【時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん 6】  燦々SUN/ももこ 角川スニーカー文庫

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秋嶺祭を揺るがす大事件勃発!? 学園祭編、クライマックスへ!

生徒会の威信を懸けて行われる征嶺学園の学園祭。
全生徒がアーリャさんの劇的勝利に湧いた初日も終了し、秋嶺祭はいよいよ最終日に突入! 恋にコスプレにバンド演奏、最高潮の盛り上がりを迎えるかに思われた最中に大事件が勃発!?
何者かの策略によって学園祭が壊されようとする中、政近は陰謀を暴き騒動を治めるべくたった1人で動き出す――。
「俺を信じて、待っててくれ。必ず、ライブは決行させる」「ええ、信じてる」
思惑入り乱れる学園祭、政近はこの騒動を治めアーリャさんを輝く舞台へと誘えるのか!? 大人気ロシアンJKとの青春ラブコメ。波乱の学園祭編、クライマックス!

あれ、ピアノのシーン。政近と有希の母親である優美をその場に連れていったのって綾乃自身の判断なのか? 奥様をこちらへご案内すべきと、わたくしが判断しました。って言ってますもんね。
有希の指示とじゃなく、本当に綾乃が自分で考えて彼女を連れて行ったのか。政近のピアノを聞かせるために。政近がピアノを弾いている姿を見せるために。
この子、綾乃って決して言われた事だけをしている従者じゃないって事ですよね。それどころか、政近たちの家族関係に物凄く踏み込んでいっている。見守るだけじゃなくて、今回の一件は母親の胸を焼き焦がして現状を変えていくかもしれない行動だったかもしれない。それを、政近や有希の意思ではなく綾乃個人の意思で行っているという事がちょっとした驚きでした。
この子の事、全然見縊っていたかもしれない。ただの幼馴染だけでは済まない距離感を、この子は受け身でいるだけじゃない、その距離感故に出来ることを能動的に出来る子なのか。それはもう従者としての職分を半ば逸脱していて、友達みたいな他人じゃ踏み込めない所に立ち入っていて、実際もう本当に家族みたいなもんなんだよなあ。
これ、アーニャに出会わなければ綾乃ルート本気であったんじゃないだろうか。

さても、2巻続いての文化祭編。ラブコメ学園ものでも、さすがに文化祭イベントを2冊に渡って行うような贅沢な構成な作品はちょっと他に類を見ないんじゃないだろうか。
一方で、学生の領分の外側。名家の子女が通う学園ならではの、大人の世界の思惑が如実に絡んできてしまう話でもありました。それも派閥争いの延長とかではなくて、この学校での事を明確に社会に出たとき……というよりもこれ一般社会じゃないですよね。薄汚い権力闘争、名家同士のパワーゲームへの参戦を前提とした予行演習であり、学生の身分である子供たちを容赦なく選別して切り捨てていく試験の場となっている。それを観覧するOBたちの姿が、おぞましいというか虫唾が走るというか。
なんなんだこいつら、何様なんだ? たかが日本の小さなお山のサークルでえばっているだけの分際で、その性根の薄汚さに反吐が出る。もうなんか嫌悪感が凄まじくて、そんな彼らの嫌らしい目にさらされ家の都合で動かされている子供たちが可哀想になってくる。
今回の文化祭で行われた陰謀の黒幕たちも、そうした薄汚い大人たちの引いたレールに必死にしがみついてその上を行こうとする子供たちだったんですよね。そうあるべきと、教育されて、洗脳させて、それを常識にさせられてしまった子たちの、哀れな所業。
でも、この黒幕となった子たちも、自分のそうした行いを決して平然と受け入れていたわけじゃないんですよね。苦しい、辛いと思いながら足掻いている。そう思うということは、無理してるからなんだ。無理してるということは、本来はそういう薄汚い常識とはそぐわない人格の持ち主という事なんでしょう。
子供たちを歪めているのは、いつだって大人であり親であり環境だ。そうやって子供たちを苦しめている親に、何の価値があるんだろう。
そう思うと、ヘラヘラと笑って今回の一件を眺めていた連中とくらべて、政近のピアノを弾く姿を見て後悔に打ち震える母親の優美さんはまだ全然救いがあると思うんですよねえ。
そして、幸いというべきか、胸がすくことに、子供たちはそんなOBたちの歪な薄汚さに染め上げられず、自力で、子供たち同士で支え合い影響しあい、拳じゃないけれどそれ相応のパワーでぶん殴って、ちゃんとそれぞれが成すべき道、やりたいと思う自分が自分でいられる道をちゃんと見つけ出していってくれた事には、なんとも嬉しい思いがありました。OBたちを見ている嫌悪感が濯がれるような清涼感。子供たちの健全さというか清々しさというか、いい方向に頑張ってるよねえ、頑張ってほしいねえ。
そんな中で有希や菫のように、OBたちが敷いているレールの上を邁進というくらいの勢いで進んでいる子たちもいるんですけれど、彼女たちは特に「違う」んですよね。染め上げられたわけでも塗りつぶされたわけでもない、確固とした自分を持ち、古いものの常識に縛られずに自分の世界観を持ち、その上で強固な意思でそのレールの上を歩んでいる。威風堂々と胸を張って、突き進んでいる。それこそ、古きをぶち破らん勢いで。有希だけじゃなくて、菫先輩みたいな人も、堂々とグループ継いで自分がやったるわー、という気高い気概を持って突き進んでいるのを見ると、何とも頼もしい気分になりますよ。
有希が珍しく、というか、綾乃と兄以外で初めて見せただろう、あの素の顔。素の自分をさらけ出して、あの叱咤激励というか罵倒をしてみせたのも、彼女なりに思う所あったからなんでしょうし。
ああいう世界で兄の代わりに一人で頑張ろうとしている有希に、同志とかじゃないんだけれど、同じような方向性、真っ直ぐな気性を持って挑もうとしている同世代の女性がいるって、なんかホッとするものがあるじゃないですか。

そんな大人たちの感覚に歪み狂わされた一人でもある政近も、今こうして一つ一つ一歩一歩、置き去りにしてしまった過去を解消し、精算していっている。
象徴でもあったピアノを弾いたのもその一つ。それをもって一つの約束を果たしたのもまた一つ。そうして、過去の恋に決着をつけたのもまた一つ。最後のそれは、もう政近の心が決まってなかったら決断できなかったことなんじゃないかな、と思うんだけれど、どうなんだろう。
それを聞かせてもらった上でさよならとなったマーリャさんの心境を思うと切ないなんてもんじゃないんだけれど。この人、ほんとに一歩退いちゃってるからなあ。妹に対して甘すぎると思うんだけれど。
そんな中で未だに自分の中の気持ちを直視せずに、でも吹き上がる感情に、想いに翻弄され続けているアーリャ。表向きの世界、生徒会選挙とか対人関係とかそういう所では自分を変える自覚をもって一生懸命頑張っているけどさ、果たしてそれは自己改革として十分なんだろうか。自己改革なんて大げさな言い方をしなくても、こんなにも周りの人たちが自分を向き合っていってる中で、まだまだ政近の庇護に甘んじてる、甘んじてるというか甘えている、あれだけ独占欲をこじらせているにも関わらず、彼の気持ちに対して自分の想いを曖昧にし続けているアーリャさんは、ちょいと遅れ気味になってるんじゃないかとちと心配になってくるんですよねえ。
着実に二人の仲は進展しているにしても。