【鍋で殴る異世界転生 2】  しげ・フォン・ニーダーサイタマ/白狼 ドラゴンノベルス

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賽は投げられた! 負けられない戦いに“鍋”参戦!

新たな権力者の横暴によって、存続の危機に立たされてしまった冒険者ギルド。
団長ゲッツはその権利を認めさせるため、国中を巻き込んだクーデターを画策する。
決行は10日後――!
そんなこととは知らないクルトたち冒険者は団長に命じられるまま、
やけに実戦的な行進訓練に精を出すのだが……!?
鍋を片手に生き抜く異世界サバイバル、第2弾!

リアル「賽は投げられた」だ!
なにしろ、ほんまもんのカエサル・プロデュースのクーデターですもんね。しかし、あのカエサルがお膳立てをしたのだから、易易と戦死した兄の妻であるアデーレを追い落として権力を奪取出来るのかと思ったらそう簡単にはいかないのか。
いや、さすがのカエサルでもいくら何でも時間が足りなさすぎたか。むしろ、この短期間で新教会を抱き込み、市民の支持を取り付けて、目下の三大勢力となる大貴族の内の一家を味方に引き込んだのだから、むしろ重畳ではあったんですよね。
ゲッツ団長は選帝侯の実弟だけれど冒険者ギルドの団長として使われているように、権力中枢からは遠ざけられていた存在。団長自身、政治にはさほど興味もなく、選帝侯家に生まれながらも兄の駒として扱われる事にそりゃ思う所はあったけれど、今の立場はそれなりに面白く思っていたし配下となるギルドの面々は何よりも守ってやりたい可愛い連中だし、武人として振る舞える日々に不満を溜め込むほどではなかった。だが、アデーレが権力を握ることで冒険者ギルドは解散させられ、可愛い部下たちは市民権を取り上げられて放逐され、一応血筋では後継者であるアデーレの息子の次点にはなるだろうゲッツ団長をアデーレは飼い殺しにするか、あとで有無を言わさず謀殺するか。いずれにしても、生き残り、ギルドの部下たちを守るためには立たねばならなかったわけだ。
しかし、上述したようにゲッツ団長は権力中枢から遠ざけられていたため、貴族とはいえ同じ貴族家にコネはないし、冒険者を率いているようなごろつき崩れ、と見なされる立場の男に、上級貴族たちは阿ることを嫌うだろう。最初からなかなか厳しい立場立ち位置だったんですよね。
だから、そこからこの短期間で五分五分まで持っていけた事自体が驚異的、と思って良い。それに、カエサル爺さんがシナリオを書いたとはいえ、それのとおりに見事に演じ踊ってみせたのはゲッツ団長の力量ですからね。
選帝侯の葬儀とその嫡男の後継者指名を行う儀式で、アデーレの立場を失墜させて大義名分を勝ち取るまでの一連の出来事は、見事という他ないものでした。
いやでも、ここで終わらずにアデーレを指示する勢力との本格的な内戦状態にまで陥るとは、読者側としてはそこまで思ってなかったんだよなあ。そういう意味では見通しがあますぎて、しかしカエサルとゲッツ団長はその辺とっくに覚悟を決めて織り込み済みだったのね。

ここからの、クーデターによるゲッツ団長の子飼いの戦力である冒険者ギルドを中核としたクーデター軍と、アデーレを支持、というか神輿に担いでこれからの選帝侯家を操っていこうとしていたザルツヴェルト伯爵軍を中核としたアデーレ軍。そのもつれにもつれた市街戦、そして本領から主力軍を繰り出してきた伯爵軍とゲッツ軍との野戦決戦。そして、敗走の末に伯爵軍が立てこもった都市に対しての攻城戦、と本格的な戦争が怒涛のように繰り広げられるのである。
これ見ているとあれですね。甲冑大事! 身を守るための金属装備はマジ重要! これがあるとないとでは、本当に怪我の負い方が全然違ってくるし、もうダイレクトに命に関わってくる。
戦列を揃えての本格的な合戦ともなると、個人の技量って……大事は大事だけれど多人数対多人数となるとどうしたって攻撃喰らうんですよ。その時、しっかりと身を守る装備を整えていることで、継戦力が全然違ってくる。隊を整え列を揃えての殺し合いの恐ろしさ、というものをヒシヒシと味わえる戦争描写でした。
しかし、もう既にワゴンブルグ……馬車を連ねる野戦築城はこの世界では行われているのか。ある意味、魔法は銃ほどじゃないですけれど効果的な投射火力として機能してますもんね。
一方で、集団で魔法を投じて、というのは行われているけれど、少なくとも騎馬突撃を封じてしまえるほどの効果は発揮しえていないのか。なので、この時点まではなんだかんだと戦場の王様は騎馬だったのですが、そうか……テルシオが登場する直前の時期の世界観なのか。
雑兵ではなく、下馬した完全武装の精鋭騎士たちによる長大な長槍を用いての方陣での、対ランスチャージ戦法。カエサルのファランクスを発端にそれが生み出されるという回帰による新機軸。これも一つの戦争革命か。
でも一方で、軍勢が集まるまで、集まってからの編成作業の胡乱さ。いや、この遅さは致命的、と思ってしまうんだけれど、これが時代の常識なのねえ。そりゃあ、戦争始めるぞ!と号令掛けてから実際に両軍がぶつかる合戦がはじまるまでやたらと時間かかるのも無理ないわ。
そして、発起から編成、そして行軍の脚の速さそのものが戦争のおける革命的な武器となっていくのも、この軍勢が整うまでの遅さを見ているとよくわかるというものです。
また身分に対しての意識。騎士階級とかだけじゃなくて、戦う立場にある者としての地位の高さがまた時代特有のものがあるんですねえ。これ、徴兵された市民兵や農民兵でも、兵士である以上は彼らの意識は特権階級なんだ。兵士という格上の存在になった以上、昔のローマ兵みたいに自分たちで工兵として土木作業をする、なんて真似はプライドが許さないんだ。
……これ、上から下まで価値観が統一されてるからいいけれど、そういう意識がない人からするともどかしいというか、勿体ないというか。カエサル爺さんが頭かきむしるのも当然だわ。兵士が自分たちで野戦築城するだけで、戦争のスピードが桁単位で違ってくるよ。
同じ価値観同士で戦争やっているから釣り合っているけれど、これまったく異なる軍事常識に基づいた軍隊と戦ったら、武装や練度が一緒だったとしてもこれそもそもマトモな戦争にすらならない可能性もあるよなあ。異文化の軍隊同士が戦った際に時折、尋常じゃなく一方的な展開になるのもこういうケースがあったんだろうなあ。あるいは、時代の節目、新しい時代の訪れ、戦争のやり方がまったく変わってしまう時なんかも。

