【白魔女さんとの辺境ぐらし ~最強の魔女はのんびり暮らしたい~】  門司柿家/syow カドカワBOOKS

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「魔法の事以外ぜんぜんダメ」な少女の家ではじまる、温かで丁寧な暮らし

クランを解雇された雑用係のトーリは、最強と名高い冒険者“白の魔女”に雇われて彼女のお世話をすることに。

人前では怪物のような威容と圧倒的な力で畏怖される孤高の存在。その正体は――可愛らしくて甘えん坊な少女!?

「ここが綺麗なの、久しぶり」「疲れた……褒めて。よしよしして」「このお米おいしい……チーズの味、好き」

散らかった部屋を綺麗にお掃除、温かい食事を作り、風呂にも入れて……と世話を焼くうちにどんどん懐かれて――?

【冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた】の門司柿家さんの最新作。
この人も書き方というか語り口がちょっと独特な所あるんですけれど、全体的にふんわりと柔らかく受け止めてくれるような優しい雰囲気が漂っていて、そんな空気感の中で登場人物がみんな生き生きと元気いっぱいに走り回っている感じがあって、こう見ていて楽しくなるというか多幸感に包まれる感じがあるんですよね。
前作では落ち着いた大人の人も多かったのだけれど、今回は魔女のユーフェミアを始めとしてメイン格はみんな幼い感じで、主人公のトーリも若い男の子だったんですね。その分、家事の一切を引き受けてユーフェミアや、使い魔のシノヅキやスバルたちの面倒も見る羽目になったトーリがオカン役となっていたのですけど、彼は彼で大人しい家庭的な性格というわけではなくむしろ言いたいことははっきり言う性格なので、問題児たちを片っ端から叱ってまわる肝っ玉母さんタイプでしたね。いや、男の子なんだけどさ。
それでもユーフェミアが外面とは違って、家ではかなり甘えん坊ですし、使い魔たちもヤンチャなお子様なので必然的にトーリが親役なんですよねえ、これ。
基本的に、これは追放モノの系統の物語。トーリも、結果として元いたパーティーから解雇を食らってしまうのですけれど、ちょっと面白いのがこの解雇までの展開が仲間たちの意向じゃなくて、ギルド主導による幾つかのトップパーティーの統合に伴うリストラだったんですよね。
しかも、トーリが務めていたパーティーの食事や装備の管理、事務処理作業なんかはギルドが専門の人間を送り込んで統括する事になったので、ホントにトーリのやる事なくなっちゃったわけである。
パーティーの仲間たちとの仲は普通に良かったのだけれど、この頃トーリは冒険者として前線で戦う方向での働きを一切出来なくて、それでも冒険者としてしがみつきたくて自分に出来ることにかまけていた。当初の、仲間をちょっとでも手助けするため、美味しい料理なんかで仲間たちの喜ぶ顔を見たいがため、という真っ直ぐな気持ちを見失っていた頃合いでもあったわけです。
仲間たちの方もそれぞれ深刻な事情を抱えていたため段々周りをみる余裕をなくしていた頃でもあり、タイミングも悪かったんでしょうね、仕方ないとはいえ気まずい別れになってしまったのである。
トーリの才能を鑑みると、ギルドの後方スタッフとして雇われ直してこれからも冒険者業務に関わっていく、という方向性も考えてみたらあったのかもしれないのですけれど、トーリも色々と方向性を見失っていたのもあってすぐには無理だったかも。もっとも、解雇されてすぐに前々からパーティーの家事全般を引き受けていたトーリに目をつけていたユーフェミアによって、解雇されたなら引き抜きじゃないよね、とばかりにすぐに雇われるのですけれど。

そこで連れて行かれた魔女の家は、魔法を使う以外家事一切出来ないしない諦めた、なユーフェミアのお陰でまさに汚部屋を通り越したゴミ屋敷。シノヅキやスバルたち使い魔も近寄りたがらず、戦いが終わったらさっさと魔界に帰還していたようなので、ユーフェミアは随分と寂しい私生活を送っていたようだ。外では、若いよりも幼いと言って良い姿では舐められるから、と師匠の方針で変身魔法を遣い、寡黙な皺くちゃの婆ちゃん魔女に化けていましたからね。それもなんでか筋肉ムキムキで見上げるような巨体の目つきの鋭いおばあちゃん魔女である。
いや、それは怖いよ! 普通の魔女の婆さんとは全く方向性が違うけど、もっと怖いよ!
近隣でもトップの冒険者であり、ソロで活動しながら最強の魔女として君臨するユーフェミアを、周りの人々は畏怖をもって遠巻きにしていて、親しい人なんて居なかったわけだ。だって怖いもん。
というわけで、外では周囲から遠巻きにされ、家に帰ってもゴミだらけの家でぽつんと一人ぼっち。
最初はさすがにこれは家でゴミに埋もれて死ぬかも、とトーリを雇って取り敢えずなんとか、なんとかしてもらおう、というくらいの気持ちだったのが、まず家に自分以外の人が居てくれる。トーリの奮闘激闘によって魔窟が普通の人の生活空間へと見違えるように変化していく、ホコリが舞い散りゴミが散乱するほの暗く臭いもする空間が、どんどん広々となっていき、光が差し込む明るい空間になっていき、美味しいご飯が毎食出てくるようになり、シノヅキやスバルが家に入り浸るようになって家の中に賑やかな声が絶えないようになって、とこんな風な変化が続いたらメンタルだってあがってくるし、気分だって楽しくなってくる。気持ちも明るくなって、毎日の何気ないことが楽しくて仕方なくなる。
そんな空間を作り出してくれた、楽しい日々をもたらしてくれたトーリは、お小言や説教は欠かさないものの、幼い少女の正体を現したユーフェミアと対等に接してくれるし、ちゃんとかまってくれるし、なんだったら甲斐甲斐しくお世話してくれて、どれだけ甘えてもちゃんと甘えさせてくれる。叱ったり文句も言ってくるけれど、そういう遠慮のなさもなんだか嬉しくて仕方ない。

