【鍋で殴る異世界転生】  しげ・フォン・ニーダーサイタマ/白狼 ドラゴンノベルス

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鈍器、時々、調理器具……鍋とともに、生きていく!

転生先は、冒険者見習いの少年クルト。
場所は戦場、手に持つのは鍋と鍋蓋――!?

なんとか転生即死の危機を切り抜けると、ガチ中世レベルの暮らしにも順応。
現代知識を使って小金稼ぎ、ゴブリン退治もなんのその。
これからは、鍋を片手に第二の人生謳歌します!
て、この鍋、敵を倒すと光るんだけど……!?
鍋と世界の秘密に迫る異世界サバイバル、開幕!

鍋ッ!? いやあ、鍋が武器って、と思ったけれど、これはこれはこれは、おおおおお!?
いやこれ、これめっちゃ面白いですよ!?
うはははは、なんぞこれ、面白い面白い!! えーー!? ちょっとこれは凄いぞ、面白いぞ!?

ちょっと読んでてテンション上がってしまいました。いや上がりますよ、だって面白いもん!
武器が鍋? と思ったけれど、中世の世界観なんかじゃ正規の兵士でもない奴ぁ、武器なんぞは自弁です。自弁って自分で自費で用意準備しなきゃならないってことですね。
だもんだから、まともな武器防具を持ってないやつだって珍しかあない。まあ彼、クルトの持っていた鍋は特別性みたいで、その辺の調理鍋とは違うみたいなのだけれど。
いや、それでも昔の鉄製の鍋である。今の重量の軽い料理人に優しい鍋じゃないですよね。なんだかんだ言っても金属の塊だ。それでも、わりとやすやすと人間何人も撲殺しているあたり、かなり鈍器としても優秀に見えるんだよなあ。
まあ定番の転生モノなのだけれど、いやこの場合は憑依になるのかしら。珍しくもないと言えばそうなんだろうけれど、さすがに戦争の真っ最中。矢が飛び交い血走った目で武器を振り下ろしてくる敵の鮮烈を目の前に、味方の怒号を横や後ろに聞きながら、気がついたら戦場の真っ只中、という土壇場でいきなり目覚めるほど危急の転生展開はなかなか珍しいんじゃないだろうか。
いきなり死闘である。
本作のとびっきり面白いのはこの戦争シーンでもあるんですけどね。うははは、もろに中世の戦争で戦闘だー。臨場感がパないですよ、パないパない。キレイに槍並べて叩き合うなんて所までお行儀がよくなく、しかし戦列を組んで敵と殴り合う泥臭い戦争だ。騎士と騎士の戦いじゃない、傭兵と傭兵、民兵と市民兵の殴りあいですよー。
そんでもって、戦闘が終了したら敵の死体や捕虜から装備を引っ剥がして、山にした略奪品をみんなで順番にゲットしていく、というご褒美タイム。
そもそも、クルトが属している組織がまた面白くてねえ。冒険者ギルドなんだけど、同時に傭兵であり、都市の常備兵扱いなんですよ。戦争となったら兵士として駆り出されて、冒険者ギルドは一部隊として戦い、あるいは普段はゴブリンなどの魔物退治でパーティー組んで小部隊に分かれて活動する、という。政治的にも面白いポディションでねえ。団長がその都市の領主である貴族の弟で、半分私兵扱いなのかこれ。傭兵紛いで、しかし無法を働かないように市民権を与えて常備兵としての縛りもつけて、でも無駄飯ぐらいにならないように魔物退治をやるギルドとしても運用していて、しかし半分無法者だから完全には信用されておらず、都市内でも微妙な立ち位置、といういやーーー、こういう現実的でややこしい立ち位置ってめっちゃ楽しくないですか!?
常備兵扱いなので、ちゃんとお給金も出るんだけれど、微妙に安くてそれだけではやってけないので、冒険者として提示されるクエストを消化していかないと食っていけない、というお金の事情、食費や住居などの生活問題なんかもしっかり描かれていて、こう都市内での生活感の描写がまたいきいきしていて素晴らしいんですよね。
頑張って働いて飯食ってんだなあ、というのが伝わってくる。
だいたい中世的な世界観ですし、生きるという事そのものに厳しいし世知辛い。敗残者には容赦がないし、一度負けてしまえば生き残っても身ぐるみ引っ剥がされてもうマトモに生きていけないような世界だ。それでも、登場人物たちはクルトをはじめ、みんな自分のやれることを精一杯やりながら、全力で生きているからこそのどこか楽しげな、刹那的かもしれないけれど日々を謳歌するような明るい調子でハツラツと戦ったり逃げ回ったりお酒のんで騒いだり、と生きてるんですよね。
なので、世界観とは裏腹に作品の空気感はポップでライト。愉快に明るく元気よく、って感じなのがまた読んでてもウキウキしてくるんですわー。
それに登場人物、こういう世知辛い世の中なのに何だかんだみんないい人ばっかりなんですよね。ギルドの身内同士だから親切で優しい、というのもあるのかもしれませんけれど、団長はわりと面倒見良くて、まだ見習いだったクルトやヒロインのイリスにもマメに訓練つけてくれて、生き残るための術を叩き込んでくれるし、他の先輩団員たちもあれこれとクルトたちが教えを請うたら嫌がらずに毎度ちゃんとしっかりと教えてくれるし、訓練に付き合ってくれたりもする。
クルトたちも後輩が出来たら、装備整えるの手伝ってあげたり、飯奢ってあげたりと結構濃密に面倒見てあげてるんですよねえ。人間関係温かいとやっぱりイイですわー。

