【さあっ候補生さま、“王霊討伐”の時間です】 藤木 わしろ/にの子 MF文庫J

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「うんうんっ! ボクが選んだ人は──あっ!」
死者が蘇るようになった現代。異形の姿となり被害を齎す死者は『悪霊』と呼ばれるようになった。一方『善霊』と呼ばれ生前偉大な功績を残した死者もおり、特別な能力を生者に与えた。かつて悪霊による世界的な集団失踪事件『異界事変』で母を失った穂羽天理は、善霊から赤光を纏う長剣型の霊器を授けられ、この世界を壊してしまった悪霊の王――『王霊』を討伐するための候補生となる。
そんな彼女の前に善霊リシアと殺し屋を名乗る浅江遥斗が現れる。周囲と馴れ合わず、防衛省、自衛隊の指示に遥斗が従わない中、天理の最初の悪霊討伐――異界攻略作戦が開始される。
うわーーっははっは、これはこれは! 
藤木わしろさんの作品ってだいたいみんな好きなんですよ。性に合うというかテンポが合うというか。でも、その中でも本作は一番ビリビリ来たかもですよ。
面白い!! キャラクターだけじゃなくてストーリー展開のここぞという時に鋭く切れ込み、急転直下となる緊張感ある流れに、痺れましたよ。
しかしこれ、表紙絵からいい感じにやってくれてますよね。これ表紙絵にタイトルをあわせられたお陰で、前提となる認識を見事に固定されてしまっていました。ページめくったすぐの所の登場人物の紹介ともなるカラー口絵もおぱーいの強烈な存在感とでーんと掲げられている登場人物の名前の表記で知らず知らず刷り込まれていたんでしょうね。
少なくとも明確な態度の違いを見せるまでは、全くこれっぽっちもなんの違和感も抱いていませんでしたから。
てか、これメインヒロインってリシアじゃなくて、思いっきり穂羽天理の方じゃないですか。いや、それも正しくないな。主人公は善霊リシアを連れた黒尽くめの殺し屋浅江遥斗……ではなくて、天理ちゃんなんですよね。
物語は彼女を中心に広がっていき、彼女によって牽引されていくのである。
最初、自分は戦闘も出来ないし最終的に王霊を討伐するという候補者たちが集められた目的と彼女の目指す目的も違うし、遠征にはくっついていくだけで役立たずだしあんまり何もしませんよー、という消極的にも見える態度だった天理ちゃん。
なので、ヒロインとしてもあんまり能動的じゃないのかな、と当初は思っていたのですがどうしてどうして。
この娘、本当に戦闘についてはからっきしなんだけれど、それ以外に関してはとんでもない子じゃないですか。何よりまず、メンタルに凄まじい硬度の芯が一本通ってて動じないし揺るがないんですよね。感情面についてはむしろ豊かで騒がしいくらいなのですが、真ん中にどーんと芯が通っているからか、何が起こっても感情の上下動はわりと激しいくせに本質的には一切動揺とか焦燥とかないんですよね。むしろ、危険が迫り死地に立てば立つほど、追い詰められれば追い詰められるほど冷静沈着となり頭脳が高速回転しはじめる。いや、事前の備えや幾つものパターンを構築しているあたり、常にその頭脳は全力で回転しているのかもしれない。
彼女こそ、人類で唯一無二の異界からの生還者であり、サヴァイバーであり、経験と洞察で未知を切り開いていく開拓者であり、あらゆる状況に備え対応する軍師であり、どんな相手とも利害を一致させられるタフネゴシエーターであり、あらゆる謎を詳らかにする名探偵だ。
比喩ではなく、この娘こそ知の巨人である。
唯一の瑕疵であり、彼女の知を発揮する余地を失わしめていた戦闘能力皆無というディスアドバンテージも浅江遥斗という随一の戦闘強者の協力を取り付けられたことで解消され、彼女の能力が十全に発揮されだすことにより、物語は凄まじい勢いで推進されはじめる。