こんな風に、ユーフェミアの気持ちがふわふわとあがってくる様子が、ほんと可愛くて仕方ないんですよねえ。シノヅキとスバルのヤンチャなガキ同士がはしゃいでいるのそのままな喧嘩とか、ご飯となったらすぐに食卓に集まってくる様子とか、この子供っぽさがまた賑やかで楽しくてねえ。
トーリの方もずっと冒険者に未練があったのが、この魔女の家で魔窟となっていた場所を夢中で片付け、手のかかる子供たちの面倒を余計なことを考える暇もなく見ているうちに、自分がそれを苦痛に感じるどころかすごく性に合っていることに気がついていくんですね。
こうしてユーフェミアたちの面倒を見ている事が楽しい。自分の作った料理をこんな無邪気に喜んでくれるのが嬉しい。誰かのために、こうして家事をして生活空間を整えていくことに充実感を感じる。それは初心を思い出すことでもあり、自分が本当にやりたい事がなんだったのかを理解していく日々。
これ追放モノなんだけれど、元の職場では評価されなかった能力が開花する、なんて展開も、実は最強だったなんて展開もないんだけれど、環境を変えるというのは時としてこんな風にいい方向に変わる事があるというのを実感させてくれるお話でもありました。
そうやって自分を見つめ直して余裕が出てくると、元の職場ではどうしても自分の事ばかりに意識が向いてしまって、仲間たちを気遣ってやれてなかったなあ、という事にも気づいてくるんんですね。決してトーリが悪かったり無神経だったりしたわけじゃない。でも、ほんのちょっとした気遣いや心配りをお互いにやれていたら、あんなふうに気まずい別れになってしまう事もなかったでしょう。仲間たちの深刻な事情を知っているから尚更に。
こういう後悔は、仲間たちの方も抱いていて、でも彼らはまだ目の前の自分の前に立ちふさがる壁に立ち向かうことに必死で、苦いものを飲み下しながら日々に邁進していたわけです。
結果的に見るとギルドの幾つかのトップパーティーの統合案って、かなり上手く目的どおりに行ってたんですよねえ。ただ、トーリの元の仲間たちのメンタルは改善するどころか余裕をさらに失いつつあったのですけれど。これは統合案を受け入れなかった場合、自分達だけで冒険を続けないといけなくなる以上、より余裕を失っていただろうから何れにしても二進も三進もいかなくなっていたのかもしれませんが。
しかし、トーリの抱えている後悔や苦悩を察したユーフェミアが、またうまいこと動いてくれるわけですよ。この子、あんまり対人能力なさそうなのにこうして気持ちを察してくれるし、自分の名声や実力なんかをうまく活用して、角が立たないように立ち回っているのを見ると、単に面倒がっているだけで交渉事とかも普通に良く出来るんじゃないだろうか。さり気なく、トーリが話していたから自分は動いてるんだぞ、というのを仲間たちに教えたりもしてますし。
いやでも、トーリに褒めて褒めて、とプレッシャーかけてくるあたり、動機はほんと子供そのまんまなんだけど。
スザンナたち仲間たちも、負い目とか以上にトーリが自分達の事情を覚えていてくれて、ずっと心配してくれていた事が嬉しくて、そこから素直に出てくる感謝の気持ちが清々しいんですよね。そしてトーリの方も彼らの事情が好転したことを、素直に心から良かったなあ、と喜んでいる。
不本意な別れを経てしまった彼らの和解は、なんかしみじみとイイなあと思えるエピソードでしたね。
前作でも、若い頃に冒険の失敗からバラバラになってしまった仲間たちと、何十年と経ての再会がそれぞれが抱えていた心の傷を癒やしてもう一度友情を取り戻すという展開があったけれど、今回のもうん、良かったなあ。
そして、今ではかけがえのないものになった、ユーフェミアたちとの魔女の家での穏やかな日々に戻っていく。田舎から大望を抱いて飛び出してきたときとは大きく違ってしまったけれど、それはトーリがたどり着いた暖かくも幸せな光景。眠るユーフェミアを傍らに、月明かりに夜露がキラキラと輝く庭先の光景がとてもキレイな、ラストシーンでした。
…素敵。