【バズれアリス 1 【追放聖女】応援(いいね)や祈り(スパチャ)が力になるので動画配信やってみます!【異世界⇒日本】】  富士伸太/はる雪 オーバーラップ文庫

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『聖女アリスの生配信』、異世界より配信中!

人々からの想いを力に変える権能で戦い続け、魔王を打ち倒した聖女アリス。
しかし彼女は無実の罪を着せられ、強大な魔物が溢れる難攻不落の迷宮へと追放されてしまう。
絶体絶命のアリスだったが、迷宮の中で「異世界と繋がる鏡」を発見。
生き物以外は行き来可能な鏡を通して、異世界――現代日本でレストランを営む青年・誠に美味しいご飯をもらったり現代の娯楽を教えてもらったりと交流を深めていく。
そして助けてもらったお礼のため動画配信で収益化を目指すことになるが、動画がバズった途端に莫大な力がアリスに流れ込んできて……!?
「聖女」兼「配信者」のアリスがバズって戦う異文化交流コメディ、配信開始!



バズれアリス!!


口に出して言いたいタイトルである。いやー、なんか妙に好き。リフレインしちゃう♪


バズれアリス!!


うふふ。


WEB版既読済。このタイトルを見て、なんぞこれ!?と興味ひかれて読むに至ったんですよね。本作が富士伸太さん。最近アニメ化された作品【人間不信の冒険者たちが世界を救うようです】の作者さんだとは知らなかったはず、確か。
結構前なんですよね、読んだの。2年前くらいになるんですか。作中でもちょうどコロナの混乱がもっともヒドい頃として描かれてるんですよね。アリスと接触することになる街の個人レストランの店長である誠も、コロナ禍のお陰で自宅兼店舗ながらも経営がヤバくなり、少しでも収入を賄うために料理系の配信者としても活動していて、そこそこ人気にもなってたんですよね。
そのお陰で、『聖女アリスの生配信』というコンテンツが誕生したのですから因果というものは不思議なものです。

古今、現代の日本や世界と異世界が繋がってしまうというお話は珍しくもなくなりましたけれど、こうして鏡越しで顔を合わせるだけで人の行き来は出来ない。というだけではなく、物品だけならやり取りできて、何なら電波も届くのでWi-Fiも行けるよ?(by霊廟の守護者)という事なので遺跡内部なら生配信もオッケー。多人数参加の通信ゲームもオッケー。
……動画配信ってワンパターンのコンテンツだと飽きられるんすかね? アリスも単に遺跡探索中の戦闘だけじゃなくて、散歩形式で異世界名刹とも言える霊廟を歩いて回ったり、誠の作ってくれた料理を美味しそうに食べたり、単に酒盛りしてたり、ゲームしたりと色々やってるんですよね。単にあちこち歩いて回るだけでも、世界遺産どころじゃない見たこともない大迷宮を生の映像で見られるというのは様々な分野の人たちにとって垂涎の動画みたいですしね。
ともあれ、自分自身はあんまり見ないからよくわからんのでし。最近、競馬系の動画配信はちょくちょく見てるのですけれど。

そう、アリスの動画を通して、現代の地球に住む人たちみんなが同時に、誰も見たことのない異世界の景色を、建造物を、生物を、ハリウッド映画どころじゃないアクションを、目の当たりにすることになったのである。
これもうなんか、想像しただけでワクワクしてきませんか? なんじゃこりゃーー!? という世界中の人の驚愕が、仰天が、その次に訪れるワクワクが、喜びが、テンション爆上がりの大騒ぎが、どかーーんと伝わってくるんですよね。これがもう、楽しい。
それに何気にアリスの配信者としてのトークスキルがやたらとレベル高いんですよ。最初の配信から撮影始まった途端になんかスイッチ入ったみたいにすっげー滑らかにテンション高く喋りだして、この喋りそのものがまた面白いんですよ、楽しいんですよ。異世界抜きでも普通に人気配信者になったんじゃね? というくらいトークが面白い。

