【人間不信の冒険者たちが世界を救うようです 1.最強パーティー結成編】  富士 伸太/黒井 ススム MFブックス

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最高のパーティーメンバーは、人間不信の冒険者!?

その日、歴戦の冒険者パーティーに所属していたニックは、父のように慕っていたリーダーから追放を言い渡された。だらしない仲間たちのため、金勘定や知識面などで彼らを支えていたにもかかわらず、横領の濡れ衣を着せられて。
恋人にもフラれ、すっかり落ちぶれてしまったニックだったが、偶然にも酒場で相席になった元貴族令嬢、破門神官、女竜戦士と意気投合する。
三人もまた誰かに裏切られて、人を信じられなくなった冒険者たちだったのだ!
誰も信じられない者同士だからこそ、共にやっていけると考えたニックたちは、生き残っていくために冒険者パーティーを結成する。
「それじゃあ、オレたちはこれから【サバイバーズ】ってことでどうだ?」
人間不信の冒険者たちが、最強のパーティーとして歩む冒険譚、ここに開幕!
アニメや漫画版の方は見ていたのでおおよその粗筋はわかっていたつもりだったのですけれど、原作であるこの小説、思ってたよりもずっと良かった。なんか凄くねー、グッと来た。来ましたよ。
完全に予算不足って感じのアニメはともかくとして、コミカライズの方は描いている川上真樹さんがまたこれまで幾つもコミカライズの良作を手掛けてきた人なので非常に面白かったんですけれど。いやあ、小説の方はまた一味違いました。
心情描写の方面ですね。ここの情緒の動かし方、その感情の表情って言うんでしょうか、心からにじみ出るもの、叫びとして吐き出されるものの描き方に凄く冷たいにしても熱いにしても温かいにしても温度が感じられて。
こういう抉りこみ、心の掘り下げみたいな所はさすが文章で物語を見せる媒体、というべき強みを感じさせる作品でしたね。ってか、改めて漫画の方もこの媒体の違いをうまいこと変換して描いてたんだなあ、というのが分かって尚更頷き度があがる。

さても、それぞれそりゃもう理不尽としか言いようがない理由と理屈によって、尊厳を踏みにじられた4人の男女。これまで信じていたものに裏切られる、という顛末に彼らは徹底した人間不信に陥ってしまうのです。
と、これはそんな人間不信に陥りながら、生活のため生きるためにパーティーを組み、徐々に打ち解け相手に信頼を覚え、絆を深めていく……そんな話ではあるのはあるんですけどね。これだと、場合によっては四人だけの完結した閉じた信頼関係になっていたかもしれない。
興味深いのはこれ、四人とも本当のどん底まで落ち込んで、さらにそこから底が抜けて取り返しがつかない事になる直前までボロボロになっていた時に、ふとした善意に救われているんですよね。
……いや、ティアーナだけは別に助けられていない気もするけれど。
他の三人に関しては、メンタルが立ち直れない寸前まで傷ついていたその時に、それぞれ無償の善意やちょっとした優しさ、気遣いみたいなもののお陰で、踏みとどまってるんですね。
まあそれがきっかけでニックはドルオタになり、ゼムは女遊びにかまけるようになり、カランは美食…というか孤独のグルメの道にはまり込むことになるのですが。ティアーナに関しては勝手にギャンブル沼にずぶずぶにハマっただけ、な気もしますけど。
わりとダメ人間な方に舵を切ってしまった気もしますけれど、ニックにしてもゼムにしても、そしてカランにしても……彼らに差し伸べられた善意って、雨に濡れて鳴く子猫に開いた傘を置いていってあげるような善意ではあったものの、それは見返りを求めない優しさであり、確かにボロボロで今にも死んでしまいそうな彼らに、ちょっとでも幸せになって欲しいという願いがこもった善意だったんですよね。
人の悪意によって打ちのめされ、心まで死のうとしていた彼らにとって、そんなささやかだけれど暖かな善意がどれほど救いになったか。
人間不信の極みにありながらも、彼ら四人がそれでも生きていかないとと俯きながらも進み始めることが出来たのは、そんな小さな優しさを与えてもらったゆえだったんじゃないでしょうか。それさえなかったら、彼らは絶望と憎しみのままに野垂れ死ぬか、本当に戻れない所まで堕ちてしまうかしていても、何も不思議ではなかった。特にゼムやカランが受けた仕打ちというのは、生きるのも苦しいと思えるほどのものでしたし。
それさえなかったら、果たして彼らはお互いパーティーを組むなんてこと出来ただろうか、と思うんですよね。
それでも、彼らは生きるために力を合わせることを選んだ。信頼も信用も出来なくても、仲間になって一緒に頑張る勇気を持てた。
そう思えば、これってなかなかの人間讃歌の話だと思うんですよね。人間の悪どさをこれでもかと見せつけながら、それでも人間捨てたもんじゃないだろう、という光も見せてくれる。
そうした狭間で、谷底に突き落とされ悶え苦しむニックたちの心情を丁寧に描写しながら、彼らがそんな中でも与えてもらった優しさを決して忘れず、不信感に苛まれながらもそんな与えてもらったものを、自分も誰かに分け与えてあげられる事が出来るんじゃないか、と。優しさをおすそ分けして、自分達を陥れた人間たちみたいな醜い輩になり果てず、ちょっとでもマシなように出来るんじゃないか、と。それを恐る恐る協力して一緒に冒険をはじめた仲間たちと、一歩一歩手探りで探していく、見つけていく、確かなものとして手に入れていく、そんな薄っすらと光るような希望を胸に宿していく、そんな心の描き方が……うん、なかなかグッとさせられたんですよねえ。
裏切られたんだ、踏みにじられたんだ、人間が怖いのは当然ですよ。怯えた猫みたいに、お互い毛を逆立てながら伺って、恐る恐る寄り添って、ちょっとずつ歩み寄る。
そういう中で主人公にニックが果たしていく役割というのは、これ見た目以上に重要というか……うん、凄くよくやっていましたよね。これ、性分でもあったんだろうなあ、面倒見の良さ。親身になりながら、それでいて適切な距離感を保ち続けるバランス感覚。入れ込みながらも入れ込みすぎない、踏み込みすぎない、それでいて熱い気持ちを感じさせる責任感の強さ。
親代わりだった元のパーティーのリーダーがニックを追放したのって、これ冒険者としての価値観が相容れなくなったというのもあるんだろうけれど、ニックをもっと自由な立場にして思うがままに羽ばたけるようにしてやりたいという親心もあったんだろうなあ。自分達のパーティーはニックにふさわしくないというのは、自分達にはニックはいらないというよりも、自分達がニックにはいらない、という意味合いがあったんじゃないだろうか。
いや、マジでニックの心配り、気の遣い方って並外れたところがあって、単なる仕切り屋とは一線を画してるもんなあ。なかなかここまで相手の気持ちとか鑑みて手厚く配慮できないですよ。お互い信用しないと決めたサバイバーズだけれど、それでさえ早々に信頼を厚くしてしまうだけの振る舞いを、ニックはしてるんだよねえ、これ。

いや、面白いだろうなあ、とは思ってはいたんだけれど、ちょっとこれは期待を上回ってくれるモノがありました。これは続きが楽しみ。






彼女に美食の楽しみを教えてくれるきっかけになった【一人飯】と呼ばれる冒険者