【恋人以上のことを、彼女じゃない君と。2】  持崎 湯葉/どうしま ガガガ文庫

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心地よい関係。その、一歩先へ。

無事、編集プロダクションに転職することができた糸。親に囚われていた今までとは違い、彼女が彼女らしく生活できていることに、冬は安堵する。
だがそれと同時に、糸が自分から離れてしまうのではないか、という一抹の不安も。恋人ではないが、恋人以上の二人は、歪で、微妙なバランスで成立している。
数週間ぶりに糸に飲みに誘われ、冬が店に向かうと、始まったのは“誰にも気づかれずにキスをするゲーム“。1回につき、キスをされた方が罰金500円。
どうやらこの関係は、しばらく続きそうであるーー。
社会人からの共感の声多数! 癒やしと、ちょっとエッチな物語第二弾。

「歪で、微妙なバランスで成立している」って言うけれど、本当にそうなんだろうか。
1巻の段階ではね、糸の家庭環境や仕事環境の事もあって、彼女の精神状態も不安定な所があり取り決めや約束事など非常に繊細な取り決めをする事で、再会し再開された糸と冬の関係は維持されていたのは間違いないでしょう。そういう関係で居ることが、正しくなく踏み込まず心地よいだけの関係でいる事が、言わばセーフティネットだった。糸が生きていく上での命綱みたいになっていた。
あの時点では確かに歪で、微妙なバランスの上に成立していたと言って良い。

でも、今は……この2巻では果たしてどうだろう。
転職して、干渉してくる毒親との関係を断った糸は今、本当に生き生きと働いて毎日を過ごしている。小さな問題やトラブルはあるだろう、トラウマだって抱えたままだ。それでも今一番生きるのが楽しい、とばかりにキラキラと輝いている。
それを、冬は外側から眺めているわけじゃなく、そんな冬の楽しい毎日の中に不可欠の存在として組み込まれている。何なら、同じビルで働いていた時なんかよりも一緒にいる時間が多いくらいだ。物理的な距離も、心の距離も近づいているどころじゃない。一緒にいるのが当たり前で自然で、それこそが心地よいみたいな関係になっている。何の気負いもいらない、遠慮もいらない。糸が張り切りすぎて限界突破してしまいそうになった時に冬が踏み込んでブレーキかけてくれたように。
もう配慮という壁も存在しなくなっている気がする。お互いに気遣いは欠かさない。とても、普通では気づかないような変調ですらお互い察し合って、違和感を感じるどころか心地よい感覚で支え合っている。
心地よいけれど触れれば壊れそうだった関係は、今や傷つくことを恐れずに受け入れあえる関係に進んでいるんじゃないだろうか。自分の地雷原にズケズケと踏み入られ踏み荒らされて心が荒れに荒れていた冬が、今糸に会ったらこの荒れ狂った感情を理不尽にぶつけてしまう、フェアリーテイルなんて言ってられない一方的なストレスの解消にしてしまう、と糸を避けていた時。
糸はLINEの些細な文章の乱れから冬の変調に気づいて、すぐに会いに来てくれたんですよね。それだけでも、ただの恋人同士では無理だろうってくらいお互いの事がわかっている関係に見えたのに、後々だけれど糸ってばちゃんとその時の冬の心境まで、荒れて自分に欲望を乱暴にぶつけそうになっていた事まで察していた事を示した上で、そういうのも丸っと受け止めてやっから遠慮すんなよ、的な……男前だよね。そういう事まで言ってくれたわけですよ。
その上で、同窓会のとき土足で地雷踏んできた友人から、冬がうまいこと話題引き取って庇ってくれた事を、その優しさをこの上なく嬉しく思う瑞々しい気持ちも弾けてる。
お互いに優しくするだけ、宝物みたいに大事にするだけじゃない。それはそれでめっちゃ大切なことだけれど、嫌なところも悪いところもぶつけて、それを包容できる。無理しない、一人で抱え込ませない、そんな関係に至っていることをあらわすようなエピソードでした。
前は無理だったでしょうね。再会した頃は、糸の状態では絶対ムリだった。でも今は全然無理には見えない。
もうさー、微妙なバランスで成り立ってるわけでも、歪で壊れそうでもあったけれど、今はもうこれ以上無いくらい安定して見える。なんなら基礎工事してどんな地震が襲ってきても倒れないし傾かない耐震構造ですら見える。
もちろん、お互い遠慮がなくなるを通り越して無神経になっていったらその限りではないけれど、そういう無自覚の無神経さこそに傷ついてきた二人だ。お互い察しあい慮れる距離感ゼロの関係は、なんなら幼馴染のそれよりも上で密接で柔らかいだろう。
そんな素敵な関係なのだ。
ほんとねー、事後のピロトークの甘やかな時間に、勢いで買った蒲鉾がレジで目玉飛び出るほど値段高くてパチキレるとか、ちい○わボコボコに殴ってやる夢みたぜ、などと話している男女とか、フィクションで見たことないよ。そりゃ無いだろうけど! 
こうあるべきって恋人の風景じゃないんですよね。でも、この上なく自然で生活臭がして、他人行儀な所が無い。外では同僚相手でも友達相手ですら、わりと大人しい女性の外面をかぶっている、初対面の相手には年下の女の子相手ですら人見知りになってしまう超内弁慶な姿を結構見る機会があっただけに、ほんとヒドい(笑)ろくでもない話ばっかしてる糸の姿が、冬相手にはほんとに遠慮がない、自由に伸び伸びとしている糸と冬の関係が素敵に見えるんですよねえ。
具体的な行為のことだけじゃない、今の関係すべてがタイトルの恋人以上のこと、に見えてくる。

だからまあ、慌てなくてイイと思うのよ。今の関係じゃダメだ、なんて焦らなくていいと思う。今の関係が心地いいから現状維持って後ろ向きな関係じゃないと思うんだ。停滞しているわけじゃない。今にしがみついているわけでも固執しているわけでもない。
最後、合気道のキスw になったみたいに。そのときが来ればきっと、二人で一緒にそうなろうか、って思えるんじゃないかな。
だから決定的な変化の訪れないラストでしたけれど、きっと中身の決定的な変化はもう既に通り過ぎていて、だから今はそれでイイと思えるエンディングでした。

ああ、素敵だなあ。もうなんか、なんか、良かった。たまらんくらい好きですわ。