【異世界ラーメン屋台 エルフの食通は『ラメン』が食べたい 1】  森月 真冬/転 PASH!ブックス

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私はエルフのリンスィール。 エルフ界一の食通である!  城下町ファーレンハイトに、不思議な車を引き、 夜な夜な奇妙な料理をふるまう男が現れた。 料理の名前は『ラメン』。 それは一口食えば、天にも昇る味である! 私はあっという間に『ラメン』の虜となり、 毎晩、その男を待ちわびていた。 しかし、『友』と呼べるほど仲良くなった男は、 ある夜を境に、私の前から姿を消してしまった。 それから二十年、私は『ラメン』を味わいたくて、 同じ街角に立ち尽くしている。 ああ……愛しの『ラメン』よ、もう二度と、 あの味には出会えないのだろうか……?

もう表紙絵見ただけで美味しそうなの、ズルいよラーメン!
ラーメンを一度味わい、常連になるほど食べまくり、それこそ毎日毎日飽きもせず食べていたのに、突然20年も食べられなくなったら、そりゃもう……悲しいなんて言葉で表現できない絶望であり虚無であろうなあ。
20年のブランク、空白期間が余計にラーメンへの切望を募らせる。ああラーメンよ、ラーメンよ。

異世界料理モノは多かれど、さすがにラーメン特化、ラーメンだけという作品はこれがはじめてだろう。むしろ、これまで無かったのが不思議なくらいだ。それぐらい、ラーメンというものは多種多様、千変万化に彩られている。それこそ【ラーメン大好き小泉さん】というラーメンをひたすら食べるだけの漫画が10巻も続いているくらいですもんね。あの漫画もラーメン美味しそうです。あれだけラーメンに種類あるのを知ったのは、小泉さんのおかげです。
本作も、こちらは主人公が食べに行く形式ではなく、日本から店主が屋台を異世界にやってくる形式ではあるのですが、20年前にラーメン屋台を引いてきた店主が元祖中華麺で統一してそれ以外を作らなかったのに対して、その息子である新たに現れたラーメン屋台の若店主・レンはそのへん非常に柔軟で、全国を渡り歩き幾つもの店で修行を重ねてきた経験から、様々なラーメンを自在にオリジナルに近いレベルで作ることが出来るんですね。お陰で、異世界に来るたびに異世界のラーメン狂いたちに新境地を与え続けるのである。
いや、マジで凄くない? ラーメン屋ってこんなに多種多様なラーメン作れるの? いや、この若店主に関しては非常に研究家で作ったラーメンの解説の詳細さ、それこそバックグラウンド、なぜそのラーメンが作られるようになったのかという来歴からどうしてそんな作り方がされるのか、味の醍醐味などつぶさに語られるように、そのラーメン一つ一つ適当に真似して作ってるわけではない、しっかりとした味の基礎、下地が感じられるんですよね。そりゃ美味い、美味いに決まってる。
私は醤油豚骨系が大好きです。
ベジポタ系って恥ずかしながら知らなかった。ってか、異世界来て一発目がベジポタ系って、それまで元祖中華そば系をラーメンとして認識してきた異世界人たちにとっては、そりゃこんなんラーメンじゃねえっ、と思われても仕方ないよ!
ラーメンから遠ざかって20年。長寿のエルフやドワーフでも決して短くはない期間。人間なら子供が大人になって独り立ちしているくらいの年月だ。
異世界人たちのラーメンへの切望は、幾人かが我慢できずに独自にラーメンを再現しようと研究を重ねて、かなり近しいものを作り上げ、ラーメン文化が新たに芽生え始めているほど。
もはや異世界から供給されるラーメンが途絶えても、ラーメンは終わらない、ラーメンに魅せられた人たちは決してゼロにはならない、居なくなることはないだろう、という所まで深く根ざしてはいたんだけれど、それでもあの店主「タイショー」の味は忘れられないものとして、今もリンスフィールなど常連たちは夜となると屋台が現れた路地へと通い続けていた。
そんな彼らの前に現れた若店主がもたらしたものは、ただ父親の味を彼らにもう一度送り届けるだけじゃあない。新しい、さらなるラーメンを。ラーメンという食べ物の奥深さを、その裾野の広さを、その自由な境地を、リンスフィールたち常連たちに、そして異世界でラーメン文化を立ち上げようという若者たちに伝え広める伝道師でもあったんですね。
若店主、リクエストに応えるだけじゃなくて、積極的に自分から数日ごとに新たなラーメンを準備して作ってくれるのである。それはまさに新境地。ただ作って食べさせるだけじゃない、彼の解説はこの異世界の地でラーメンを作ろうという人たちにとっても具体的なアドバイスともなってるのである。
それに、若店主・レンは単にラーメンの種類だけじゃなく、化学調味料やインスタントラーメンといったものにもしっかりと言及し、その効用や革命性にも触れている。インスタントラーメンなんか、わざわざ持ってきて眼の前で作ってますしね。その概念を伝えることで、異世界側でも即席麺が誕生することを願って。願って、というか常連のドワーフの親父さんが早速研究に取り掛かってましたけど。
こうなってくると、不動産である異世界と店が直接繋がる形式と違って、屋台というのは移動が自由な分、フットワークが生まれるんですよね。
エルフの王国に出張して、そこでラーメン祭りみたいなものを開催して、国を挙げてラーメンラーメン!って感じに盛り上がるきっかけにもなりましたし。
あそこでも若店主、惜しげもなくラーメンの作り方をエルフたちに伝え、ただ食べさせるだけじゃない、作る過程を事細かに説明しながら、手取り足取り作り方を教えて、一緒になってディスカッションしながらラーメン作るんですよね。
そう食べるだけじゃない。みんなが、ラーメンを作り出すのだ。ああじゃない、こうじゃない、と試行錯誤しながら。お互い食べさせあって出来栄えを語り合いながら。
最初どこか活気が失せていたエルフの国が、みんなが夢中になって、満面の笑顔になりながら、はしゃいでラーメン作りに燥いで、まさにお祭りといった感じで賑やかに盛り上がるシーンは、単に美味しい料理を食べさせて喜ばせるだけじゃない、新しい食文化の誕生を見るようでなんか素敵に思えたんですよねえ。
いずれ、このエルフの地に根ざした、ご当地ラーメンが誕生する。エルフの国だけじゃない、異世界の様々な街で、都市で、その土地独自のラーメンが、その地に住まう人たちの手で生み出されていく。
うん、イイなあ……。

料理モノの小説の必須というべき、読んでるだけでお腹空いてたまらなくなる、とにかくそれ食べたい! ってなる表現描写も、もうバッチリ。いや、リンスフィールさんたち、マジで美味しそうに食べるんよ。これだけ美味しそうに夢中に食べてたら、そりゃこっちもお腹空きますよ。
日本からの迷人らしい魔女さんとか、まだまだエピソードもありそうだし、もちろんまだまだラーメンの種類もありそうですし、続きが楽しみです。