【転生王女と天才令嬢の魔法革命 6】  鴉 ぴえろ/きさらぎ ゆり 富士見ファンタジア文庫

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“ヴァンパイア”。婚約破棄騒動のすべての元凶にして、パレッティア王国の敵。
その脅威がもう眼前に迫っていることを知ったアニスとユフィたちは、対策を急いでいた。
そこに、東部から「ヴァンパイアを捕まえた」という急報が入る。
駆け付けたアニスたちの前に、永遠を求めるヴァンパイアの長が出現し!?

「私はライラナ。世界の全てを私が取り込むことで、永遠の平和を築くのよ!」
「お前の言う幸福は、ただのエゴの押し付けだ!」

竜を宿すもの(アニスフィア)&精霊契約者(ユフィリア)VS最強の吸血鬼(ライラナ)。
人として生きる上での”幸福”とは何なのかを問う最終決戦が、今始まる!
王宮百合ファンタジー、未来を繋ぐ感動のクライマックス!

あ、そっか。レイニってイリアと百合百合でイイ仲になっていたんでしたか。主従で二組百合カップルが誕生してたんだよなあ。この国、先進的だよなあ。
ヴァンパイアという種族の蠢動が予想される中で、レイニを産んですぐに亡くなったという母親の過去の軌跡を追うこととなったアニスたち。
アニスの方が女王に即位していたら、こんな風にフットワーク軽くあっちこっちには行けなかっただろうからなあ。ユフィは女王としてお留守番ですし。
しかし、レイニの母は徹底して自分の正体を伏せたまま冒険者として活躍していたのか。かなり明るく社交的な人物だったようなので、彼女のことを覚えている人は沢山いたのに、詳しい話は誰もなんにも知らないというあたり徹底している。この辺、レイニのパパである男爵が知らなかった以上なかなかそれ以上に詳しい話を探り当てるのは難しかったんだろうなあ。
これだけ聡明そうな人物がレイニが成長した際に起こるだろう力の制御の問題について把握していなかったとは思えないんだけれど、そのあたりどうなっていたんだろう。
レイニの母の死因についても、そう言えば不明のままで終わってしまったんですよね。どうやらかなり正確に自分の死期を悟って行動していたみたいなんですよね。死ぬ直前まで元気そうだったのに、自分が死ぬ前提で色々と準備していた、というあたり彼女は自分が死ぬ理由についてはちゃんとわかっていたみたいなのだけど。これ、吸血鬼は子供作ったら死ぬとかだったら結構ヤバい話なだけに、明らかにしておいてほしくもあるのだけど。
いやまあ、レイニのパートナーはイリアなので子供作ることはないのかもしれませんけれど。

