【この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した 1】  シノノメ公爵/伊藤 宗一 HJ文庫

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全てを失った『偽りの勇者』の真の力が覚醒する!!

ジョブ『偽りの勇者』を授かったフォイルは、役割に従い親友をパーティから追放し、そして『真の勇者』に覚醒した親友により討たれた――はずだった。
偽物の勇者であっても人に尽くしてきた彼の素顔を唯一知るエルフの少女アイリスによって救われたフォイル。彼女に「わたしの勇者様」として肯定され、勇者のように人々を救うことに憧れていたことを思い出したフォイルは、陰ながら人々を救う新たな冒険の旅に出ることを決意する!
「悪役」の宿命から解き放たれた影の英雄による救世譚、開幕!!

いわゆる追放モノの派生形。主人公が様々な理由から所属するチームやパーティー、団体組織から追放され、その先で新たな力が目覚めたりそれまで評価されていなかった能力が認められたり活用法を見つけたりして活躍を始める。その際に主人公を追放した側が見る目がなかったりでざまぁな目にあってしまうのもセットだったりしますね。
これが追放モノの基本形だったりするのですけれど、こうした一つのジャンルを形成するほどになる類型というのは、繰り返し繰り返し創作の題材になればなるほど同じようなパターンが繰り返されて、読む方も書く方も飽きてくるし目も肥えてくる。そうすると、基本形や王道的な展開から意図的に外れたパターンのものが生まれてくるんですね。創意工夫を凝らした多種多様、多岐に渡る派生形が現れだすのです。これはもう、昔から古来から。こういう派生パターンが生まれだし、思わぬ視点や発想からの掘り下げが現れだすということは、それだけそのジャンルが成熟しはじめたということになるんでしょうねえ。
本作もその一つ。本来敵役が担うはずの主人公を追放する側の人間にスポットをあて、そちらを主人公に据えて描いていく物語であります。追放する側が主人公、という作品も最近はチラホラと見かけるようにはなっていたのでありますけれど、これは面白いことにどうやら一度死んだと思われていたライバルが実は生きていて、主人公たちが絶体絶命のピンチに陥った時に颯爽と現れて窮地を助けてくれる仮面のヒーローもやってくれるみたいなんですよね。いや、本作では仮面のヒーローの方が主人公なのですが。
でも「真の勇者」であるユウの方もこれちゃんと良い子なんですよ。幼馴染であるフォイルが生命を掛け名誉を捨て人生を投げ売ってでも守りたいと思うのを納得してしまうほどに。フォイルがユウをパーティーから追放したのも、徹頭徹尾ユウのため。ユウが真の勇者として覚醒するのを信じての事でしたからね。
そもそも、フォイルは既に幼少の頃に大きな挫折を経験しています。子どもたちで遊んでいる最中にハグレ魔物に襲われた時、普段からリーダー格として振る舞い勇者を目指すと公言していたフォイルは、だけど重傷を負った友人を見捨て、立ち向かおうとするユウを置いて逃げてしまったのです。
しかしユウは最後まで勇気を振り絞って魔物に抗い、怪我をした友達を見事に救ったのでした。
これ完全にフォイルが屈折して歪んでしまうパターンなのですが、彼はちゃんと誤魔化さずに挫折するんですよね。自分の行いを恥じ入り後悔し、弱くとも魔物に立ち向かったユウを心から尊敬し、もう二度と逃げないと、今度こそ大切な人たちを守るために、助けることが出来るように強くなりたい、と願うようになるのである。
このときフォイルは、名誉欲や承認欲求からではない、自らが望む強さの方向性を見つけ、それに邁進していくことになるのです。
だから神託によって、フォイルが勇者に選ばれた時。そしてその真実が「偽りの勇者」であり、本当の勇者がジョブ無しとされ周囲から見下されてしまったユウの方だと悟ったとき、彼は自らのすべてを費やして、いつか真の勇者として目覚めるであろうユウを助けようと誓うのでした。
でも魔物たちの脅威以上に、神託を価値基準の中心に置いた今の人間の社会のあり方が、そしてフォイルを勇者として持て囃す貴族階級の傲慢さが、ただ苦しむ無辜の人達を助けたいというフォイルの思いを踏み躙り、世界を救うはずの勇者のパーティーが逆に民を苦しめ憎まれていくことにフォイルを苦悩させ、追い詰めていくのである。個人としてどれだけ人を助けようとも、彼を勇者として祭り上げる支援者、権力者たちが。そして幼馴染以外の勇者パーティーの面々がどんどんと悪逆非道を重ねていき、フォイルを自分たちの栄華の象徴として担ぎ上げていく。このあたりのフォイルの自身の無力さ、助けたいという思いが叶わず、むしろ犠牲を強いていってしまい、手を差し伸べる事も出来ないことに苦しむ姿は、こう言っちゃなんですがむしろ唆るw
そしてだからこそ、余計に偽物の勇者として、悪役として自らを任じ演じることへと傾倒していくんですね。いつか、自分を倒しに来てくれるだろう幼馴染たちに、聖剣と後事のすべてを託すことを願いながら。
このあたりの偽物の勇者を演じるフォイルの諦観と悲愴とユウたちへの焦がれるように期待感を抱きながら、望んで破滅へと突き進んでいく姿はなかなかくるものがありました。
だからこそ、真の勇者となってフォイルの前に現れたユウと、幼馴染の少女メイに後を託して、まあ思いっきり死んだつもりだったのに、勇者やっている時に助けたエルフの少女に生命を救われ、ある意味課せられた役割から解放されたフォイルは……あれ、ちょっと解放感に浮かれてるところありましたよね。
ちょっとアタマお花畑な能天気入ってるエルフの少女アイリスに煽られたとはいえ、自分で「救世主(ヒーロー)」を公言してキリっとドヤ顔して憚らないのはちょっと恥ずかしかったぞw いや、心の奥でそう思い、そう目指すのは全然イイと思うんですよ。何なら魔王軍の強敵相手に、決意表明的に高らかに名乗るのもまた格好決まると思うのですけれど。初めて訪れた村で門番から仮面つけた不審者として何者かと誰何された際に、「救世主(ヒーロー)」だよ、とドヤ顔で名乗るのは相当浮かれポンチじゃないですかね!?
まあうん、わかるんですよ。これまでのプレッシャーとか重たすぎるニセの勇者なんて役割にずっと閉塞され覚悟ガンギマリのまま過ごし続け精神的に疲弊していた中で、何もかも失った代わりに何もかもから自由になり、今度こそ思うがままに人を助けることが出来る、という解放感はそれこそ籠から出て自由に翼を羽ばたけるような心地でしたでしょうし。
でもやっぱりちょっと恥ずかしいッ。

