【悪役令嬢の矜持 1 〜私の破滅を対価に、最愛の人に祝福を。〜】  メアリー=ドゥ/久賀フーナ SQEXノベル

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私は今から破滅するようです−−私の策略通りに。
後妻として迎えられた母とともに伯爵家の一員となった元平民のウェルミィ・エルネスト。そんな彼女は家でも貴族学校でも同い年の義姉を虐げ、後継者の地位も婚約者も奪い取り、最後には冷酷と噂される魔導卿に義姉を売り飛ばす。地味で冴えない義姉に抗う術はない。すべてはウェルミィの思うがままに。それからしばらくして、魔導卿から夜会の招待状が届く。自身の婚約者として義姉を紹介するのだろう。父母とともに夜会に参加するウェルミィだったが、赴いた先では華やかな宴……ではなく、『義姉を虐げた』として伯爵家への断罪が始まった。すべてはウェルミィの策略通りに−−これは自分が憎まれても義姉を幸せにしようと企んだ、一人の悪役令嬢の物語。書き下ろしストーリー「魔導卿と悪役令嬢、王太子とシンデレラ」を収録!

あ、これ初手から解決編なんじゃないですか? ミステリーなんかで名探偵皆を集めてさてといい、と関係者集めて事件の真実を詳らかにしていくシーン。
まさにそこからのスタートである。
つまり、悪役令嬢として振る舞っていた伯爵家次女ウェルミィ・エルネストの本願が成就する場面。
伯爵家長女イオーラが、長年の苦難から解き放たれてようやく幸せになる瞬間。
エルネスト伯爵家への断罪の時であり、ウェルミィ・エルネストの破滅の時。
まさにそこから、この物語ははじまる。
つまりつまり、ウェルミィはやるべきこともうやっちゃって、人事を尽くしあとはフィナーレを待つばかり。
ところがどっこい、そうはいかないぞ。貴様の思い通りになどさせてたまるか、とばかりにイオーラと新たに婚約を結んで彼女を幸せにするはずの冷酷非情と評判の魔導卿エイデス・オルミラージュによる鮮烈なまでの断罪の刃は、当初ウェルミィの犯した罪を一つ一つ切り裂くように明らかにしていったはずが、いつしかウェルミィの罪ではなく、彼女がひた隠しにしていた真意を、真実を覆い隠していたヴェールを細切れに切り裂いていくのである。そうして浮かび上がってくるのは、幼い少女が抱いた覚悟。愛する人を地獄から救い出すために、自らが泥をかぶり、悪名を背負い、その果てに無惨にボロクズのように打ち捨てられる、破滅の未来を自ら掴み取ろうとした、そんな少女の決意そのものだったのである。

……思いっきり、公衆の面前での暴露である。

いや、別に「もうやめて、お嬢様のHPはとっくにゼロよ!」みたいな晒し上げではないんですけどね。むしろ、幼い少女の献身への感動が胸をうつシーン、姉妹同士の愛情が明らかになる心温まるシーンなんですけどね。
……ウェルミィさん、わりとたくさんの人にバレバレだったんじゃないですか、あなたの計画。いや、別にウェルミィの行動自体は決してバレバレなあからさまなそれではなかったんで、イオーラの味方サイドとなった使用人や友人たちがみんな優秀故に察しが良すぎた、というべきで、ウェルミィの落ち度ではないんですけれど。
本来、彼女があれだけ真意を隠して、表向きはイオーラを虐げているように見えるように振る舞っていたのは、或いはイオーラの命さえ奪いかねない敵意を滾らせている両親への迷彩であり、イオーラへの虐待を少しでも減らしそらすための偽装でもあったわけですから、伯爵夫妻を騙しきっていた、世間の風聞も思惑通りに操作していただけに、目的自体はきっちり果たしているんですよね。
でも、特に当のイオーラにバレバレだったというのは……いや、恥ずかしくない、別に恥ずかしくはないぞー。妹が姉を愛したように、姉もまた妹の事をちゃんと見ていて、血の繋がらない可愛い妹を愛していたという事なのですから。

ただ、これらの経過……というか、幼い頃からの顛末は回想や真実の暴露という後から情報じゃなくて、リアルタイムで描写してくれた方が迫真性を感じられたんじゃないかなあ、と思ってしまったり。
ウェルミィが何とか姉を父たちから擁護したり庇おうとしたものの力及ばず、というあたりの話もさらっと回想で流されていたけれど、あそこらへんのウェルミィの絶望感ってイオーラに負けず劣らずひどかったと思うんですよね。そこから、自分が破滅してでも姉を救おうと思うまで、いくら彼女でもそれに思い至った瞬間というのは果たして平静でいられただろうか。その覚悟を決める瞬間、そのときに抱いた感情はいかばかりのものだったか。悲壮、壮絶、或いは恍惚? そのシーンって結構「書き出」があるんじゃないかな。書き甲斐がある、書き応えがあるともいうか。
まあ益体もないですが。
作品の構成として、断罪からはじまり断罪が不意に姉妹の愛を真実として暴露していくという展開に肝がありましたからね。根本から形式の違う話になってしまうでしょうし。

とはいえ、結果的に実は全部片がついている所からはじまっている、という構成な案外と珍しいんじゃないかな。珍しくない? どうだろう。でも興味深いものがありました。
魔導卿の過去や、実母の真実なんかも全部過去を振り返る形になっていましたもんね。ウェルミィの婚約者となっていたアーバインに対しても過去の所業、その心のあり方を指摘していくという形でしたし。
魔導卿とウェルミィの甘酸っぱいエピソードも、だいたい過去を絡めてそこから現在の相手に対する感情を高め温めていく、という形でしたので、何気に現在だけでお互い何気ない日常のことから愛情を確かめ合ったり、特別なイベントで気持ちがあがったりという展開はなかったんですよね。
それが悪いとかでは全然ないんですよ? ただ全体振り返ってみるとそういう所なかなか特徴的で興味深いなあ、と思ったので。

あと、何気に本気で断罪されたのは父親である伯爵だけで、ウェルミィ以外の元婚約者のアーバインもウェルミィの母であるイザベラにも、ちゃんと救いがあるんですよね。アーバインには自らを顧みる機会と彼自身にそれを為せるだけの意思があり、イザベラの方はこの人間違いなくウェルミィの母親だわ、という情念と愛と情けの深さを感じさせる真実があり、と。
報われるべきがちゃんと報われる、穏やかなハッピーエンドだったんじゃないでしょうか。
……これ、1巻と巻数表記ついているけど、完全に完結してますよね? 続きあるのか?