【サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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第二王子を狙う次なる敵は――竜!? 全く気の休まらない冬休みが始まる!

学園も冬休みに突入。当然、極秘任務もひと休み――かと思いきや、今度は〈沈黙の魔女〉に隣国との外交取引の最中、第二王子を護衛する公式任務が与えられてしまう。
〈沈黙の魔女〉が生徒会会計と同一人物だとバレてはマズい!隠れファンである殿下との急接近に胃も痛む中、外交の場に突如竜が襲来!
しかも竜の暴れ方は尋常ではなく……?
一難去ってまた一難、第二王子も隣国の使者も全て守り切るため、無詠唱の魔女がその本領を見せつける第五幕!

うおおお、ようやっと全体像が見えてきたぞ。
これまで第二王子フェリクスはその真意が見えてこなかった。祖父であるクロックフォード公爵の傀儡として王位を目指す。でも、フェリクスは孫としても王子としても扱われずに、あくまで駒として公爵に扱われているようだったんですよね。そして、そんな扱いにフェリクスは唯唯諾諾と従っていた。でも心から従っている様子でもなかったんですよね。王位に対しても執着どころか本当は興味もなさそうで。本心では大好きな魔法にかまけていたい、という想いが透けて見えている。でも、そうした魔法への想いを余分なものとして切り捨てようともしている。
傀儡であることに不本意さを抱いているようにも見えないし、虎視眈々と公爵への反逆を考えている、という様子もない。でも、公爵の意図に賛同しているようにも見えない。
その優等生の仮面の奥に、果たしてどんな真意を隠し持っているのか、読者側である自分にも推察させない完璧な隠蔽を、フェリクスは自身の心にかぶせているように見えました。
それだけだと、得体の知れない不気味な人物、になってしまうのですけれど、時折どうしても我慢できずに吹き出してしまう、大好きな魔法への憧憬が。沈黙の魔女の大ファンとしての推し活ムーヴが、彼が年相応の男の子だというのを思い出させてくれるのである。
フェリクスという少年の本当の素顔が、結構な頻度でぶちまけられているのである。
にも関わらず、一旦仮面を被ってしまうと、彼が何を考えているのか。何を望んでいるのか。何を目的としているのかがさっぱりわからなくなってしまう。
そして、フェリクスの本当の意図がわからない以上、この物語が果たしてどこに向かって進んでいるのかも、わからなかったんですよね。
見えている部分は本当に面白い物語である一方で、俯瞰して全体像を見ようとすると途端に不鮮明になってしまう。この奥の見えなさがまた、この作品へのワクワク感を埋伏させていたような気もします。
主人公のモニカは、基本現実逃避しっぱなし。それも、この学園で様々な人と交流し、ただの女生徒モニカとして過ごすことで成長し、親しい人が出来て、他人を数字じゃなく血の通った人間として見ることができるようになってきた。それはそれでモニカという半ば壊れていた少女の成長譚であり社会復帰譚とも言えたのですけれど、その一方でモニカはあくまで命令によってこの学園に王子の護衛として通っていて、大方受動的。彼女個人の意思や目的というものは介在してきませんでした。
主人公でありながら、モニカは物語の牽引役ではなかったんですね。
そしてもうひとり、フェリクス並みに、あるいは彼以上に何を考えているかわからない。その動向が見えてこない。絶対に何かを考えているようで、しかしその一切を見せようとしない、存在感を伏したままじっと凄まじい眼光で周囲を睥睨していた女性がいました。生徒会役員の一人であり、フェリクスの婚約者候補の筆頭。シェイルベリー侯爵令嬢ブリジット・グレイアム。
彼女もまたフェリクスと同様に、この物語のもっとも未知で不穏な要素を担っている存在でありました。
フェリクスとブリジット、共謀している様子も一切なく、どこか無関心に近い壁を感じさせる彼らの関係は、だから果たして彼らの思惑の不鮮明さが連動しているのかどうかはっきりと確信も持てなかったんですよね。それぞれ別の理由、個別の思惑を、別件を抱えているのかとも思っていたのですが……。
フェリクスの真意がちらりと垣間見えた途端に、ブリジットの方もこれまで一切見せようとしなかった秘めた思いを、ほんの一瞬吐き出して。
そう、二人の決して誰にも見せようとしない覚悟が、同じ要因を起因としていることが明らかになるのである。
そして、これまで全体像を覆い隠していた霧が、一気に吹き払われる。断片的な情報で明言こそされなかったけれど、手がかりとっかかりとしてはそれで充分だ。
この国で何が起ころうとしているのか。そしてフェリクスが何を考えているのか。ブリジットが何を目論んでいるのか。
見えてきた。

