【許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい? 2】 疎陀 陽/みわべ さくら ダッシュエックス文庫

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悪役令嬢として名高い彩音と、突如始まった、同居生活。
最初は探り探りだった2人も、同じ時間を共有することで、互いのことを知り、少しづつ距離感も縮まってきていた。
そんなある日、浩之の幼馴染である、快活少女・智美と少しおっとりな涼子が、とある“事情”から大喧嘩に!?
「私たち絶交したからっ!」
その勢いにあたふたするしかない浩之だけど、2人の喧嘩の原因を周りの友達はなぜか察しているようで──。
そんな鈍感よりタチの悪い浩之と、許嫁の彩音、絶賛喧嘩中の智美と涼子──複雑な4人の関係がついに動き出す!
大人気ラブコメ待望の第2弾!

彩音、今回は徹底して傍観に徹していたなあ。傍観というよりも、自分を部外者として位置づけて余計な差出口をしないように。いや、一歩退いて譲っていたというべきか。
この娘未だに浩之ちゃんを政略結婚の駒にしてしまった事に引け目を感じているのか。もう好きなのに。自分だって、彼のことを好きなのに。恋しているのに。
そういう意味じゃ、全然部外者じゃない、当事者なのに。今回の幼馴染三人組の件には踏み込もうとしない。付き合う付き合わないなんて、えらい話になっているのにそれがどうなろうと、浩之がどういう決断をしようと邪魔しないように、3人の邪魔をしないように後ろに退いてるんですね。
それでいて、ほんのちょっとだけ、許嫁の私のこと忘れないでね、とささやくあたり、ほんと可愛い。ほんと健気。有言実行、桐生彩音は今回ただただ浩之の味方であり続けた。それ以上でもそれ以下でもなく。
本来なら、誰よりも宣戦布告すべきなのはこの娘だと思うんですけどね。彩音自身、まだステージに立っていないつもりなんだろうか。そもそも、立つのもおこがましいと思ってるのだろうか。

彩音のそんなスタンスを、立ち位置を、距離感を、果たして幼馴染女子二人、智美と涼子がどう思っているのか、どう考えているのか、どう感じ取っているのかはわからない。
ただ今回の一件、二人共あくまで焦点は浩之であって彩音は眼中にないんですよね。涼子の方はまだ彩音の存在の登場が、現状維持を破綻させるものであるとちゃんと認識した上で動いているけれど、智美の方なんぞ、彩音の存在を無視しているんじゃないか、というくらい彩音を意識から徹底的に排除しているのはちと驚かされるものがあった。
あくまでこれまで通り三人一緒で居たい、と固執する智美だけど、彩音が居る以上それはもう破綻しているにも関わらず、智美はその事実を一切無視し続ける。
涼子の方も、彩音の存在が今の関係を維持できなくするものだ、と認識しているものの、今回の付き合う付き合わないの騒動に関しては、彩音をその件に参戦するプレイヤーとは一切認めていない。認識していないのか認めていないのかはわからないけれど、あくまでその件は幼馴染三人、浩之と涼子と智美の三人の話で完結させていて、彩音の存在は一切考慮に入れてないんですよね。
これは……彩音のことは恋敵として眼中に入れてない、ってことなのか?
或いは、何はともあれ今の幼馴染三人の関係に一旦答えを出さないと、その外側に位置する彩音に関しては後回しにするべき、という考えだったんだろうか。
何れにしても、過去から続くこの3人の幼馴染ゆえの関係の縺れを精算しないとはじまらない、という事だったのかもしれない。智美に関しては精算なんかするもんか、というスタンスだったわけだが。
にしても、それにしてもですよ? あまりにも彩音の事を無視しすぎじゃないだろうか、この幼馴染女子たちは。付き合う付き合わないって、交際するって大問題じゃないですか。同居している許嫁というとんでもない存在を、ここまで眼中にありません、とばかりにガン無視できるもんなんだろうか。本気で、この許嫁という関係は契約上のものに過ぎないと思ってるんだろうか。智美は最終的に彩音と浩之の関係について言及して、その距離感の近さについて指摘して、涼子の現実逃避を打ち崩してはいますけれど。でも今回については徹底して、涼子にとって相手は智美で、智美からすると涼子だけが唯一なんだよなあ。彼女らにとって、とにかく「三人」なんだ。彩音はその中には入らないのですよ。
そういう意味では、年下の後輩たち含めてこの幼馴染コミュニティって結構排外的とも言えるんですよね。それだけ強固な関係だとも言えるのでしょうけれど。