さて、急転直下でアルくんが収める東部辺境をはじめとして、突如ヴァンパイアの襲来が。いやまじで急展開だな。しかも、吸血鬼という国や集団が襲ってくるのではなく。
ちょっと唐突すぎる展開だとは思ったし、いきなりラスボスが前座(っぽいのとは戦ったけど)抜きで襲ってくるとは。相手であるライラナの正体とか目的とかヴァンパイアたちの現状とか、殆ど詳しい話を聞く前に本人が突撃してきちゃいましたからね。唐突は唐突でしたよ。
だもんだから、いきなりラスボス級の敵が現れたとしても心構えというか、盛り上がりも最初は低かったんですよね。だって、正体不明で目的もあやふやでそもそも初対面でどういうキャラクターなのかもわからない敵が突然現れても、なんかこう気持ち的にも作業的になっちゃうじゃないですか。
敵ってのは強いだけじゃなくて、相手の意思やあり方との対峙こそがこっちのテンションとか覚悟とかを高める要因になるじゃないですか。読者サイドからの視点としても、戦う理由ってのはどれだけ没入できるか、前のめりに気持ちが入るかの大事な要素ですからね。
なので、あれあれ大丈夫かー? と思う所だったのですけれど。
凄かったのはこっからで、アニスとの激突を繰り広げながら、同時進行でライラナというキャラクターの掘り下げを開始したのである。同時進行ですよ!? むしろ刃鳴り散らすことで相手を理解していく、とでも言うように。
そもそも、アニス達の前に現れたときのライラナって、世界を滅ぼし世界中の人々を救ってあげるんだ、という自分だけしか理解できない、多分自分でも感覚的に捉えているだけのふわっとした理由、いや理由にもなっていない衝動だけで動いていたのに、アニスと戦って戦って自分の主張を述べ、その反論や新たな解釈をアニスが語るのを聞く内に、この娘、ライラナ、自分がなぜ戦っているのか、どうしてこんな衝動を持つに至ったのか。自分が何が許せず、何を求めていたのか。自分の行動原理について、自分の本当の意思について、自分の本当の願いについて、錆を落としていくかのように、原石から宝石を研磨していくかのように鮮明に、明確に、具体的ではっきりと形のある意思と決意を見つけていくのである。
時間経過とともに、曖昧とした敵に過ぎなかったライラナというキャラクターがどんどんと輪郭をはっきりさせていくのである。それはもう新しい再誕と言ってもいいくらいに見違えていったのである。
解体と再構築。
それは弟アルとの対決。またユフィの決意の中でも見られた本作における登場人物の掘り下げ、その体当たりといってもいいダイナミックでリアルタイムで行われる具体化であり言語化なのだけれど、その精髄をまたここで見せつけられた感じなんですよね。
最初にライラナがアニスに対して抱いた特別な感情に対しても、単なる衝動ではなくどんどんとリアルで確かなつかめる気持ちとして成立してくのがまた、なんともはや。
これ、全部戦闘中。ガシガシとすさまじい攻防を繰り広げながらだからなあ。いやあ、凄えですわ。
アニスとライラナ。戦う内にどんどんとお互いに理解し合い、その過去も生き様もさらけ出し合い、共感して心ふれあい、だからこそ不倶戴天であると否応なくわからさせられる。
それでもアニスは縋るんだけれど、自分の事をようやく理解したからこそ、そしてアニスに好意を抱きそれは恋に近い気持ちを抱いたからこそ、決して相容れないのだと悟ったライラナの喜びと諦観。
ライラナこそが、あり得たアニスの可能性の一つ。誰一人として身近に寄り添ってくれる人のいなかったアニスの姿だというのを、痛いほど痛いほど感じさせてくれるんですよね。
アニスには理解してくれなくても、ちゃんとアニス個人を愛して寄り添ってくれる人が居た。両親である先王陛下と王妃さまは暴走する娘にアタマ抱えながらも放り出さずにずっと寄り添ってくれてましたし、ユフィと出会うまでイリアがずっと側でアニスを守り続けてくれていた。冒険者として外に飛び出したときも、アニスのことを仲間として扱ってくれる人たちも沢山いた。
アニスは長らく排斥されて、悪意にさらされ、未だに人を本当の意味でなかなか信じきれない難しい少女だけれど、それでも彼女の心の道は周りの人達に守られ支えられていた。
でも、ライラナには誰もいなかった。彼女を崇め奉る人はいたけれど、彼女個人を理解し受け入れてくれる人は誰も居なかった。その違いが、こんなにも大きな相違を産んだ。一つ間違えれば、アニスも似たような存在になってただろうな、というのが伝わってくるんですよね。
でもライラナはそれがわかっても、アニスに憧れはしても嫉妬したり呪ったりはしなかったんですよね。二人は誰よりもわかりあえる無二の友になれたかもしれない。いや、かもしれないなんて仮定は必要なく、これ以上なく心通じ合う関係になれたのでした。それこそ、ユフィが嫉妬に狂いそうなくらい。
でも、だからこそ二人は相容れず、どちらかが倒れなければならなかった。いや、ライラナは自分が倒れないといけないと思ったんでしょうね。
そして、彼女は受け入れた。それ以上にアニスとここで出会えた事が嬉しかったから。自分という存在がどのように生きてどのように滅びるかを、ちゃんと自分でわかって、理解して、自分の意思で選んで自分の覚悟で貫けたから。だから、後悔もなく納得して、満足して終わることが出来る。
ただこの負の衝動に突き動かされて何もかもを滅ぼすか、そのまま巨大な未知の感情を抱えたまま潰えるかしかなかった自分が、笑って満たされて終わることができる。
それはライラナにとって、手にすることの出来ないはずだった幸せだったのでしょう。アニスにとっては、辛い結末だったでしょうけれど。

正直、ここまでの短期間でただのフワッと情報もなくよくわからない唐突に現れただけのラスボスが、無二の親友にして最大の理解者へと変貌、いや進化か、覚醒していくのを見たのは初めてでした。そのまま煌めくままに消えていってしまうまでも含めて。
この戦いを通して、アニスは人の範疇から外れ、人の形をした竜となり、ユフィと同じ時間軸の中で生きることになる。ユフィを独り置いていかず、永遠に寄り添い続ける愛の番となったのだ。
もうなんかこれでアニスとユフィの物語としては行く所まで行った気もするんだけれど、シリーズ完結ではないのかな? あらすじだとクライマックスって書いてあったから、あるいはこれが完結巻かと思いながら読んでいたのですけれど、あとがき見ると一区切りついたものの、まだ続く感じなんですよね。
さて、どうなることやら。