【ゲームで不遇職を極めた少年、異世界では魔術師適性MAXだと歓迎されて英雄生活を自由に満喫する/スペルキャスターLv100】  あわむら赤光/ ミチハス GA文庫

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この異世界、ゲームよりおもしれー!!
神ゲー以上の体験が待つ、本物の『魔法世界』へ!
憧れの異世界を自由に満喫する、MMORPGライクファンタジー開幕!


道成寺九郎は覇権MMORPG『アローディア』にハマる少年。呪文を音声入力しないと魔法が発動しない謎仕様の不人気職〈魔術師〉に、逆にロマンを感じ、百種の呪文を自在に暗唱できるまでやり込んだトッププレイヤーである。

そんな彼が最難関クエストをソロ攻略した瞬間、異世界に召喚されて――!?
「最高の魔術師適性を持つ九郎様に、究極魔法を創造して頂きたいのです」
「なにそれカッコイイ!」
あのゲームは『呪文詠唱の達人<スペルキャスター>』を選別する神の試練だったのだ!!
さぁ、神ゲー以上の体験に満ちた本物の魔法世界へようこそ!
憧れの異世界を自由に満喫する、MMORPGライクファンタジー開幕!!





いやー、流石に呪文を音声入力しないといけない、つまり実際に声に出して詠唱しないと発動しない、というのはゲームとしてはキツいですよー。恥ずかしいw
確かに浪漫はある。それは認める。かっこいい呪文は声に出して詠唱したいものです。ある一定年齢以上の少なくない数のオタク諸氏は、スレイヤーズのドラグスレイブをソラで詠唱できるでしょうw
やー、でもさー、声に出して言うのってマジで恥ずかしいよ? 一人でもなかなかハードル高いよ?
それを、ゲームプレイ中呪文を発動させるためには常に絶対にキャンセルなしでちゃんと詠唱しないといけないってさ、そりゃあ不人気にもなって当然だと思いますよ。しかも、ゲーム全体じゃなくて呪文職限定ですからね。剣士とか剣技や必殺技出すのにも音声入力で技の名前叫ばなきゃならない、とかだったらゲーム自体ちょっとヤバかったかもしれないけど。
そうじゃなくて、一部の職業だけ呪文の実際の詠唱が必要、となるとそれを選択する人、そしてそれを極めようという人は余程の粋人のみになってしまうでしょうね。
不遇職ってわけじゃないよな、不遇ではないぞ、うん。
こういう絶対に不人気になってしまう職業を盛り込んでしまう、それも結構終盤で攻略に非常に重要な役割を担うことになる、って、ゲームの仕様的にどうだろうと思うところなんですけれど。
このゲームそのものが、異世界におけるスペルキャスターの選抜と育成を目的としていた、となるとなるほどちゃんと理由と意図があってこんな仕様にしていたんだなあ、と。うん、なるほど。

そんなこんなで、まんまと釣り針に食いついてヒットされてしまった主人公・道成寺九郎。このやたら恥ずかしくて面倒くさい音声入力必須の呪文を幾つも、それこそ3桁こえるだけスラスラと暗唱出来るほどに覚えまくり、色々と細かい小技や設定に基づく裏技なんかも習得してしまっているゲーム廃人にして粋人である。100超える呪文ソラで言えるって、家や学校では勉強せい勉強せいって怒られてそうだなあ、こいつ。
だがしかし、人間覚えたいものはいくらでもガンガン覚えられるんだけど、そうじゃないやつは無理やり詰め込んでギューギュー押し込んで蓋をしないと覚えられないもんなんですよね。
そう考えると呪文全暗記ってすごいはすごいけど人間離れしている、という程でもないのか。好きなことに没頭する人は、際限なく覚えますもんね。
ただ、実際呪文を声に出していわないといけない、というハードルの高さからそこにハマる人の母数が極めて少なかった、というのがやはり大きいかと。そういう意味では粋人だよな、彼。

作品としては、あわむら赤光さんの作品の中でもかなり飛び抜けて軽妙、ノリの良い作品だと感じました。元々どのシリーズでもテンポの良い軽妙さ、登場人物たちのポンポンとバドの羽根を打ち合うような軽くも鋭い掛け合いなんかは共通して目のするもので、軽いけれど軽薄じゃない、緩いけれど不真面目だったり不謹慎じゃない、この明朗で愛嬌のあるライトさというのは中々余人の及ばない塩梅のバランスと芯のある楽しさがあって、好きだったのですが、本作はその中でも特にライトな部分を抽出して描いたような作品でしたね。
九郎とその世話係となったメイドのセイラとの掛け合いなんか、セイラがからかい九郎がイイリアクションして、と実に間食めいた楽しいやり取りでしたし。

とはいえ、変に深刻とならないとはいえ、話にはセイラの命が掛かっているような展開にも突入しますし、何より九郎ってこれでもかなり努力型の主人公なんですよね。
ゲーム時代でも、不人気職のトップランナーだけあって誰かが調べてくれた情報を後追いして活用する、というタイプじゃなく、一から全部自分で細かく調べていく、一つ一つ丁寧に抜けがないように、また未知の可能性を求めて検証していく、いわばガチ検証勢の一角だったわけです。人のもので相乗りして美味しいところだけもっていく、みたいなのとは一線を画している。
異世界に招かれて、こちらでスペルキャスターとして頑張ることになった際も、元々女神様がスペルキャスターとして現実に活躍できるようにゲームでも現実と同じ仕様にしていたので、そのままゲーム時代のプレイヤースキルなんかも流用できる、そういうはずなんだけれど、やはりゲームと現実とではどうしても違う部分が出てくる。女神様は全面的に味方なんですけれど、それでも彼女の言い分を鵜呑みにせず、女神も把握しきれていないゲームと現実の差異から生じるバグなんかもあるんじゃないか、とこっちに来てからもまた検証を繰り返してるんですよね、この子。
情報を鵜呑みにせず、とかく自分で確かめてみる。こういう所、非常に堅実ですらある。傲慢とは程遠い、一つ一つ石橋を叩いて渡るか渡るまいか違う手段があるかどうか検証する、というタイプだ。戦闘そのものもかなりロジカルで、偶然や奇跡を作戦計画に盛り込まない。逆にアンラッキーなんかは想定にいれてそうだけど。
だもんで、今回のボスキャラとの戦闘も相手が脳死プレイをしてくれた、というのもあるけれど、派手な逆転劇などもなく、これかなり地味に詰めて詰めて責め殺したぞぃ。

ストーリーとしては、これがオープンワールド。どちらかというと舞台を知らしめるようなプロローグで、続くとしたら本番はこれからでしょう。人間関係も今の所非常にシンプルな形で収まっていますし。一方で謎の女騎士さんと交流しつつもまだ本格的に相手の正体も明かされずに話進んでいませんし、少女吸血鬼の方も中途半端に絡んでいて相手の立場かなりややこしい所にあるんだけれど、それだけに九郎と何らかの接触があれば、面白いことになりそうなんですよね。
まあいずれにしろ、二巻以降次第かなあ、と言った感じです。なんか他のシリーズを書く合間の箸休め、という感じもある気がするかしら。