【二周目勇者のやり直しライフ ~処刑された勇者(姉)ですが、今度は賢者の弟がいるので余裕です~】  田尾 典丈/にゅむ 電撃の新文芸

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人生二周目の姉と転生者の弟が世界を救う、最強のやり直しファンタジー!

「――というわけで、お姉ちゃんは勇者だったんだよ!」
ロモロは戸惑っていた。先程まで薪拾いをしていた姉のモニカが、突如としてすごい変なことを言ってきたからだ。
曰く「二年後になぜか勇者になって、そこから五年後の魔王との戦いで死んで、気づいたら今の十歳に戻ってたんだよね」、とのこと。
当初は妄言と思っていたロモロだったが、前世で得たという魔法の力で街の狼藉者を一蹴する姉の姿を見て、信じる他なくなってしまう。
モニカは再び勇者を目指し、世界を救う!と決意するが、同じことをしてもうまくいかないのではとロモロが指摘したところ、
「ロモロだったら、今後あたしたちに起こる不利益を全部解決できるはず!」
と、結構な無茶振り! だがロモロは冷静だった。なぜなら――ロモロは最強の『賢者の知識』を備える、異世界からの転生者だから。
かくして、二周目の状況は整った!?
世界を救う、勇者(姉)と賢者(弟)のやり直しライフ、開幕!


これモニカお姉ちゃん、一周目の世界でかなり救いのない体験をしてきたっぽいんですよね。
家族を全員謀殺され、無理やり貴族社会に加わらされて平民出身ということで辛い思いをさせられたみたいですし。魔族との殺し合いのみならず、他国との戦争にまで駆り出されて人も殺して、仲間や友達も失って、その挙げ句に処刑されて儚んでしまった。
これ普通なら相当に精神病みそうですし、人格性格だって激変してしまいそうな体験をしてきたわけですけれど、モニカは明るく無邪気で元気いっぱいのお姉ちゃんというあたりは一切変わらないままだったのです。
当然、傷心は深く帰ってきた当初は健在である弟のロモロや両親に甘え倒しでむしろ童心に戻ってしまっていたのですが。それに時折、脳天気な姉とは思えない大人びた反応を見せたり、わりとお馬鹿な姉にそぐわない知識や判断を見せたり、心の傷の痛みを想像させられるような闇を垣間見せたり、と確かにモニカが尋常でない体験をしてきただろう事は間違い無いのでしょうが、でもこの子の魅力だろう無邪気で前向きで真っ直ぐな部分は変わっていないんですよね。特に無邪気さなんてのは、辛いけんけんをするほどに失われてしまうものだろうに。
それを失わなかった心の強さこそが、モニカが勇者足り得た理由だったのでしょう。でも、モニカだけではどうしたって届かなかった。どうにもその過酷な道行を乗り越えていくには足りなかった。
それを補うのが、賢者ロモロなのである。
転生者としてこっそり、前世からの叡智を抱え込んでいるロモロ。まだ二桁の年齢にもならないのに子供離れした知恵と落ち着きで「賢者の神子」なんて言われている少年である。
ここが面白いところで、失敗して死に戻ってきた二週目の勇者さまと転生者として様々な知恵を持つ人物がこれそれぞれに別に居る上に、仲の良い姉弟としてコンビを組んでいるわけだ。
二周目なお姉ちゃん勇者は難しいことを考えるのは弟の役目だー、とばかりに洗いざらいぶちまけた挙げ句に、わりとおおかた丸投げして元気いっぱいを取り戻して、何事にも勢い任せでぶつかっていく始末。何しろ、一周目の勇者としての力は身体能力以外は魔法とか全部残してますからね。なにげに強くてニューゲーム状態なんですよね。しかし、頭はあまり良くないので一周目の人生で起こった悲劇をどう覆していけばいいかわからない。わからないので、とにかく力で粉砕だー、となってしまいがちなお姉ちゃんを、ちょっと待って待ってーー!と悲鳴を上げながら制止して、必死に作戦やシナリオを考えていくのが賢者な弟の役割なのである。弟、大変だ。勇者としてパワーアップしている姉の振り回し力は今までどころの比じゃなくなってますからね。自分たち家族や友人たちの命や平和がかかっているから弟くんも必死にならざるをえないし。
とはいえ、勇者らしく姉のひたすらの邁進が事態を好転させることも侭あって、ただ姉の首根っこ押さえていればイイってわけでもないですし。野生の勘じゃないですけれど、彼女の咄嗟の判断と確信が状況を打開する事も度々ですからね。
しかし一方で、弟の熟慮と遠謀が力任せでは超えられなかった壁を軽々と突破させることもある。
つまるところ、凄く良いコンビなんですよ、この姉弟。見ていて痛快で優しい気持ちになってくる、実に素敵な姉弟なのだ。
前世の一周目で一人勇者認定されて都に連れて行かれ、姉弟が離れ離れになってしまったのは。引いては貴族同士の権力争いの駆け引きの煽りを食って、勇者の家族が謀殺されてしまいロモロもまた死んでしまったというのは、まさにモニカにとって翼をもがれたのと同じことだったのでしょう。
二人の良コンビっぷりが浮き彫りになればなるほど、半身を失っていた一周目がどれほど無理ゲーだったのか、彼女の旅路の詳細はそこまで語られていないものの、わかるってもんである。
将来冒険者として大成する幼馴染たちや、勇者の助けになってくれる両親の昔の仲間だった歴戦の冒険者たち。前史では多くの不幸に見舞われ、モニカの助けとはならない末路を辿ってしまう彼らの未来。意図して変えていくわけじゃないけれど(何しろモニカがあまりちゃんと正確にあれこれ覚えていない)、姉弟の奮闘が偶然を交えつつ未来を良い方向へと変化させていく様子は、爽快な気持ちよさがあるんですよね。
なにやら、裏で暗躍している黒幕たちがおり、それが状況によっては一周目にあった出来事をさらに悪化させるような策謀を練っているのも不穏なところですけれど、明るく元気一杯なお姉ちゃんと弟の絆があればそれも見事に粉砕していけるんじゃなかろうか。そんな痛快で楽しい気持ちにさせてくれる快作、そのスタートでありました。うん、面白かった。