とはいえ、クルトが憑依した元のクルトという人間は相当の悪人でクズ野郎だったみたいで、最初はわけもわからないまま敵意をぶつけられて大変な思いをすることになるのですけれど、これ早々に記憶喪失ですー、と大々的に告白したのはクルトのファインプレイだったよなあ。よっぽど人柄が前のクルトと違ったのか、すぐに信じてもらえたのは幸いでしたし。
まだ入団して直後だったのか、そこまで後戻りできないヘイトを集めていた訳ではなかったみたいですし、わりとあっさりと今のクルトをみんな受け入れてくれましたしね。これ、そのまま人格変わっているの誤魔化そうとしていたら、早々に闇討ち食らって生き残れなかったんじゃないだろうか。
ともあれ、お陰ですぐに同期のイリスと仲良くなれたのは特に幸いでした。彼女とはかなり相性のいいコンビになりましたしね。それだけじゃなく、突然きつい戦争ばかりの世界に放り込まれながらも、クルトが頑張って生きていくだけの前向きな気持を持てたのって、イリスの存在のおかげもありましたしね。この娘を守る、という素朴な目標が大きな原動力となって彼を奮起させることになるのである。イリスも度々死にかけた所をクルトが体張って助けてくれるもんだから、そりゃあグッとくるものがありますわなあ。チョロいとは言うまい。でも、この世界観で野宿の際に寝具用意できなかったクルトと外套共有してあげて一緒に寝たりとか、見習い卒業して正式団員になって寮をでなくちゃならなくなった時に、ルームシェアで一緒に住もうなんて提案を呑むとか、かなりこう……あれですよね。脇が甘い、じゃなくて隙だらけ、じゃなくてクルトへの信頼が厚いというかもう結構許しちゃっているというか。
いやでも、イリス可愛いですよ。気が強いけど、態度は結構柔らかいですし、クルトが記憶喪失じゃなくて実は違う人格が乗り移った、という真実を暴露しても、むしろ強く信頼していることを示してくれて、安心を与えてくれたりしてますしねえ。いい子ですよ。そりゃクルトもこの娘は絶対に守る、とか決意しちゃいますよ。男の子男の子w

戦争の描写のリアリティも、魔法ありにも関わらず非常に色濃く描けてて、実に興奮しました。これ作者の趣味の高さ深さみたいなんですけれど、甲冑に関しての描写が非常に濃くて、戦闘の度に入手できる戦利品から、こつこつと甲冑の各部位を集めていって、全身フル装備にしていくクルトの防具遍歴がまた面白いし、それが戦闘のたびに結構生命線になったりするんですよね。
兜や盾、といったものも蔑ろにするどころか、そこが最重要とばかりに各シーンで色々と際立つんですよねえ。うーん、面白いっ。



また戦争や日常だけじゃなく、終盤にはゲッツ団長の立場からはじまる政治的な抗争もはじまりだして、これがまたじわじわと盛り上がってきてるんですよ。
ってか、クルト以外にもう一人転生者が登場して、なし崩しに冒険者ギルドの食客みたいなところに収まっていくのですけれど、これが超大物。無名の一般人出身などではなく、歴史に燦然と名を残す偉人のひとり。正直、このレベルの万能の巨人って、東の曹操、西のこの人、くらいじゃないの? 少なくとも知名度高い人に限れば。
どちらかというと武人に徹していて政治には首を突っ込んでこなかったゲッツ団長にとって、彼を参謀役に出来たのは大きいなんてもんじゃないですよ。戦争でも政争でも、両方をこの人ほどべらぼうに出来る人物はちょっといないですもんよ。一都市の権力を奪取するのに知恵を借りるには、これオーバーキルじゃねえの?と思うくらいですし。いやー、どうなるのかワクワクしてきた、ワクワクしてきた!