【メルヘンザッパーデストロイヤー 英雄になり損ねた男、最底辺スラムで掃除する】  林トモアキ/ 愛姫みかん 角川スニーカー文庫

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最強のならず者は、無敵の掃除人!

地球外生物兵器の脅威に死力と科学力を尽くした人類は、地球人口の半分と引き換えに絶滅を免れた。
それから2年――軍をクビになったタクルは失意を抱え、戦禍に追われた人々が流れ着くスラムにいた。
清掃バイトの薄給に返しきれない借金、果ては相棒のミリィに振り回されて地域の揉め事までボランティアで掃除するその日暮らし。
しかしバケツを被った奇妙な少女を拾ったことから、ただでさえ終わっているささやかな日常まで崩壊する羽目に――!?
戦争を生き残ったために卑怯者の汚名を被せられた男が、本当は彼を英雄だと知る少女たちのために再び立ち上がる!


英雄とは死んだ者しか慣れない。そういう意味では、彼…占田タクルはまさに死に損なった男だ。
死ななかったからこそ、彼は英雄にはならなかった。
そんなもん、ならなくて良かったじゃないか、と短絡的には思うんですけどね。彼が死に損なった時のシチュエーションを冒頭で見せられた日には、うん、これはつらいですよ。
絶対に助からない戦いに、部下たちを導いてしまった。それも、彼だけ実力で生き残ったんじゃなくて、軍の上層部から謀られて何も出来ない状態にさせられて、目の前で部下たちが殺されていくのをただ見ているしかなかった。人類を救う少女たちを救うための礎になるために、ただの子供でしか無い魔法少女たちを大人として助けるために、部下とともに死ぬつもりだった彼にとって、それはあまりに酷な戦争の終わりだっただろう。
汚名の肩代わり、スキャンダルの主人公として仕立て上げられ、英雄どころか人類の恥さらしとして糾弾された事よりも、ただ部下とともに死に損なった事こそが彼を苛んでいるようだった。
でも、自分が下した決断自体は一切後悔してないんですよね。上層部の命令に逆らい、見捨てて退却せよと言われた魔法少女たちを代わりに救援ヘリに乗せて送り出し、殿として部下たちとともに命散らすことを決断したことだけは。

生きる意思すら失って、どこか誘われるように死に魅せられて、そのまま落ちぶれ無気力に生きているのか死んでいるのかわからないような底辺の人間として彷徨っている……のかと思ったら、このタクルという男……わりとちゃんと働いているぞ!?
借金まみれでバイト暮らしで実際気力も出せずにどこか危なっかしいフラフラした様子ではあるんだけど、酒浸りになったりとか働きもせず怠惰に生きてるとかじゃなくて、バイトして働いてますよ、この人。それもその日暮らしの日雇いバイトじゃなくて、ちゃんとお店のスタッフとしてシフト守って働いてますよ?
そして暇な時は同じくスラムに暮らしている魔法少女アガリの魔女であるミリィに引っ張り回されて、ボランティアでヒーロー活動とかやってるし。主体はミリィで、タクルは勘弁してくれと嫌がりながらも、けっこうちゃんとミリィに付き合ってあげてるんですよね。
店のオーナーであるママ・マッスルからの信頼も厚いですし、地元マフィアであり借金の主であるクラリスの勧誘も断りながら、まっとうなバイトで食いつないでるんですよね。
……落ちぶれてはいるけれど、これってわりと真っ当に生きてないですかね、タクルさん。
いやー……見た目完全にホームレスだから絶対精神まで落ちぶれちゃってると思ってましたよ。だって、見た目ヤバいじゃないですか、このおっさん。もろにおっさんですよ、この小汚い無精髭、見てくださいよ、めっちゃ小汚いですよ。ザ・無精髭じゃないですか。イケオジな役者さんがしてたらなんかカッコいい無精髭とはわけが違いますよ!?
そしておっさんの裸の上半身。わりといい筋肉ついているしっかりとした体のはずなんだけど、こうしてみるとおっさんの匂いが漂ってきそうな、ぶっちゃけていうとなんか臭そうじゃないですか? むしろボロでも服着てた方がマシ、という感じのおっさんの裸が見事に見事に描かれているという感じで、もうすげえおっさん! 
おじさん主人公は昨今珍しくなくなりましたけど、ここまでおっさん臭のするおっさんはなかなか居ないです、希少種です、いっそスゲエです。
イラストは、林先生のデビュー作でも組んでいた愛姫みかんさん。あの【ばいおれんす☆まじかる!】のときとはだいぶ絵柄の印象違ってるんですけど、そらもう20年近く経ってるもんなあ。ってか、かなり有名なアニメーターさんらしい。知らんかった。

さても、そんなおっさんおっさんした見てくれに反して、ちゃんと生きてるんだこのおっさんは。英雄じゃなくても生きてるんだよ、このおっさんは。
いや、生きてなお彼はヒーローだ。死んでいなくても、彼は今なおヒーローなのだ。心の何処かで部下たちの後を追って何もかもオシマイにしてしまいたいという願望に惹かれながらも、彼はちゃんと生きる事をやめられなかったし、悪の道に走ることもなかった。ミリィのような子供の願いを叶え続け、ほそぼそとだけれど困っている人弱っている人を助ける活動を続けていた。
弱きを見逃せないんですよ、この人は。子供は守ってやらなきゃいけないと信じてるんだ、この人は。
まさに、おとぎ話(メルヘン)のヒーローである。
それは相手が誰だろうと揺るがない。地球外生命体の絶死をもたらす怪物の群れだろうと、巨大なマフィア組織だろうと、地球軍の陰謀だろうとなんだろうと、だ。
彼は歴戦の兵士として今なお錆びれぬ腕利きだが、戦争では地球外生命体に蹂躙され、今もより強い敵には容易に打ち砕かれる無敵無双とは程遠い、その程度の強さだ。
それでも彼はボロボロになりながらも決して退かない。あの日、死を前にして子供たちを守るために絶望に立ちふさがったように。見てくれなんざ、どうだっていい。
カッコいいってのは、こういう男を言うんだろう。カッコいい男で、カッコいい大人だ。子供が憧れ慕う大人の姿ってもんだ。
いいね、実にいい。

彼に焦がれる少女たちを、タクルさんよ、子供だと侮ることなかれ。この子たちこそ、彼のかっこよさを誰よりも知っている子供たちだ。そして少女はすぐにだって女になる。いやさ、今もう既に一廉のソレだよ。
特にミリィは、魔女として決して強くない標準以下の出来損ない。でも相棒と呼ぶに相応しいコンビだ。タクルが絶望に負けて本当の意味で落ちぶれていくような人生を歩まずに済んだもの、ミリィがずっと彼を引っ張り回して、活力を与え続けてくれていたおかげなんだろう。ボランティアのヒーロー活動だって、タクルは嫌がりながらもそれをやらされていたからこそ、心までやせ衰えなかったんじゃないだろうか。そういう意味でも、ミリィはずっと支えでもあったんだよなあ。

しかしこれ、続くのならばかつて彼が救った魔法少女達の中から生まれた英雄たち、白雪姫たちとか、あとあのタクルにとっての最後の戦場で、一人命令を下して死地から送り出した副長の少女とか、登場してきそうだなあ。ってか出てきて欲しい。