【転生したら皇帝でした 4 ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~】  魔石の硬さ/柴乃櫂人 TOブックス

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新皇帝カーマインに親を粛清された反皇帝派の襲撃──。帝国統一へ絶対に負けられない戦争が始まった。隊長クラスが引き抜かれて足りないにもかかわらず、敵軍は精強なうえ兵数は倍の5万!?誰もが怖気づくが……幼帝は戦略で数を覆すべく夜襲を決行する。封魔結界を張り巡らし、熱魔法で相手の大砲を徹底的に破壊。敵が攻めてくれば、丘陵陣地を駆使して、大砲を連射!さらには怯える民兵を鼓舞するため、忠臣達からの猛反対も押し退けて自ら最前線へ。なりふりかまわず勝利に喰らいつく。エスプリ幼帝が戦場で獅子奮迅!痛快王政サバイバルファンタジー第4弾!

うわぁ、この巻まるまる使って一会戦描くのか。それだけ皇帝に即位したカーマインにとって、この戦争、この親征、この戦いの勝利が重要だった、とも言えるんでしょうね。
本来なら彼が幼い頃から愚弟を演じる事を必要とした最大の政敵にして、常に命を握られていた相手である宰相ラウル公と式部卿アキカール公を即位式の場で討ち取った時点でもう勝ったようなもん、としても不思議ではなかったんですよ。首魁を二人共討ち取ったわけですしね。
ですが現実的に見ると、事を起こすまで本当に極小数の協力者しか得られなかったカーマインが、何年も機会を見計らいようやくつかんだチャンス。事、二人をこの場で討ち取り実権を取り戻すという件については勝利条件を整えて成功させる算段はつけていたものの、そこから先となると決して準備万端整えるというわけにも行かなかったわけです。
結果として、アキカールとラウルの残党勢力が地元で反旗を翻して帝国は内乱状態になってしまったのですから。
それでも国随一の武闘派であったワルン公から支持を得て、文武両道のチャノム伯も味方につけて、反乱を起こした残党たちに対しても分断工作などをしかけて着実に追い詰めていただけに、あとは残敵掃討の後始末という段階に至っていたはず、だったんですけどねえ。
物事はそう簡単に予定通り、想定通りには進まない、ということですか。相手がいるのなら尚更に、そして複雑多様な要素が絡んでくる戦争となれば、さらに尚更に。
戦争なんてものは戦う前の準備段階で勝敗は決している、なんて言いますけれど、どれほど準備万端整えて挑んだとしても、机上の作戦通りには進まないのもまた戦争。
相手を着実に、後がなくなるまで追い詰めて余裕を失わしめたからこそ、敵が想定外の動きを見せてしまう、なんて事もあるわけで。
それに、味方だって何もかもが想定通りに行くわけじゃないんですよね。事前に想定しきれていなかったところが露呈してきて、それが戦いの行方すら左右してしまう大きなチョンボへとも繋がってしまう。
あれほどど派手に敵を討ち、皇位を自分の手に取り戻したにも関わらず、これまでの長きに渡る愚帝を演じてきた影響は著しく、彼が突然覚醒して名君として目覚めた、なんて信じる人の方がどうやったって少ないわけです。当人たちが望んでいないにも関わらず、ワルン公の傀儡として見られてしまったり、式部卿と宰相の二大勢力の対立がそのままワルン公とチャノム伯の新たな権力争いへと変わっただけ、とも見られてしまう。
そんな中でカーマイン自身が武威を示し、本物の皇帝として権威だけじゃない権力も握る本当の支配者だという事を帝国全土に知らしめるためにも、多少無理をしてでも彼自身が親征をしなければならない状況だった。そう見るなら、カーマイン自身もなかなか現場に追い詰められつつあった、という事なのかも知れません。慎重居士の彼が残党の討伐なんて戦いで、これだけ体と命はらなきゃならなくなった、というのはそれが必要だったということで、それが必要なくらいの立ち回りを要求される立ち位置に立っていたって事ですからねえ。

とはいえ、実際に自分で戦場に出ることで後方の宮殿の中に閉じこもっているだけでは見えてこないものも見えてくるし、新しい人材とも巡り会えるという機会も生まれるというわけで。
上記もしたように、形勢ゆえに味方となっている貴族たちこそ多いものの、その人柄も含めて見極めた上での味方と言える人材がろくに居なかったのが今のカーマインだ。むしろ、あの境遇でこれだけ信頼できる臣下を手元に集められた事を称賛すべきなのでしょうけれど、それでもこれから皇帝として国を統べて行くには文武両サイドに人手が足りなさすぎた。
それを鑑みれば、この親征ではけっこう使えそうな逸材が見つかっているんですよね。腰を据えて皇帝家に味方すると覚悟を決めた貴族家も篩にかけるように浮かび上がってきましたし。
逆に油断ならない将来必ず敵対するだろう相手も自然と見極められたのも、また一つの大きな成果と言えるのかも知れません。ってか、明らかにこっち舐めてるにも関わらず手出しできない、というのはストレス溜まるよなあ。とはいえ、ああも露骨に外国と手を結ばれていたら、少なくとも内乱が落ち着いて皇帝派の勢力が安定せんことには、蛇がいるのをわかっているにも関わらず藪を突くことになってしまうだけにもどかしい。
それでも、最大規模の抵抗勢力だったラウル僭称公を打倒したことで、カーマインの権力は安定し、あとは小規模の反乱をチマチマと潰していけば帝国の再統一も容易に達成できる、そのはずだったのが……。
なにこれ、いきなり金ヶ崎なんですかね、これ!?

しかし、改めて見ても戦争ってのは思う通りには進みませんよね。この中世の時代背景ならではというか、兵隊のモラルの低さや命令の聞かない忠誠心の低さとかは厳しいとしか言いようがない。最終的にカーマインが自ら突撃する羽目になったのも、とにかく偉い人が先頭に立たないと兵が動かないという有り様だったからですし。そして、略奪に夢中になって追撃やらの統制もきかなくなってしまうあたりなんぞ、後で与えられるだろう大きな報酬を放り出して、目の前の戦果を抱え込んで戦場から逃げてしまう兵隊が続出するとか、そりゃあ遠い目にもなろうってもんだ。
皇帝自らの親征で、それどころか皇帝と共に突撃するような誉れがあってもこれですからね。皇帝のカリスマに兵たちが心酔して羊の群れが狼にかわる、なんて都合の良いことは早々起こらんわけだ。そういう意味でもひたすら世知辛いお話でもあるんですよねえ、でもそれがまた面白いっ。