【冷たい孤高の転校生は放課後、合鍵回して甘デレる。2】 千羽十訊/ミュシャ GA文庫

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過干渉しないことを条件に付き合っていた空也とファティマ。人付き合いが苦手な二人だが、一緒に生活する中で互いを深く知り、婚約を前提に交際を始めることに。
しかし、それには当然、保護者である小縁の許可が必要で……?
一方、正式に恋人として付き合い始めた二人は他者と関わることを前向きに捉えつつあった。テストの勉強会に球技大会。次第にクラスメイトとも少しずつ打ち解け合う二人。
だけど、二人だけの時間はやっぱり特別で。周囲とのかかわりが増えた分、前よりも愛おしく感じて――。
一つ屋根の下で育む恋の物語、ひたすらに甘い第2巻。

一巻ではびっくりするくらい二人きりの閉じた世界で完結していたラブコメだったのですが、この2巻では大胆に方向転換してきましたね。
殆どモブも登場せずにひたすら二人きりでイチャイチャして、二人きりで迷走し、二人きりで解決していた主人公の香良洲とヒロインのファティマでしたけれど、唯一彼ら以外の登場人物として、二人の家族である小縁婆ちゃんを除けば、香良洲の友人であり話の聞き役として登場していたこーちゃんこと楢崎紅葉……彼、一巻でちゃんと名前出てたっけ?
まあともかく彼が大きく深く関わってくる事になる。
それぞれ理由あって本格的に人嫌いで他人を寄せ付けない自分一人で完結した日々を送っていた香良洲空也とファティマ・クレイはお互いを好きになり、自分独りの世界から脱却することになった。それは同時に、完膚なきまでの人嫌いから一つ転身して、許容できる人間は許容できる人嫌いになった、という意味にも通じるわけで、まあつまるところ他人を許容できる余裕が出来た、とも言えるわけですね。
二人共別に他人を必要としているわけでもないんですけれど、同時に彼らの孤高というのは同時に停滞に近いものにも見えました。一人きりなら自分のことだけ考えていればいいものですけれど、愛する人が出来たらその人の事を考えてしまうものです。そうなった時、果たしてこのままでいいものか、と考えてしまえば色々と思うところも出てきます。
他人を寄せ付けない二人きりだけで完結した世界、というものでもこの二人は相応に幸せを享受できたのかもしれませんけれど、少なくとも空也はそれを選ばなかったし、ファティマもその空也の選択を受け入れたわけです。
そうして、二人の交友は空也の親友である紅葉を通じて広がったのでした。
そうなると、面白いことに空也にしても、ファティマにしても二人きりのときには見えなかった側面、キャラクターというのも見えてくるんですよね。特にファティマは同性の遠慮せずに済む相手への態度というもので、なかなかキレキレのツッコミや毒舌を炸裂しつつ緩急自在に対応の強さをふっと緩めて受け答えする姿なんかも見せて、いろんな顔を見せてくれるんですね。
もちろん、それを引き出すに値するだけのポテンシャルが、紅葉の幼馴染である蛍花やその親友である晴花にあったということなんでしょうけれど。それにしても紅葉の幼馴染だという少女が、〜ですわーのお嬢様言葉の使い手だとは思わんかった。全然想像してなかったキャラで来たw
なにげに作者の千羽さんは複数人のグループでワイワイと賑やかに騒いでいるシーンを凄く楽しく描いてくれる方なので、どこか明治か大正の日本家屋で二人きり、しっとりとした止まったような落ち着いた静かな雰囲気で紡がれる空也とファティマの時間もとても情緒的で雰囲気良くて良かったのですけれど、中盤からのこれはこれで一気にパーッと華やいだ空気になり、また違った味わいで楽しませていただいました。
口絵でも描かれていますけれど、姦しい女三人組の様子を傍から眺める男二人、という構図がまた妙味が在るんですよねえ。
そして後半はまた一変して、今度は校内イベントのスポーツ大会をきっかけに空也と紅葉の過去にスポットがあたり、空也が人嫌いになった根本に話が及ぶのでした。
んでもって、一気に情熱的な男同士の熱い友情とライバルとしての未練を晴らす闘争へと発展するんだから、結構目まぐるしかったな今回!
いやー、空也のことその古風な佇まいと言葉遣いから一鉄の職人か枯れた素浪人か、みたいな雰囲気あったけれど、こいつガチでサムライだったんじゃないw
いや、正確には紅葉と二人で中学時代に剣道で名を馳せた、名剣士だったのですけれど、かつて置き去りにしてしまったものを取り戻すために、親友の画策に乗り友の未練を果たすべく、自分の悔しさを晴らすべく。何より、快く送り出してくれた愛する人に見栄を張るため。
これが男の生き様よ、とばかりに触れれば弾けそうな張り詰めた緊迫感の中で、刃鳴り散らすがごとき手に汗握る熱い戦いを繰り広げる親友同士。そして、そんな男を憂いを吹き飛ばすように送り出し、また男が帰る港のように受け入れるべく、切に見守る女の姿。
空也が孤高に至ってしまった歪みの原因を、彼がずっと抱えていた悔しさを、男の涙をただただ受け止め抱きしめるファティマの姿たるや、なんていうんでしょうね、これ。古き良き、というのとは少し違うか。でも、試合の最中に挫けそうになった空也を無言の激で励ます姿とか、これほど堂の入ったヒロイン像はなかなか出来ないですよねえ。文字通りのもはや夫婦と言わんばかりの揺るぎのない愛情が伺えます。
いやー、でもそれにしても最後の紅葉との決闘は熱かったです。これ、ただの学校の球技大会の1試合のはずなのですが。でも紅葉と空也にとっては、人生の一区切りとなる大切な一戦だったんだよなあ。でも、二人きりでイチャイチャばかりしていたお話が、こんな男同士の話になるとはw
でもですよ、その最後にはちゃんと男は女のもとに帰ってくる、という意味ではやっぱり夫婦のラブストーリーだったと言えるのかw