さても、そんな血みどろの戦争を一兵士としてイリスやルルと共に戦うことになるクルト。とはいえ、それは自分たちで選んだ道。ゲッツ団長と共に、この都市で暮らし仲間たちと生きていくために、彼らは自らの意思で剣を取り、ゲッツ団長のクーデターに従ったのだ(扇動されたという無かれw)
だから、士気はこの上なく高いまま、必死に戦い抜いていくのだけれど、その果てにクルトは現代の平和な国の価値観では…人権という概念を知り、倫理を心に根ざしている彼にとって認め難い、敵対都市の市民に対する略奪、という行為に直面することになる。
本来ならもう生理的に拒否反応が起きるだろう、そうした野蛮な行為を。兵士じゃないただの市民相手の非道を、しかし凄惨な攻城戦などを経て彼は絶対的に否定できなくなっていくのだ。
もちろん、自分の手でそれをするのはどうしたって無理だけれど、ゴミクズのように殺されていく兵士の権利である略奪を、彼らが本当に死ぬ思いをして勝ち取ったその権利を、否定できるのか。
当事者であるからこそ、実際に死ぬ思いをして戦ったからこそ。降伏勧告を拒否して、敵対して味方を殺したんだから、同情なんてやっぱり失せてくるんですね。湧き出てくるのは憎しみだ。
しかしそれでも、嫌なものは嫌だし、認め難いんですよね。同時に、おなじように死ぬ思いをして権利を勝ち取ったイリスやルルに、略奪をするな、というのも憚られる。そんな事をしちゃいけない、なんて時代の価値観が全く違う中で、上から目線で言ってしまうのは傲慢だし、大事な仲間たちに対して失礼でもある。
でも、彼女らにはそんなことしてほしくない。苦しいですよね、悩みますよね。このあたりの彼の苦悩は、とても……公平だと思う。そしてイリスたちも、そんなクルトの苦悩を汲み取ってくれるんですよ。彼の価値観を認めるのではなく、仲間として彼の苦悩を受け入れたのです。
だからクルトの方もありがたく彼女らの選択を享受しつつ、一方で彼女らの価値観に理解という形で自分から歩み寄っていく覚悟も決めるのだ。
こういう所、ほんとイイ男だと思うよ、クルトくん。イリス、見る目あると思いますよ。ってか、この二人本当にイイ雰囲気になってきたなあ。
救いは、ゲッツ団長も略奪行為を許すことを本当は嫌だった、て所ですよね。この人、本当に市民思いで、それは自分の都市の領民だけじゃなくて、普遍的な博愛主義者的な側面を持ってるんでしょうね。そりゃ、ギルドの仲間たちのこと大事にするし、門前の小僧程度だったクルトたちにもわざわざ手づから訓練つけてやって生き残るように尽力してくれるようなイイ人だわ。
一方で、現実を前にした時、クーデターを起こしても生き残る選択を選び、守りたいと思った冒険者ギルドを自らの兵として使うことを選び、苦渋の決断で受け入れがたい略奪を軍隊を維持するため、兵士の支持を失わないために許す、そういう選択が出来る男でもあったんですよね。
カエサルの爺さんのお眼鏡にかなうだけはありますわ。生きるの、しんどいタイプでもあるんでしょうけれど。
なんか、ゲッツ団長のお相手と思しきかなり強烈な存在感がありそうなヒロインも登場してきましたし、これなにげにクルトだけじゃなくて、団長も主人公みたいな立ち位置なんじゃないだろうか。ダブル主人公ってのも、この作品だとうまく回りそうで、というか現段階でうまく回っているし、とてもとても面白いと思いますよ。実際、めちゃくちゃ面白かった!