【エロゲのヒロインを寝取る男に転生したが、俺は絶対に寝取らない】  みょん/千種 みのり 角川スニーカー文庫

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奪われる前からずっと、「あなたのモノ」ですから♪

気が付いた時、エロゲの世界に転生していた。
【僕は全てを奪われた】という寝取られエロゲの主人公・佐々木修……ではない。
修を献身的に支える幼馴染ヒロイン・音無絢奈を修から寝取る親友キャラ・雪代斗和に、だ。

幸いゲームのストーリー開始まで一年も猶予がある。
自分に寝取りの趣味はないし、俺が彼女を奪わなければ二人は幸せに結ばれるはず……なのに。

「二人っきり……ですね?」
修がいなくなった途端に体を密着させてきた絢奈は膝の上に乗ってきて──もしかしてこの二人、ゲーム開始前からすでに関係しているのか!?

これってNTR(寝取られ)?
BSS(僕が先に好きだったのに)?

どちらでもない、濃厚純愛ラブストーリー開幕!

寝取っとるやんけ!
まあこれは転生したてで現状や周囲の人間関係を良く分かっていなくて、ただ寝取りゲーに転生してしまったとだけ理解している状態の時の決意表明なので、実情がわかっていたあとだと意味をなさないよなあ。
それにこれは正確にいうとNTRになるんだろうか。ゲームの主人公である修……いや寝取りゲーってプレイした事がないんだけど、寝取られる奴が主人公としてプレイするの?これ?
まあそれはともかくとして、身近な女性たちを他の男たちに奪われる事になる修に対して、実は幼馴染の音無絢奈は最初から好意を全く持ってないんですよね。表向きは親密な幼馴染として、さながら夫婦みたいな関係と思われているにも関わらず。そして、絢奈が幼い頃から想いを寄せているのは本作の主人公で、原作ゲームでは修の親友でありしかし絢奈を寝取ることになる青年の方だったと。
最初から斗和の方を好きだったのなら、これ寝取られにならないんじゃないだろうか。むしろ、幼馴染関係を強いられている方が実質寝取られ状態で、それを奪い返したと言えるんじゃないだろうか。
……いや、斗和の方は何もしていなくて、絢奈の方からこっそりと関係を迫って迫って実を結んでいるので、奪い返したもなにもあったもんじゃないのですが。
何にせよ、彼らを取り巻く状況のあらかたがいびつに歪んでいるんですよね。そして、斗和を除いた殆どの登場人物の在り方はグロテスクとしか言いようがないものになっている。ヒロインである絢奈ですら同様だ。同様というか、その極みの方だ。それだけ、彼女を取り巻いていた幼い頃からの環境が凄まじく歪んでいたという事なのだろう。
元凶と言えるのは、彼女絢奈の家族、特に母親がそうなのだろう。いやほんとに、親に強いられる幼馴染関係とか聞いたことないよ。子供に無理やり幼馴染だからと四六時中隣家の子供と遊ぶように強いる、それも他の子供と遊ばないように強圧的に命令しながら強いるとかどう見ても虐待なんですよね。政略結婚とかならまだ家の事情とか理由が理解できるのですけれど、そういうのもなさそうですし。毒親だよなあ、ココまで来ると気持ち悪いとしか言いようがない。
幼い頃からそうやって抑圧され続けた絢奈の精神状態がどれほど酷いものになっていたかは想像に固くないのですが、そうした彼女の気持ちを解き放ってくれたのが斗和との出会いでした。これがガス抜きになってもしかしたら良い方向に進む可能性もあったのでしょうけれど、彼らを見舞った事故が、そして絢奈を押し潰そうとしていた家族たちの意思が、悪意となって斗和を巻き込み傷つけたとき、絢奈は決定的に変質してしまったのでしょう。悪鬼羅刹、あるいは鬼子母神というべきか。愛情故に愛する者のために憎悪を煮詰めてしまった怪物と化してしまった。
修の方はまだ被害者と言えなくもない立場です。彼自身は特に意図を持って絢奈を苦しめているわけじゃないですしね。周囲の環境を何も考えずに受け止め、親密に接してくれる絢奈に恋をする。仮面を被り続けた絢奈の真意に気づかず、表向きの態度をそのまま受け続けたらまあ勘違いもするでしょう。
ただ、修という人間自身に卑賤な性質が見え隠れもしてるんですよね。自分自身に責任を負わず、他人に責任を押し付けるような。少なくとも、斗和に助けてもらっていながら斗和が未来を失ってしまった原因を自分が作ったことに対して、自分は悪くないと責任から逃げている時点でろくでもなさが見えてしまっています。絢奈に好意を抱きながら、彼女に守られるばかりで自分で守ろうともしない。はっきりと告白もせず、現状をダラダラと維持するばかりでなんとなくそのまま絢奈と結ばれて結婚するんだと、巣の中で餌を与えられるのを待って口をパカパカ開いているだけの雛みたいな幼児性が垣間見える。まあ実際、周りの人間達がその開いた口に絢奈という餌を放り込もうとはしゃいでいるのだけれど。そしてそれを邪魔する蛇とかカラスかのように、異分子として斗和を異様に敵視し排除しようとしている。一方で、餌として放り込まれそうになっている絢奈は自分の身代わりに毒餌を仕込んで、斗和を傷つけた人たちを皆殺しにしようとほくそ笑んでいる。
……うむ、まあ見ていて気分の良いものではないですなあ、これは。何も知らないのは斗和ばかり。
ただ、何も知らないままだと原作の寝取りゲーのまんま事が進んで事が終わってしまうんですよね。この一巻の段階では、ほぼ原作ゲームの通りに進行しているんじゃないだろうか。でもそれだと、斗和の中の人が斗和に転生した意味がない。果たして、彼はどうしてこの世界に転生してしまったのか。
その理由、というかこの物語の真のテーマが明らかになるのはようやくラストに至ってからだ。
すなわち、悪鬼と化した絢奈の救済。真の愛を掴むとしても、その一方で策謀を巡らせて悲劇を撒き散らす彼女。幸せになれるのかもしれないけれど、その心身は罪業に塗れてしまっている中身は壊れ果てた女の有り様。そんな彼女の心を、真の意味で救えるのは絢奈の真意を、傷を、苦しみを斗和が気づいてあげれるかに掛かっている。
とはいえ、助ける相手が果たして絢奈だけで他の連中は結局同じ末路をたどるのか、それとも修にも心改めてまともな男になる機会が与えられるのか、などどこまでやるかは定かではないんですが。
ってか、斗和が気づいてあげられたくらいでこれどうにかなるんだろうか。あんまりにも誰も彼もがグロすぎて修正きかなさそうなんですがw