そもそも、浩之ちゃんたち三人とも、付き合う付き合わないで大いに拗れて大いに悩み苦しむことになりましたけど……取り沙汰される問題は、話は、往々にして交際するか否か、という所で終わっちゃってるのがちと気になったんですよね。
幼馴染関係の決着として、ゴールとして付き合う云々の話になっているけれど、本来交際する付き合う、彼氏彼女の関係になる、というのはさ……はじまりじゃないですか。スタートじゃないですか。
でも、彼らは付き合ったらそれまでの関係が終わって決着がついて……で? それから? 付き合い始めてからどうするの? どうしたいの? なにをしたいの? という話については一切してないんですよね。そこまで頭回ってないのかもしれないけれど、彼らの中でそれがゴールになってしまっている。そうなったあと、どうしたい、なにがしたい、どうなりたい、というヴィジョンについて誰も言及しないんですよ。付き合いました、めでたしめでたし、ってわけじゃないのにさ。
浩之ちゃん、めっちゃ悩みに悩んでたけど。涼子、そこが終点のように付き合ってくれと追い込みかけてたけど。智美、付き合ったら何もかもが終わっちゃう、みたいに追い詰められてたけれど。
彼らにとって、お付き合いするってどういう位置づけだったんだろうね。好きという気持ちと、交際関係になるという事に、どういう違いを見出していたんでしょうね。
特別な関係になるってこと? それって幼馴染とどう違うの? 一人を選んで他を選ばないという独占契約? キスしたりセックスしたりする事が唯一許される関係? 感情のままに触れ合って、それをたった一人だけに許して、他には許さないということ? 
やたらとね、選ばれなかったら一人になるとか、一人にしないとか、そういう話ばかりしていて、実際に具体的になんでもいい、そういう付き合った後の、どんな風に恋人として過ごすのかの、願望とかイメージとかビジョンとか、そういうのが語られないものだから、この娘たちは付き合うって事をどんなものだと思ってるんだろう。浩之は、この男の子はこの娘たちと付き合うという事を、幼馴染と違う関係をどんな風にやっていくつもりなんだろう。そういう所、ちゃんと考えてるのかな? 選ぶことに頭一杯で、考えてる余裕ないのかな? と、そんな風になんかねー、気になっちゃってねー。
まー、余裕はね、みんななかったですよね。そんな後のこととか、問題はあくまで選ぶか誰を選ぶかそもそも選ばないか。関係を変えるか変えないか、という所に集約されてましたもんね。
とはいえ浩之ちゃんはね、そこでちゃんと彩音の事を思い出して、ケリつけたのはえらいと思うんですよ。そのさきを考えたかはわかりませんけれど、少なくとも彼にとってはもう彩音の存在は、智美と涼子に引けはとっていない、ここで彼女がいないところで一方的に置き去りにしていいものではないとしたわけだ。
うーん、そうなんだよなあ。結局はそれなのか。浩之にとって、大事な大事な二人の幼馴染と同じくらい、桐生彩音を一人にしたくない、と認識させる事が物語において重要だったのか。
前述上記では「〜〜なんだろうか」と疑問形で書いてたけど、おおよそそんな感じなんだろうなあ、と改めて振り返ってみて、思うことにした。
拗れに拗れた強固すぎる幼馴染関係を一旦精算して、フラットにしないと、涼子たちとしても彩音を対等な恋敵として受け入れがたいものがあった。
一旦涼子と智美で決着つけないと、ケリをつけないと、過去に囚われて前にも後ろにも動けなかった。
そう考えたら、そう捉えたらそりゃ、他の人を眼中に入れてる余裕はないとも言えるよなあ。そりゃあ、付き合ったあとどうしたいとか、考えてる余裕ないよなあ。
未だ彩音の方が一歩退いてる気もするけれど、なるほどこれでようやく、涼子たちも彩音に宣戦布告する立ち位置になれたのか。特別であることにあぐらをかかず、特権と思わず、貪欲に恋の勝者となるべく挑戦する。今度こそ、対等のプレイヤーとして恋敵として桐生彩音に挑むのだ。付き合って終わりじゃない、選ばれて終わりじゃない。そこがはじまり。その先の未来を、楽しい素敵な恋人としての日々を思い描きながら。