【暁の魔女レイシーは自由に生きたい 1〜魔王討伐を終えたので、のんびりお店を開きます〜 】  雨傘ヒョウゴ/京一 オーバーラップノベルスf

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勇者パーティーの一人、暁の魔女レイシー。
孤児であった彼女は魔法の力を見込まれ、国との契約のもと生かされていた。
そんなレイシーは魔王討伐を終えた後に貴族と結婚するはずだったが、相手から他に好きな人がいると婚約破棄されてしまう!
レイシーがすんなりと受け入れる一方、傍で見ていたお節介な勇者は彼女に代わり貴族へ反撃。
結果、レイシーは国から解放されることに!
そこで初めて「自由に生きてみたい」という願いを得たレイシー。
願いは聞き入れられ、王都から離れた村に大きな屋敷を与えられる。
――やってきた村では穏やかな時間が流れていた。
しかし、何もない村は困りごとも多いようで、レイシーは自分にもできることはないかと考えるように。
そんな折、魔術が人の役に立つことを知った彼女は『何でも屋』を開くことを決意する!
けれど世間知らずの彼女が行うこと、生み出すものは規格外のものばかりのようで……?

これも言わば魔王を倒したその後の勇者パーティーのお話なんですね。
世界を脅かす魔王を討伐する、という大きな目的が達成されたあと、その目的に向かって一心不乱に突き進んでいた勇者とその仲間達は、目的の完遂によって改めてそれぞれまた新しい目標を見つけることになる。
またみんなで一緒に、というケースもあるだろうけれど、だいたいにしてそれぞれの道を歩み始めるというのが多数派になるのだろう。

暁の魔女レイシーには、だがしかし新たに果たすべき目的なんてものは彼女の中には存在しなかった。
そもそも彼女はその魔力の多さを見込まれ孤児から拾い上げられ、育て上げられた兵器のような存在だ。国との契約に縛られ、言われるがまま魔王討伐のチームへと加えられ、その任務が終われば貴族家へと嫁がされて、膨大な魔力の保有という資質を血筋に加えるための道具として一生屋敷の奥で飼い殺される。
そんな未来を、彼女は何の抵抗もなく受け入れていた。魔王討伐の報奨として、パーティーメンバーにはそれぞれ国から望むものを与えられるはずなのに、レイシーは自分の自由すら望まず、それ以前に自由になるという発想も持っていなかったみたいで、権利を放棄して唯々諾々と与えられた運命を受け入れてたんですね、この子。
意志薄弱、欲望や欲求も薄く、或いは生きるための意思、意欲を強く持たない、というべきか。目立つことが嫌いで人見知り、引っ込み思案で臆病で他人が怖くて仕方なくて、そういう意味では【サイレントウィッチ】の沈黙の魔女モニカ・エヴァレットとよく似た傾向の内向的な少女だ。
放っておけば食事もせず、目を離すとふらりとどこかに居なくなってしまって野垂れ死んでしまいそうな。
旅の最中、勇者ウェインはそんなレイシーの危うさを仲間として気にする内に……放っておけなくなりそれまで普通の貴族の子息として育ってきたのに、それをきっかけにオカン系勇者として自分の世話好きでマメな面倒見の良さを開花させてしまうんですね。
いや、この勇者、まじでお母さんw
でも彼をはじめとした勇者パーティーのメンバーと旅した事がレイシーの情緒を育てたんじゃないだろうか。旅が終わって、貴族の子息に嫁ぐ前にこの仲間たちの姿絵を買い集めて、大切そうに抱え込んでいたのも、それだけ彼女にとって旅の仲間たちと過ごした時間がただ言われるがまま生きるしかなかった、それに何も考えずに従うだけだったレイシーにとっての、唯一の宝物というべき思い出だったから。
だから、ウェインの機転と策略によって、決められたレールの上を何の意思も持たずに黙って進みその行き止まりで死ぬだけの人生、それから解き放たれた時、レイシーはそんな自分の無機質な人生を苦しいと思ってた、辛いと思っていたことをようやく自覚できたんですよね。自分がどれほどの閉塞と重圧に押しつぶされていたかを自覚できた。
解放感に、自由になったという実感にポロポロと涙を流すレイシーの情緒を育てたのはウェインであり、勇者パーティーの仲間たちだったのでしょう。あの旅がなかったら、果たしてレイシーに自由を感じる心が育っていたかどうか。

そうして魔王討伐の報奨に、改めて自由を貰ったレイシー。王都から少し外れた郊外の村に屋敷を貰った彼女は、そこで引きこもり……そうになったのを暇さえあればやってきて屋敷を掃除し衣服や寝具を選択し、ご飯を作り保存食も作り置きしていってくれるウェインのアドバイスによって、人と関わるお店をはじめるのでありました。
結局、タイトルの自由に生きたいってのも、お店をはじめようってのも、みんなレイシー独りからは出て来ないもので、みんなウェインが後押ししてくれたんですよねえ。
それこそおかんみたいにマメに面倒見てくれるウェインですけれど、彼がどれほどの想いを込めてレイシーの事を見守っていたのか、これ詳しく終盤で明らかになるんですけれど、これ知ってしまうとなんか胸から温かい気持ちがブワーーっと膨れ上がってきてしまって。
ただの恋とか愛とかじゃない、柔らかくて温かい慈しみの想いに圧倒されるんですよねえ。
脳筋の拳士ブルックスという完全パワー型のムキムキマッスルな昔の仲間が、中盤に登場するんですけれど、彼との話なんかでもレイシーへの気遣いの優しさがめちゃくちゃ沁みるんですよ。触れれば壊れてしまいそうなレイシーへの、ブルックスのあの労りと小動物にふれるような気遣い。いやそれだけじゃなくて、もう仲間ではなくなったけれど、だからこそ改めて友達になろう、という彼のセリフにも、それを聞いて胸いっぱいになるレイシーにも、なんかもう堪らない気持ちになってしまいました。
ほんと、優しい物語なんですよねえ、本作って。その優しさの描き方が、繊細で丁寧だけじゃなくて元気いっぱいで弾んで跳ねてるところもたくさんあって、色んな意味で元気を注がれるみたいな感じなんですよねえ。
あたふたしながら、それでも一生懸命はじめての自由を、誰かに言われた事をするんじゃない、自分のしたいことを、自分の中から溢れてくる優しい気持ちを一生懸命周りへと分け与えていくレイシー。そうするうちに、何故かどんどんと彼女の屋敷に魔物の居候たちが増えていったり、段々と賑やかになっていく日々に、どこかおどおどとして希薄だったレイシーにも意欲や活気が出てきて、外との他人とのふれあいに自分から踏み出していく勇気も生まれてきて。
いやさ、ウェインが男性として異性としてレイシーを見る意識がある一方で、それを上回る勢いでお母さん的な意識でレイシーの成長をハラハラしながら見守ってしまう気持ちも大いにわかりますよ。
まあエプロンの似合いっぷりといい、整理整頓が超得意でレイシーの屋敷に来るたびにきれいに片付けていく所といい、何なら作りおきの保存食なんかも置いていったりしているところとか。
完全に、一人暮らしをはじめた大学生の子供の家にマメに通うおかんである、ウェインくんw
でも、時々年相応の男の子になって、年相応の女の子になるレイシーの傍らでやんちゃになる、おっかなびっくりな少年になるウェインが、また可愛い男の子なんですよねえ。
ほんとに、素敵な雰囲気の物語で、いやあ大好きですわこれ。まだ、他の勇者パーティーの仲間が二人ほどちゃんと登場していないので、彼らとの再会の物語が楽しみです。