【義妹生活】  三河 ごーすと /Hiten MF文庫J

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同級生から、兄妹へ。一つ屋根の下の日々。

高校生の浅村悠太は、親の再婚をきっかけに、学年で一番の美少女・綾瀬沙季と一つ屋根の下で兄妹として暮らすことになった。
互いに両親の不仲を見てきたため男女関係に慎重な価値観を持つ二人は、歩み寄りすぎず、対立もせず、適度な距離感を保とうと約束する。
家族の愛情に飢え孤独に努力を重ねてきたがゆえに他人に甘える術を知らない沙季と、彼女の兄としての関わり方に戸惑う悠太。
どこか似た者同士だった二人は、次第に互いとの生活に居心地の良さを感じていき……。
これはいつか恋に至るかもしれない物語。
赤の他人だった男女の関係が、少しずつ、近づいていき、ゆっくりと、変わっていく日々を綴った、恋愛生活小説。

なるほど、なるほど、これはなるほど面白い。というか、興味深い。
両親の再婚から義理の兄弟となった浅村悠太と同じ学校の同級生の綾瀬沙季。と言ってもクラスも違うし今まで面識もなかった二人。友達ですらなかった、顔見知りとすら言えない、たまに見かけた事はあるかもしれないけれど、まあ他人同士だ。
ここで年頃の異性が家族になって、友好にしろ反発にしろ大きく関係が動いていくのが、このカテゴリーの作品の定番と言えば定番なのだけれど。
この二人は最初から家族になろうなんてお為ごかしもなく、お互い名字で呼び合いながら同じ家に住んでいるただの他人、というフラットな距離感で下手に干渉しようとせずに過ごし始める。
と言っても同じ家に住んでるだけで、どうあっても干渉は発生するんだからそこはお互いですり合わせしていかなければならないんだけれど。
これが思いの外うまく行ってしまったのだ。
悠太と沙希、この二人は意外なほど似た者同士、というより同類だった、というべきか。
見た目あからさまに派手なギャルの格好をしている綾瀬沙希だが、この娘って徹底した合理主義者なんですよね。いや、合理主義っていう効率重視というわけじゃなくて。あくまで感性や感情よりも論理を優先するタイプ。いや、優先というよりもあらゆる事柄を論理付しないと収まらないというべきだろうか。曖昧に適当で事を濁してしまうような事はどうも納得がいかないし、等価交換じゃないけれど相手にこれだけの事をして貰ったら、同じだけの価値のあるもの、或いは行為を返さないといけないと思い定めていたり。相手のそれを強要するような視野の狭さなどはないのだけれど、それでもある種周囲の空気を読まないやたらとロジックに寄った彼女の在り方に対しての、周囲からの反応はまあ予想がつく。沙希はこれまで随分と窮屈な思いをしてきたのだろう。
結果として彼女が選んだのは自ら孤高となることだったのだろう。気持ちの問題で済まさずに、見てくれをギャルで武装したりと、ロジカルに周囲から孤立しながらも文句を言われず口を挟まれにくく面倒くさい事にならないように、知識を蓄え容姿を整え隙をなくして積み上げていこうとしているあたりがこの娘らしさだ。感情で突っ走って勢いだけで孤高たらんとしてるわけじゃないんですよね。
女子高生の身の上でなるべく金銭を稼いで、蓄えを増やそうとしているのもその一環。
自分にとって生きづらい世の中で妥協していくのではなく、自分の在り方を譲らないまま独りで生きていこうと本気で考え、その準備を着々と積み重ねている。
親の再婚で、新しい家族なんてものが出来てしまったのも、それに拍車をかける出来事だったのだろう。相手の家族がいい人悪い人だというのは関係ない、ただ他人と一緒にいることが耐え難いのだから。
だが、沙希にとってあまりにも想定外だったのが、義兄となった同級生悠太が自分のこの在り方に対して一切負荷を与えてこない人物だったのである。
浅村悠太という人は、言わば綾瀬沙希と極めて似た方向性、或いは価値観を有した人間だ。そのうえで、一切自分に妥協できない沙希と違って、彼は世間・社会・世界というものに対して妥協し同調した人間でもありました。それを彼自身は逃げたと論じて自嘲していて、毅然と抗い続けている沙希に対して敬意を抱いていますけれど、言葉を変えれば悠太は自分の本質を損なわないまま柔軟に対応する事が出来ている人物とも言えるんですね。
だから、沙希の在り方考え方をそのままフラットに理解できるし、一方で世界に妥協した分彼女がどうこの世界に対して窮屈に感じているかもわかるから、その橋渡しみたいな事も出来るんですよね。
するとどうなるか。
彼女、覿面に息苦しさ、解消されたんじゃないだろうか。他人と接していてこれほど齟齬を感じず、窮屈さを抱かず、スムーズに物事を介せた事はなかったんじゃないだろうか。
綾瀬沙希はこの先、ずっと独りで生きていくための準備を淡々と重ね積み上げていた。それは言わば生涯かけての籠城戦だ。引きこもりじゃないけれど、自分の人生に他人を踏み込ませず、最後までたった一人で自分という城塞に立てこもって生き抜く、援軍を最初から見込んでいない籠城戦。
ここで気になるのは、沙希の母親だけれど。二人は親子としてとても仲が良いし、沙希自身母親の事はとても大事に思っているし、家族として心から愛してもいる。
でも、母が沙希の理解者だったかというと、そこはちょっとわからないんですよね。父親との離婚の前後で二人が相当苦労して、心も傷ついて。だからこそ寄り添って支え合ってきたのは良く伝わってきます。母子として仲が良いという以上に大切に想い合っているのもわかる。
でも、それと理解者である事がイコールとは言えないんですよね。
母の仕事がら母娘の生活サイクルは完全にすれ違っていたのだけれど、あえて沙希がそうなるように整えていたようにも見えなくもない。それは家事を完全に分担したり、一緒に過ごす時間を無理に確保しないように甘えなかったり、と母の苦労を減らすための母を大事に想うが故の論理的な行動の結果ではあるんだろうけれど。
少なくとも、母に新しい家族が出来た以上、沙希にとって籠城戦で独り立てこもるのに憂いはなくなったんじゃなかろうか。早急に蓄財をはじめたのもそのあたりが要因の一つなんだろう。
しかし、そんな彼女の前に、今まで想像した事のない望外の理解者が現れてしまった。彼はそれどころか、論理優先で現実とのすり合わせが苦手な自分に、ちゃんとわかる言葉で論理的に説明し、自分の側のロジックを理解して受け入れた上で、こちらを納得させて実情とすり合わせてくれるよう促してくれる人だったわけです。
今までに出会った事のないタイプの人だったのでしょう。論理と情を両方損なわずに差し向けてくれる人だった。
これは綾瀬沙希にとって、甘い毒だ。
彼から受け取ってしまう居心地の良さに、安らぎに、果たして彼女はどこまで耐えられるのだろう。或いは耐える必要があるのだろうかと考えてしまうだろうか。
未だ家族でもない、家族になるつもりもなかったはずの義理の兄妹。彼らがこれからどうなっていくのか。スタート地点として、これは大変先の展開に興味をそそられる環境の広げ方でした。