では、じゃあ、護衛役にすぎない我らが沈黙の魔女モニカは、今までどおり少しずつ成長しながらこれから起こるであろう動乱に対しても、ただ友達を守らないという思いから状況に流される形で介入していく形になるのだろうか。
否、否である。
モニカ・エヴァレットもまた、ようやく舞台に自ら上がる。自らの意思で、自らの目的のために、自らの願いのために、鐘に誓った誓約を果たすために。
彼女自身の闘争を開始するのだ。

そう考えると。ここが、この巻こそがターニングポイントになるんだろうなあ。
いっそ悲愴と言って良いだろう壮絶な覚悟を決めているだろうフェリクスやブリジット。そしてまだ何も知らないものの、巨悪を予感しそれに立ち向かう覚悟を胸に宿し決意を秘めるモニカ。
そんな彼女たちに比して、今までうまく行っていなかった母親と、ようやくもう一度ただの母子に戻れて、取りこぼそうとしていた幸せを取り戻したシリル先輩の、穏やかで幸福な家族の夜が、なんとも胸に沁みました。
シリル先輩は今後、果たしてどういうポディションになるんだろう、これ。彼がある意味一抜け、というのも変だけれど、心を縛り付けていた鎖から解放されている、とも言えるんですよね。だからといって舞台の上から脱落する、という訳ではないでしょうし。むしろだからこそ逆に重要な立ち位置になってきそうな気配もあるんだよなあ。

今回は他の七賢人たちも、未だ登場していなかった人たちが何人か初お目見えになってましたけれど……これどう見ても七変人ですよね?
本気でマトモな人が誰もいないんですけれどw ルイスがまともに見える不思議。
能力的に怪物的すぎる連中が、性格的にも変人ばかりってもう制御不能に見えるんだけれど、これらをちゃんと七賢人として仮にも国家の要人として従えている、という時点でリディル王国って実は凄まじく柔軟でキャパシティー、器の大きな大国なんじゃないだろうか、と思えてしまうんですが。

この五巻、終わってみるとターニングポイントであり、これから大きく動くであろう物語の準備回でもあったんでしょうけれど、他にも色々とありましたなあ。
ネロの正体に関しては、そもそも使い魔ってよくわかってなかったからなあ。猫が正体だと思っていたので、まさかそっちだとは思わんかった。いや、使い魔にしても常識なさすぎるよなあ、と思ってたんだけれど、ルイスの使い魔のリィンもネロと大差のない常識知らずだから、使い魔なんてこんなもんだと思ってたもんで。

あと、本格的にエリアーヌ嬢がグレンくんに転んでしまったw
いや、エリアーヌってグレンのこと反発しているけれど妙に意識もしているから、これはこれは、とは思ってましたけれどね。なかなか素直にはなれないだろうなあ、とも思ってたんですよね。いやー、ここまでグレンくんがダイレクトにエリアーヌの命を体張って助ける機会がくるとは思わなかったし、もしエリアーヌが本気になっちゃったとしても、実家の方はフェリクスとの婚約を成立させようと考えているわけですから絶対実家と揉める羽目になるだろうし難しそうだなあ、とも思ってたんですよね。
……ところがところがあれあれあれ!? なんか実家のレーンブルグ公爵家、というか一番障害になりそうだったエリアーヌ母が思いの外好意的!? おやおやまあまあ!

さあ、ブリジットもついに動き出しそうだし、沈黙の魔女が学園にいることがフェリクスにバレてしまった。今の所、モニカがそうだとは全然フェリクスも考えていないみたいだけれど。
でも、モニカの方もコソコソと逃げ回るのではなく、あの誓いのために一番情報を持っているだろうフェリクスにこれまでと違った形でアプローチしていくことになるだろうし。
次巻から物語は大きく動き出しそうな予感。わくわく。