【エンド・オブ・アルカディア】  蒼井 祐人/GreeN 電撃文庫

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彼と彼女は敵だった。二分された世界で、同じ孤独を抱えていたと知るまでは

☆☆☆第28回電撃小説大賞《金賞》受賞作☆☆☆
バトル×リスポーンで、生還不可能なS級ミッションを攻略せよ!

彼らは安く、強く、そして決して死なない――。
究極の生命再生システム《アルカディア》が生んだのは、複体再生〈リスポーン〉を駆使して戦う10代の兵士たち。戦場で死しては復活する、無敵の少年少女〈死を超越した子供たち〉だった。
二大大国が覇権を争う大戦の最前線。合衆国軍のエースとして小隊を率いる少年・秋人は、戦績不振を理由に全滅必至な機密情報の回収任務〈サルベージ〉を命じられる。しかし予期せぬ戦闘と崩落で仲間を庇った秋人は、因縁の宿敵である連邦軍のエリート少女・フィリアとともに、複体再生〈リスポーン〉不能な地下深くで孤立。性格もスキルも正反対で相性最悪な二人が協力して、地上への帰還を目指すことになり――。
死ぬことのない戦場で死に続けた彼と彼女の、邂逅と共鳴の物語が始まる!

ああ、そうか。これって現実化したFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)なのか。
昨今、一大ジャンルと化したFPS、実はまったく触ったこともないので馴染みがなかったものだから、この作品とFPSとがアタマの中でつながらなかったんですよね。
言われて見ると、死んだその場でリスポーンして何度も死ぬ事を前提にして攻略していく、というスタイルはそういう事だよなあ。
でも、そっちの発想がまずなかったものだから、サーバー上に保管された生体データによって何度死んでも復活する事が出来る、という不死の兵士という概念自体は珍しくないな、と思いつつも、まさか戦場の最前線にまで生体プリンターを持ち込んで、現場で肉体を再生して即座に戦場に再投入されるという壮絶なシチュエーションにかなり圧倒されたんですよね。
ゲーム内の仮想空間上とかならともかく、現実世界で保管データから肉体を再生させるというシチュだと、どれほど簡便でも本拠地とか再生工場なんかで再起動して、という形でしたしね。そうか、丁度今期アニメ化もされて放映されている真っ最中の【ニアオートマタ】なんかもまさにそんな感じでしたしね。いずれにしても、どれほど簡単に再生できると言っても現実においてのルーティーン、死亡→再生→戦場への再投入にはそれなりの時間とコストが掛かるもの、という認識が常識としてアタマの中に刷り込まれていたのが、本作ではほぼタイムラグなしのリスポーンアタックですからね。ちょっとした衝撃ではありましたよ。
特に、直前に戦死した自分の死体を横目に見ながら進撃する、みたいなシーンなんかを見せられては。
仮想空間・VR空間などと違って、実際に生身の肉体をプリントアウトする以上そりゃ死んだら死体も残りますよ。自分の死体を見せられながらさらに戦って、また死んで。おまけに相手も同様で自分たちと相手の同じ死体が山と積まれている中でさらに死体を量産し続ける戦場って狂気的ですよ。
しかし、実際に戦っている少年少女たちは、自分たちが置かれている状況、状態に対してさしたる違和感も抱いていない。自己同一性を疑うなんて余裕もなく、何度も何度も殺し殺され続けているという状況に対しても何に恐怖も抱いていない。
死ぬことに対して忌避感がなく、殺すことへの嫌悪感もない。なぜなら、自分たちも相手もすぐに生き返るから。そりゃあ、価値観もバグりますわ。
殺される際は痛みなどもあるんだろうけれど、元々そのために作り出された彼らはそのへんの精神抗体みたいなのを備えているんだろうか。