でもそんなアリスですが、この日本と繋がった鏡の置かれていた幽神霊廟と呼ばれる砂漠地帯の果てにある誰も訪れない陸の孤島のようなダンジョン。そこにたった一人で訪れるに至った理由は悲劇であり惨劇であり、悲痛なバッドエンドの果てのことだったんですよね。
裏切られ追放され、死刑同然の命を受けて、絶望のままに死ぬためにこの地を訪れたアリス。
鏡を通して出会った誠の素朴な親切と優しさは、彼が作ってくれた心を尽くした温かな料理とあれもこれもと鏡越しに渡してくれた衣服や日用品、身銭を切ってアリスのために差し入れてくれた物たちは、ただただアリスを心配し気遣い、純粋に思いやる優しさの結晶だったのです。これがどれほど、アリスの絶望に爛れた心を救ったか。
誠と巡り合う前のアリスの、あの荒涼とした心象たるやアリスが彷徨う砂漠と変わらないヒドいものでしたからねえ。それだけに、乾いた砂に水が染み込んでいくようにアリスの心に潤いがどんどん戻っていく様子は、それだけでホッとするような心癒されるものがありました。傍から見ていただけでもそれなのですから、当事者のアリスにとってはどれほどのものだったでしょう。

そして与えられるだけじゃない、せめてなにかお返しできないかと、固辞する誠と何度もやり取りした結果、行われることになったのが誠が使っていた配信機材を使っての、異世界側からのアリスによる動画配信だったわけである。
とはいえ、誠が差し入れた本や漫画やタブレットなんかで(ちなみに鏡を通すと音声言語のみならず記述言語も自動翻訳という便利仕様)、かなり地球の文化文明を勉強して身につけたアリスですけれど、それでもわりとサクッと配信機材の使い方マスターするあたり、若いっていいよなあ。
ちなみに、表紙絵ではやたら可愛いフード被ってニャンニャンしているアリスですけれど、年齢はそれなりに大人です。十代の少女じゃないよ!? まさかの26歳である。なので当然、お酒もバンバン行けまする。

そうして始めた動画配信。もちろん、何の伝手もなくいきなり投稿しても誰かに見られない限り、話題にもならないわけで。ある程度動画を撮り溜めしておいて、初の生配信とともに一気に排出しようという誠の戦略方針、なかなか胴に入ってましたなあ。
その肝心の生配信にて、大きなトラブルが発生して、それをきっかけに初のバズりが起きるのです。
このバズるまでのどんどん人づてに話題が広がり、人がわらわらと集まってきて、視聴者数のカウンターがぐるぐると回転をはじめて、「……バズった」と誠が呆然とつぶやくシーンまでのこの勢いある流れ、このテンション高まっていく怒涛の流れは良かったなあ。

また本作の面白い点のさらなる一つが、このバズるという事。アリスの聖女としての能力が、他者に応援される事によって力がどんどん増す、というものだった事なんですね。先の対魔王戦争では常にアリスが最前線に立ち、一緒に戦う兵士たちの応援・支持を受けることによって力を発揮していたのが、動画配信によるチャンネル登録、動画視聴、スパチャによってもアリスの【人の聖女】としての能力が発揮されたのである。
単に動画配信による収益だけの意味合いではなくなったんですよね、動画配信。まあその聖女としての能力ってそれほど今のところ大事ではなく、動画を通じて異世界側の人たちと地球の人たちが繋がっていく、というあたりが重要になっていくのですが。
この霊廟も決してアリスが聞かされたような極悪なものではなくて、むしろ本来はボーナスステージ的な試練場であって、霊廟の守護者たちとも仲良くなって、一緒に動画配信の出演者として協力してくれたり、一緒に誠が作ったご飯食べたりと、仲間というか同居人みたいになってくんですよね。
スプリガンとか、独自にチャンネル作ってゲーム系動画配信はじめよるしw

なんだかとっても賑やかで楽しい交流がはじまった地球側と異世界側ですけれど、しかし鏡を通して行き来できるのはやっぱり物品だけで命ある者意思ある者は通れない。アリスは決して、向こうの世界には渡ることが出来ない。鏡を通していつも顔を合わせることが出来ても、さながら一緒に遊んで一緒にご飯を食べて一緒に動画を作ってと、一緒に暮らしているようなものだけれど、でも誠とは決して触れ合えない。
いつしかアリスの中に生まれ、芽生え、育ち始めた感情は、世界を隔てた壁を前にして切なく疼く。だから、今の絶望を吹き払ったアリスには新たな願いが生まれている。それを淡くも大切な願いを叶えるために、霊廟最深部を目指すのだ。

本作、けっこう加筆もしてあって、WEB版にはいなかった新キャラも登場してるんですよね。口絵にもいる魔女さんとか、いませんでしたもんね。結構謎めいた秘密も抱えていそうなキャラなので、今後の絡みにも期待したい所。
いやー、やっぱり楽しいですわ、この作品。

バズれアリス!!


新たな来訪者も加わって、2巻も楽しみ♪