そうすることで、異界や悪霊といったこの世界に現れた存在に対しての解像度がどんどんと鮮明になっていくのだけれど、それに併せるように天理や遥斗の人となり、人物像もまたグイグイと掘り下げられていくんですね。そこから見えてくるのは彼らの見た目とは裏腹の、あるいは見た目通りの姿から垣間見える壮絶な覚悟。ただ生命を掛けているのではない、彼らの戦う理由。異界へと挑む理由が見えてくるのである。
むしろ、周囲の人間の方が彼らの覚悟に対して、自身のあり方と突き詰められ、自分の中の覚悟と向き合わされはじめるんですよね。
ストーリー展開の紆余曲折、どんでん返しの連続もまた、かなりのジェットコースター展開とも言えましょう。いや、ジェットコースターみたいに事前の覚悟を準備できるような展開じゃなくて、いきなり不意打ちで意識の死角からぶん殴ってくる展開、とも言うべきか。
その衝撃度も、いきなり強烈なのが飛んできて最初からこんな急転直下の展開をぶっこんできて大丈夫なのか、と思ったら進めば進むほどさらに規模と衝撃度を増した急展開が待っているのだから、そりゃ盛り上がらざるを得ないですよ。
しかも、天理ちゃんは見事にその不意打ちに対応、どころか場合によっては想定済みです、とばかりに真っ向から打ち払ってくれるのですから。
それでも、クライマックスからの展開には度肝を抜かれっぱなしでしたけれど。特に、真の黒幕が正体を現した……段階でもう自分なんかまじかよ!?とかなりあっけに取られてたんですけどね。そこで作中一番の盛り上がり、かと思ったらラストにさらに天理ちゃんやってくれましたからね。
遥斗くんのあの叫びは、いわばこの物語の最大のテーマと命題・オーダーの提示であり、シリーズが続いていく上で一つずつその最終回答を手繰り寄せていく、そういう物語かと思ったら、天理ちゃんってば次のシーンから速攻でその最終回答の「解体」をはじめるものだから、ちょっちょっうええええ!? とガチでびっくらこいた、度肝を抜かれたんですよね。
いや、もうマジでこの娘とんでもねーわ。
でも、その「解体」ですらある意味前提でしかなく、天理にとっても相手にとってもネゴシエイトの札の一つでしかなく、むしろそれが前提でしかなかった事で物語のスケールがさらに一回り膨れ上がり、それを当然と受け止める彼女達の存在感は強烈にいや増すばかり。
ちょいとテンション上がりまくってしまいました。
天理ちゃん、見た目思いっきりギャルですし、あんまりアタマ良さそうに見えずどちらかというとフィジカル高めっぽく見えるキャラだけに、この聡明さ、理知、強かさ、シャーロック・ホームズばりの観察眼と博識さはギャップ萌えだよなあ。それでいて情に厚く、人好きする性格というのも理性的なキャラにありがちな冷たさも感じないですし。むしろ、ムードメーカー的な賑やかさもありますしね。まだまだ、彼女自身も知らない秘密が天理ちゃんには隠されていそうですし。どうして、天理には善霊がついていないにも関わらず、霊器が使えるのか(使えてないけど)。彼女が探す異界に消えた母親の行方は、などなど。
何にせよ、もう天理ちゃんの強烈な存在感が作品そのものの牽引力になっていたのは間違いないでしょう。遥斗くんの素っ気なさも、あれも後半行くと口癖の「そうか」にも結構感情が乗っていて、あれで色々とわかりやすい性格なのがわかってきて、親しみが持ててくるんですけどね。巻末の短編で、得意分野についてやたらと早口で喋りまくるキャラも定番なんだけど、遥斗くんのキャラクターからすると中々面白すぎて、良かったなあ。

ともあれ、一巻にしてキャラについてもストーリーについても掴みは最大限に掴みまくってくれたんじゃないでしょうか。これだけ二転三転する展開で盛り上げてくれた上で、これは前座で舞台を整えるための準備段階で、本番はこれからだ、とばかりに次へと送り出してくれましたからね。テンション上がりきった段階でこれは嬉しい悲鳴です。次巻への期待はいや増すばかり。
藤木先生の最高傑作になりますよ、これは!