【かくりよの宿飯 八 あやかしお宿が町おこしします。】 友麻碧/ Laruha  富士見L文庫

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託されたのは雪国の復興!? 天神屋で培った葵のおもてなし力が試される!

白夜の語った大旦那様の過去を胸に、妖都から脱出した葵は、北の地を治める八葉のもとへ向かう。美しくも閉ざされた雪国で葵を待っていたのは、知られざる美味しい名産品と、懐かしいあの人物との再会で……!
武闘派の折尾屋がこうして全面的に味方になってくれていると頼もしさが凄いなあ。
というわけで、折尾屋の船に乗せてもらって、天神屋で仲居として働いていた春日が嫁いだ北の地へと向かう葵。
化け狸の春日と言えば、葵が天神屋に来た最初から仲良くしてくれた数少ないアヤカシの一人だったんですよね。お涼と静奈さんと春日と葵の四人で天神屋の娘衆って感じでいいカルテットになったなあ、と思った所で縁談の話が来て、嫁いでいってしまったのは寂しかったものでした。
それでも春日本人も悩んだ末に、政略結婚ではあるものの幼馴染で初恋の相手であり、自分の立場が相手を支える力にもなれると思って、自分の意思で嫁いでいったんですよね。それは未だ大旦那さまの嫁となる覚悟を決めかねていた葵にとっても、少なからず影響を与えられた姿でもあったんですよねえ。
そんな春日に再び会えるということで、大旦那様不在の不安の中での慰めでもあったはずなのですが、訪れた北の地で春日はその土地に住む氷人たちからどこか距離を置かれ、夫であるキヨともどこかちぐはぐになっていて、とあんまりうまく行ってない様子だったのでした。
表紙絵でも描かれていますけど、キヨくんも春日もまだ若いんですよ。若いというより幼いと言って良いくらい。幼夫婦ですよ。こういう場合は周囲の大人たちが慮ってあげないといけないのに、下手に政略結婚という体裁だったのがいけなかったのか、身内扱いしてくれないんですよねえ。
キヨくんはキヨくんで、春日の事を大切に思っているのに、その大切にするやり方を決定的に間違えている。まだ若い少年の身の上で、北の地を収める城主として一手に責任を背負い、しかも領地は厳しい雪に閉ざされた極寒の地ということで活性化など程遠く、ゆるゆると衰退していくばかり。
なんとかこの土地をもり立てていこうと頑張っているものの、ただ日々を生きていくだけでも辛く苦しい土地に、そして若く頼りない自分なんかに嫁いできた春日は、だからやっぱり辛いだろうなあ、苦しいだろうなあ。こんな所に来たくなかっただろうなあ。申し訳ない、可哀想、どうにか心穏やかに過ごしてほしい。と、ネガティブにネガティブを重ねてしまいながら、その方向性で大切にしようとしてしまってたんですよねえ。
違うんだよ、春日は義務でいやいや嫁いできたわけじゃないんだよ。ただ、幼い頃に一緒に遊んで一緒に心繋いでくれた貴方を、ちょっとでも手助けしたい、支えてあげたい、そう思って喜んで望んで来たんだ、という春日の気持ちをなかなかわかってくれないわけだ。
若い上に、いきなり段階すっ飛ばして結婚して夫婦になってしまった弊害ですよねえ。そもそも、お互いに立場とか関係なく好きあっているという大前提すら共有出来ていない。彼氏彼女恋人同士以前の関係なのだ。
こうしてみると、葵のこと天神屋につれてきたあとも何だかんだと急かさずに環境に慣らして、徐々に距離を寄せていくことを選んだ大旦那さまの慧眼がうかがえる。慧眼ってか、あの人もまああんまり根性すわってなかったところもあるんだろうけど。
しかし、こうして表紙絵見ると春日かわいいですよねえ。こんなかわいらしいお嫁さんを貰っておきながら、なんの不満があるんだこの男の子は。いや不満なんか全然ないんだろうけど。むしろ、春日の方が不満なんだろうなーとか考えちゃってるんだけれど。
結局、この北の地を繁栄させようとしながらも自分の領地に対してネガティブなイメージしかなく、自信を持てなかったことが様々な要因なんでしょうね。
そういう意味では、葵たちと折尾屋の訪問はまさに契機だったわけだ。
外部の意見、外部の視点、それ以上に外の人たちから見た率直な好意的な意見。観光客から見た、この北の国の素晴らしいところ、素敵な所、ワクワクして楽しいと思えるイベント、そういうのって地元の人の視点からだとなかなかわからないし気づかないものですしね。そういう外からの意見が、評価が、自信を与えてくれることもあるのだから。
雪国ならでは、北国ならではのセールスポイントをついた葵の料理のアイデアなんかも、これもうどれも美味しそうでねえ。保守的な人たちの感想も考慮しながら、その土地にあわせた新しい郷土料理。地元の人にも愛され好かれ、観光客にもそれ目当てで訪れてくれるような、あったかい料理、ひんやりとして美味しい料理。うーん、どれも美味しそう。
チーズフォンデュなんかもう見るからにー、なんですけどね。甘いお菓子系の数々も、甘味が好きなだけにもう口の中が甘みを欲して大変なことに。雪見だいふくとか、今寒いけど関係なしに食べたくなってきたんですけど。
さても、そんな春日たち夫婦の間を取り持とうとしたり、大旦那様の復権のために八葉としてのキヨさんの協力をとりつけるために奔走する葵を、その傍らで支え守り続けているのは若旦那の銀次さん。
いつだって、葵の一番近くで彼女のやることを支えているのは彼であり、幾ら元気娘でも時に落ち込んだり迷ったりすることだってある彼女を励ますのも、銀次さんなんですよね。
逆に銀次さんの方もこの人なんだかんだと繊細だったりするので、そういうときには葵が元気注入するんですよね。いつみても、良いコンビなんだ。
でも、葵の心は大旦那さまに向いている。そんな葵の想いを一番傍で見守りながら、銀次さんはずっと応援し続けているんですよね。自分の淡い想いをそっと畳んで仕舞い込もうとしながら。
でも、最近とみにその想いを我慢できずにうずかせて苦しそうにこらえている様子が垣間見えて、切なくなってきてしまいます。彼はその恋を決して表に出さずに、葵には見せることなく封じたままにしようとしているけれど、辛いよなあ。それでも、葵にも大旦那様にも尽くすことを厭わない銀次さん。愛だなあ。これこそ無私の愛ですよ。彼にとって、どんなに苦しくてもそれは幸せでもあるのだろうか。
あと、お涼がさらっと復権しやがった。いや、最近の活躍、というか真面目に……態度的にあれだけど、真面目に頑張ってる姿を見たら、わりと若女将に復帰するのは遠くないんだろうな、とは思ってましたけど。なんだかんだと葵とも対等の同性の一番遠慮なく接せる友達になってましたし、この雪国でのエピソードでも、なんだかんだと美味しい所持っていきましたしねえ。

さあ、次はようやっと大旦那さまの再登場だ。葵との関係にもひとつの答えが出そうですし、シリーズとしても佳境だなあ。