このヒーロー編に入ってからのフォイルは、ひたすら爽やか青年で生意気なガキ大将だった子供の頃とはだいぶ印象違っているんですよね。何なら、一人称を僕に直して品行方正な勇者として振る舞っていた頃よりもむしろ、ヒーロー編に入ってからの方が「僕」が似合ってしまう性格になってたんじゃないだろうか。俺という人称に戻してますけれど、逆に似合わなく感じもありましたね。変にさっぱりと爽やかになりすぎて、個性というかクセもちょっと薄くなってしまった感もあって、個人的には子供の頃のユウやメイを引っ張り回すガキ大将っぽい感じや偽勇者やってた頃の悲愴感たっぷりのガンギマリの感じの時の方が存在感に色があって好きだったかな。まだ今のフォイルは若干キャラが定まってないフワフワした所もある気がします。
その分、エルフのアイリスがアーパー入った天真爛漫さで強烈に牽引して騒いでくれているので、賑やかさと明るさで随分と雰囲気を良くしてくれているのですけれど。このちびっこエルフ、おチビで明らかに精神年齢低いにも関わらずお姉さん風吹かせて、うんうん可愛いですなあ。
フォイルも命の恩人ではあるけれど、その前になんか気分的に保護者しないとって感じになって振り回されてますし。一緒に浮かれてる感もありますけど。完全に恋愛脳になってるアイリスとしては、フォイルのその保護者的反応は心外なのかもしれませんが。

とまあ、魔王軍の幹部格と遭遇戦となり、偽勇者として最初期は聖剣から恩恵を受けていたものの、真の勇者が覚醒しはじめた後半になるほど、逆にデバフが掛かっていた状態の中で戦い続け鍛錬し続けた経験が、すべてを失いすべてから解放された時に、何者にも影響されない純粋なフォイルの実力として開花するのはなかなか痛快な展開でありました。
ある意味しがらみから解放されて伸び伸びとやってるフォイルに対して、幼馴染を・親友を自らの手で殺めてしまった(と思い込んでいる)ユウとメイの悲しみの後悔と苦悩は、さながらフォイルのそれをそのまま倍にして受け継がされたようなもので、こちらはこちらで可哀想なんですよね。
フォイルが権力に溺れ、力に振り回されて悪堕ちしてしまったわけじゃなく、昔と何ら変わることなく、何もかもをユウたちのために費やし投げ捨ててくれた、というのを間際に理解させられてしまったが故に、尚更にユウたちとしてはショックを受ける状況でしたからね。
これで、二人はフォイルの犠牲という十字架を背負わなくてはならなくなった。勇者として世界を救う、そこに使命以上の成さねばならない理由が出来てしまった。今度覚悟ガンギマリを強いられるのは彼らの方になってしまったんですよねえ。良い子たちだけに、フォイルのために二人で思いっきり泣きじゃくることの出来る子たちなだけに、あんまり追い詰められてほしくはないのですけれど。
世間的には偽勇者として告発され犯罪者扱いされて、表に出れない立場になってしまっているフォイルですけれど、お前さんホント早いところユウたちには安否伝えてあげた方がいいですよ。本人、そのつもりサラサラなさそうですけれど。ほんま、君そういうところやで?
フォイルとユウの間で色々と面倒見てきただろうメイちゃんの苦労が想像できるというものです。いっそ、アイリスみたいにアーパーな方が相手としてはイイのかもしれませんねえ。

というわけで、偽勇者からヒーローへと新生したフォイル。ヒーロー活動はまさにこれから、といった所なのですが、魔王軍の八戦将も本格的に動き出していますし、勇者ユウの動向も相まって、ある意味誰からも縛られていないフォイルの存在がどのような影響を及ぼしていくのか。
面白いシリーズ作品がはじまりましたよ、楽しみだ。