以上に憧れの人のように人を助けられる騎士としての姿を見せつけられた。自分と同じで、そしてそれ以上の存在。
一方で日常ではけっこうポンコツでヘリオローズと一緒になって迷惑を掛けられて苦労したり、色々と世話をするハメになったり、ベタベタとまとわりつかれたり。パーソナルスペースがやたら近い女の子って、男としては「近い近い近い!」ってなってどうしたって意識せざるをえないじゃないですか。しかも可愛い。明るい。そして可愛いと三拍子揃ったボクっ娘美少女。
真面目でどちらかというと堅物寄りのアルくんだって、男の子なんですよ?

で、あんたそれ、中身が恩人にして目標であり目指す頂きたるダレン(男)その人だと知ったその日には、この若者の性癖どうなっちゃうんでしょうね? ぐちゃぐちゃじゃね? 壊れに壊れるんじゃね?
これに関しては騎士ダレンを憧れと言って憚らないヘリオローズの方も同等で。同室のルームメイトになって、騎士を目指すという女性としては突拍子もない生き方をしているモニカに反発しつつ、江戸っ子お嬢様的なノリで距離感を詰めに詰めまくってるこのリオちゃん。流れがわりとアルくん相手と似ているような気もするのだけれど、同性故の気安さもあってこっちも結構べったりになりつつあるんですよね。もちろん、中身がアレだとは知らずに。そりゃあ、同性から見てもまるっきりボクっ娘少女だもんなあ。
本来物語からすると主人公とメインヒロインになるだろう二人の間にどーんと割って入り、二人の性癖をグチャグチャにしかねない爆弾の導火線に着火しちゃいつつ、主役の座も奪ってこうという勢いで学院内で起こる事件の渦中へと飛び込んでいくモニカ。
台風の目ともなるフィーネという子もまた、ポディション的にはリオの親友でアルくんとも仲が良くて、というもう一人のヒロインポディションなんですけどねえ。
まさかの、本来のモニカとの繋がりがあり、二人の少女の正道から足を踏み外しても手にしたい望みというのが明らかになっていく、という事件の過程は本来イレギュラーだったモニカにも深い関わりをもたらす展開で、それはそれで納得だったんですけれど……ちょっと強引というか性急ではあったかな、と思わないでもないです。
フィーネとアルとリオの三人の関係ってもっと色々と描かれるべき深い絆を感じさせるものがあったんですよね。アルとリオへの得難い思いというのはそれまでのフィーネの様子から色々と散見されたんですけれど、いざ事が起こったあとはモニカとの絡みに終始していてフィーネ側からリオたちへの反応が見られなかったのは、ちょっとそこに至るまでの溜めが足りなかったのかなあ、と。
モニカの出現が、フィーネを急かしてしまった要素はあったんだろうけど。

そしてモニカは今後もうダレンは死んだ以上「モニカ」として生きていくつもりなんだろうけれど、彼女の中の本物のモニカも消え去ったわけじゃないんですよね。果たしてモニカが本当の意味で目覚めたとき、ダレンはそのまま身体を返すのか。モニカをやっているのはあくまで身代わりなのか。それとも本当に自分自身モニカになりきろうとしているのか。
本当のモニカとの対話のシーンだけダレンに戻っていたけれど、通常は殆どダレンとしての気配、キャラクター、自意識?を見せていない「モニカ」。このどこからどう見てもボクっ娘にしか見えないキャラ故の、このゾワゾワとする感覚。この未知のキャラが他のキャラクターたちの間でさも普通の女の子キャラのように振る舞い、存在感を植え付けていく様子は得も知れぬ未知の感覚を味わわせてくれて、なんかこう……にょわわわーってなる作品でした。いやなんだよ、その感想w