【断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す 3】 楢山幕府/ えびすし TOブックス

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公爵令嬢クラウディアは悩んでいた。男装姿で古巣の娼館へ乗り込み、悪徳貴族をぶちのめしたものの、娼婦たちを窮状から救う手立てがない。そんな折、視察へ赴いた貿易国・アラカネルで、枢機卿から商談を持ちかけられた。巨大な利権を握る教会は、裏組織をも牛耳っているらしい。政府の管理下で公娼を作りたいクラウディアは、彼に表面上の協力を申し出るがーー全ては、彼女の仕掛けた罠だった!? 「本番はこれからでしてよ?」犯罪組織のトップの座を巡り、連合国の王太子に暗殺者、婚約者のシルヴェスターや遊女たちをも巻き込んだ、異国での騙し合いが始まる! 元娼婦の令嬢が悪で正義を貫く、痛快ラブファンタジー!

うはー、これは悪だ。これ以上無い悪女の所業ですよーー。
婚前交渉はいけません、とシャットダウンしつつも雰囲気良くなりすぎて同衾する流れになり、ダメよダメよと言いながらも、どうしてもというなら仕方ないですねえ、という半ばOKサインを出して睦み合いにまで発展しながら、いざという所になって……寝ちゃうとか。
この、凄まじいまでの、お預け! 涎垂らしてイキり立ってる男の子を前にして、このお預け!
なんという悪女! まさに想像を絶するまでの悪辣さ! 男心を弄ぶ、完璧な悪女ムーヴ!

吸血衝動に耐える真祖吸血鬼もさながらの形相で目をギラギラさせながら一晩一睡もせずにソファーで蹲って耐えてたシルヴェスターくん、もうゴールしてもいいと思うんよ?

さて、シルヴェスターの海外視察についていくことになったクラウディア。島国にして交易国でもあるアラカネル連合王国は、各国に多大な影響力を及ぼす教会の唯一神への信仰を強要する姿勢に物申す態度をとっていて、教会の持つ巨大利権との衝突を起こしていたんですね。
出てきましたよ、宗教対立。とはいえ、アラカネルはあくまで共生を主張していて教会を排除しようとしている訳ではないので決定的な対立には至っていないのですが、教会側が地味に生活必需品の交易を絞るような経済封鎖を仕掛けているので、アラカネルとしては結構苦しい立場になってるんですな。
クラウディアたちの住まうハーランド王国は唯一神を信仰する国でシルもクラウディアも普通に教会に通う信徒だけれども、教会の巨大利権を握っての政治活動には同調していない。それはそれ、これはこれ。というわけで、アラカネル連合王国とは寧ろ仲良くやってるんですね。アラカネルへの出張もその一貫。さらに、教会の枢機卿に怪しい動きが見られて、シルヴェスターは警戒を強めている、という状況。
何しろ場合によってはハーランド王国よりも巨大な勢力としての側面を持つ教会が相手となると、今までみたいに自分が守っていればクラウディアは安全、という保証がなくなるわけで、そういう意味でもかなりシルはピリピリしているわけです。しかも、今回は地元じゃなくて外国が舞台ですからね。
必要以上に過保護になってしまい、今まで通りにシルを傍で支えたいと願うクラウディアとすれ違いが起こってしまうのです。お互いを大事に想うが故に、お互いの気持ちがすれ違い、衝突してしまうという悪循環。
でも孤高の氷の王子のように見えて、意外と周りに率直に直言してくれる友人がいるのがシルヴェスターであり、孤高の悪役令嬢に見えて親身になって一緒に悩んでくれる姉妹のような人がいるのがクラウディア。
一度血が昇った頭を冷やして、信頼できる人から率直に遠慮なく言いたいことを言ってもらえれば、一人で考えていてはどうしてもわからなかった、理解できなかった相手の言い分の真意が、そして自分の中で凝り固まっていた部分がちゃんと見えてくるのが、聡明なこの二人なんですねえ。
相談できる人がいて、相談できるだけの勇気がある、ってのは意外となかなか難しいものだと想うのだけれど、それが出来るくらいシルヴェスターもクラウディアもこれまでで培ってきたものがあったわけだ。
しかし、この敵役となる教会の枢機卿ナイジェルがかなりヤバそうな相手なんですよね。当初は本当に善良で裏表のない聖職者に見えましたし。実際は小悪党どころか人心を弄び、その癖一切自分が関わる証拠を残さずどんな局面になろうと生き残る強かさを持つ邪悪そのもの。どちらかというと、野心家や俗な欲望に忠実、というよりもこれ、愉悦部ですし。自分の有能さを悪辣な方向に存分に発揮したい、という根っからの悪人タイプですし。
まさか、犯罪組織そのものを食い物にして顎で使い倒しているとか。まさに弱者の敵でもあったわけだ。
何とかして、かつて前世の自分がなっていた娼婦という社会的弱者を救済したいと思いつつも、公爵令嬢という自分の立場だけでは本当に小さな範囲にしか影響を及ぼせない事に悩んでいたクラウディアにとって、今回の一件は娼婦だけではない、貧困層そのものに手を及ぼしていくきっかけとなっていく。かつて娼婦となったが故に、上からではない彼らと同じ目線に立って寄り添って支えようとするクラウディアの存在は、貧困層にとっても輝く星のようであり、本来そんな弱者たちの寄り合いであり互助会的な側面もあった犯罪組織にとっても、自分たちを食い物にして踏み躙っていくナイジェルと全く異なる希望として、クラウディアの存在が現れてきたわけだ。
クラウディア第一主義のシルヴェスターをして、彼女に多大な危険を及ぼしかねないナイジェルを、事件の責任を取らせる形で現場からは排除出来たものの、証拠不十分という事もあり幾つもの尻尾切りで逃げ切られ、決定的な意味で追い詰めることは叶わなかった。
シルヴェスターをして、手を出せないフィールドにナイジェルはいる。そこで、彼は舌なめずりをしながら新たに現れた美味しい獲物を見定めている。
果たしてまっとうな手段でこの悪の聖職者を追い詰めることはかなわない。となると、本作の当初のコンセプトでもある、悪を以て悪を討つ、がもう一度引き立ってくるという事なんでしょうかね。
面白いのは、この巻の結末。クラウディアが王国の裏というべき組織を統括する立場に立ってしまうんだけれど、これクラウディアの独断ではなくて、むしろ国からの指名という形になってるんですよね。しかも、ちゃんとシルの承認を得て。シルヴェスター、お許し出したの!? 言わば国公認、婚約者公認の犯罪ギルド首領就任。これは面白いことになってきたw