ともあれ、冷静に考えるなら異常極まりない状況を誰も不思議とすら思っていない中で、主人公の一ノ瀬秋人はいつしかこの殺し殺される事が当たり前になっている状況に違和感を感じ、簡単に生き返るとはいえ人を殺すという行為にイイ知れぬ嫌悪感を感じるようになっていた。
一方で自分が敵兵を殺せなくなった事で自分が率いるチームの成績が露骨に低下してしまう。二十歳までにあげた戦果で退役後の未来の選択肢が左右される彼らにとって、それは未来そのものが閉ざされてしまうのと同意義。仲間たちの未来を守るためにこの自分の中のどうしようもない嫌悪感を無理やり押し殺すしかないのか。自分の中のこの感覚を仲間に語っても全く理解して貰えない孤独感に苛まれながら苦悩する秋人。
一方でライバルとしてずっと殺し合ってきた相手陣営のフィリアとは、不思議な共感みたいなものが湧いてきていて……と言ってもフィリアの方は戦場で出会ったら即殺す、と別に交流が生まれているわけじゃなかったんですけどね。それでも、下手をすれば仲間たちと過ごすよりも長い時間を濃密な密度で過ごし続けていた好敵手同士。誰よりも相手の意思を思い描き、何よりも相手の動きを行動を見つめ合い続けた関係というのは、会話をかわさなくてもいつしか相手の思うこと考えている事がわかる以心伝心のような関係に……なんて甘酸っぱい関係になるわけじゃないのですけれど。
それでも、生体データのバックアップをとるアルカディアとのオンラインが途切れ、死ねば復活できないエリアへと落とされ、はからずも敵同士ながら生き残るために共闘と相成ったときに、それまで繰り返されてきた二人だけの濃密な時間は、確かに秋人とフィリアを即席ながら無二のパートナーへと仕立て上げたのである。
まあ、最初は当然のごとくちょっとでも気を抜けば殺されるかもしれない、という油断なんて出来ない緊迫感ある……バチバチに警戒し合う関係ではあったのですけれど。
それでも、仲間たちは大切で信頼できる友人たちなんだけれど、秋人は前述した通りにどこか孤独に追いやられ、フィリアも偶像を自ら演じることで親友と相棒のドローンAIを除いて素の自分を見せることの出来ない窮屈さに息をつまらせていた所に、敵同士だからこそ遠慮せず本音をぶつけ合える相手との二人きりというシチュエーションは、死ねば今度こそ生き返れないという緊張感に苛まれつつも、どこか自由に心を伸び伸びと開くことが出来て、徐々に二人は打ち解けていくのでありました。
元々ライバル同士として濃密な時間を過ごしたことがここで生きてくるんですよね。実際に面と向かって相手の人となりを知り、本音をぶつけ合うような会話することで、戦いを通じて理解し合ったナニカが本当の意味で通じ合ってしまった。挙げ句、本当の意味で命がけの戦場でお互いに死地をくぐり抜け、かばい合い、生命を助け合ってしまった。
もう閉じ込められたオフライン領域を脱出して元の陣営に戻っても、果たして再び何度も殺し合うような敵同士に戻れるのか。脱出の目処がつけばつくほどの自分が相手に惹かれつつある事を自覚していく、早く死が死でなくなる元の場所に戻りたいと願いながら、同時に戻りたくないと思ってしまうアンビバレンツ。
いいですよね、こういう甘酸っぱいというには命がけすぎる、でもだからこそ切なく疼くシチュエーションは。

そして生還間際に、自分たちが落とされ脱出を図っていた謎の領域の秘密を、そしてこの繰り返される絶対に死なない死の戦場の真実を秋人とフィリアは知ってしまい、本当の戦場へと立つことになるのである。
……いや、やっぱり甘酸っぱいよ! 命がけの戦場だからこそ、生命の瀬戸際だからこそ余計に際立つ愛の告白。思いの発露を若さに任せて叫んで掴む。それこそ、生きるって事だよ、恋せよ若者たち。