【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 8 ~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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かつて交わした約束を守り、幼馴染のマルギットと共に辺境の地マルスハイムで冒険者となったデータマンチ転生者エーリヒ。
彼は最初こそ有力氏族とのいざこざがあったものの、その後は一部の実力者から一目置かれつつ冒険者生活を満喫していた。
そんなエーリヒの前に現れたのは、エーリヒと同時期に冒険者になったという少年ジークフリートとその幼馴染の少女カーヤ。
エーリヒをライバル視するジークフリートだけど、あまりに見事な「駆け出し冒険者」っぷりをエーリヒに気に入られてしまったのが運の尽きで……?

表紙絵これ誰? 誰よ!? と思ったらマルスハイムの有力氏族の一人で、あの薬中毒っぽい聴講生崩れのナンナさんかー。ええ、今回ってついに登場するジークフリートとカーヤ嬢がメインじゃないの? あ、後ろに二人ちゃんといるわ。そして右下にはナンナさんの若き頃の絵姿がw
いやでもこれ、シリーズ8巻目にして初めてヒト種のヒロインが表紙を飾ったんじゃないですか? 今までエーリヒが映ってるの以外はホントに全員純粋なヒト種ではなかったですからね。
でも、初めてのヒト種がナンナさんかよ。なんかあとがき読むとナンナ書きたい欲がムクムク沸き立っているみたいですけれど、少なくともこの巻では今までの表紙飾った人たちと比べると出番自体そんなでもないですからねえ。
ってか、完全にヒロイン・ジークフリート。主人公もジークフリートって感じでほぼジークフリート祭りでしたよ。
やー、でもジークって名前やっぱり野暮ったいよなあ。ディルクでいいじゃん。本名のディルクの方がすごくいいと思うんだけどなあ。なんで名前かっこよさそうってだけで変えちゃうかなあ。結構真面目にディルクの方がいいんだけど。幼馴染のカーヤちゃんがどれほどジークと呼べと言われてもこれだけは譲らずにディー君と呼んでいるのはこれ正しいと思うよ。

というわけで、エーリヒの初めての相棒……いや、相棒相方はマルギットがいるからこれはどういうべきだろう。同世代の親友にして戦友にしてパーティーの右腕となるジークフリートとその相棒となるカーヤ嬢の登場である。
このジークくんことディー君ってば、エーリヒが感動して打ち震えるほど思いっきり主人公っぽい子なんですよねえ。正確にはTRPGのPC1枠と言った方が正しいのか。
エーリヒだって農家の三男坊で地道に叩き上げてきた人間のはずなんだけど、こいつ冒険者になるまでに紆余曲折ありすぎてもう意味不明の存在になってたもんなあ。
おまけに前巻ようやく夢の冒険者になったと思ったら、新人の分際で街の裏社会の勢力争いに割って入ることになり、新人冒険者のくせに裏の顔役みたいになってるしさあ。
お前みたいな新人冒険者がいるかーーの3乗くらいになってるもんね。エーリヒもその点いささか自覚があるので、本当にごく真っ当に田舎の小作農から飛び出してきて冒険者を夢見て頑張る新人冒険者を地でいっているディー君の姿は眩しいなんてもんじゃなかったのだろう。おまけに本来なら望むべくもない魔術師(と言っても正当なそれではなくアルケミー寄りの魔法薬師)の幼馴染が最初からパーティーに一緒にいてくれる、という持っている環境。でも、エーリヒみたいに丁稚で稼いだ資金があるわけもなく、カーヤと二人で本当に苦労しながら下積みの煤黒ランクで1から頑張っている子たちなんですよね。それでいてひねくれておらず他者をやっかまず、気高い精神性を保っていて、新人冒険者の中でひときわ突出しているエーリヒへのライバル心を隠さず、さりとて意地ばかりはらずに主にカーヤの為にだけれど現実を観て、対抗心むき出しのエーリヒからの仕事の誘いにもちゃんと乗るというバランス感の持ち主。
特に自分にカーヤという特級の存在がついてきてくれている、という幸運とありがたみをちゃんと理解しているのがいいんですよね。どれほど苦労しても惨めな下積み生活を続けていても、自分はカーヤによってとても恵まれている、というのを弁えて忘れない。だからじゃないんだけれど、カーヤの事を本当に大事に大切に守り、支え合っている。
もうこういう所、一から十までエーリヒの好みのどストライク突いてる。突きまくってる。
もう最初に向こうから宣戦布告というか、お前には負けねえと突っかかってきた……いや、ほんとに宣言だけで喧嘩売ってきたわけでもないので嫌味な所全然ない、負けん気だけが伝わってくるコミュだっただけど、その瞬間からエーリヒめっちゃテンション上がってましたもんね。
気に入ってしまった、どころじゃないですよこれ。入れ込んでる、めっちゃディー君に入れ込んじゃってる。好き好き光線出しまくってるよこれ!
いまだかつて、これほどエーリヒが特定の誰かに前のめりになってアプローチしまくったことがあっただろうかww
薄々こいつ厄介の塊だと早々に察しながらも、主に生活と実益のために無視出来ずにエーリヒの度々のお仕事一緒にしませんかー、のお誘いに乗ってしまうディー君。おいおい、お前さんえれぇのに目ぇ付けられちまったぜ?
実際、これからずっとえらい目に遭いまくるはめになるわけですが。何しろエーリヒと言えば、普通に丁稚先から故郷に帰郷しようかというだけで大冒険するはめになるくらいの犬も歩けば棒に当たる頻度でトラブルが舞い込んでくる体質だ。ディー君、完璧にそのトラブル誘引体質の共有者になっちゃうんですよね。共有者というか、起因はだいたいエーリヒなんだからもっとシンプルに被害者というべきか。
ただ付き合いがいいというか、無下に出来ない性格というか、さんざん文句言いながらも付き合ってくれる、本当にいいやつなんだ。最高の友人になるんですよねえ。
今回のヘンダーソンスケール1.0は今までのIFの中でも特にエーリヒにとっては詰まらん望まざる役目を負うはめになるんですけれど、ディー君ももう付き合わんでもいいのに、付き合ってくれてますもんねえ。
エーリヒがどんな道を選ぼうとも文句を言わずについてきてくれて、どんな場合でも絶対に相棒を譲らないマルギットもまさに比翼なんですけれど、彼女はもう本当の意味で一心同体なんで、ある意味他人のディー君があれだけ付き合ってくれるというのはまた違う趣きがあるんですよねえ。
ディー君のカーヤの関係も、エーリヒとマルギットの幼馴染関係に負けず劣らずに湿度の高い幼馴染関係で好きなんですよねえ。カーヤ嬢、家も立場も何もかも放り出してディーくんについてきたわけでしょ。その先で華々しい冒険の日々がそく始まるんじゃなくて、荘ではそこそこの役職の家柄できっとそんな苦労した生活してなかっただろうに、凄まじい貧乏暮らし。得意の薬作りも資材がここではろくに手に入らず、しかしその能力を氏族に目をつけられ狙われる日々。ストレスも半端なかっただろうに、一切ブレずにディー君に最後までついていく、と覚悟ガチで決まってるわけですよ。それこそ、最後が最期になろうとも迷いすらなさそうなくらいに。
けっこうこれ重たい感情だと思うんだけど、ディー君その重みをかなり認識してる上でしっかり受け止めてるんだよなあ。一方で軽々に受け入れるほど腰が軽いわけでもなく、自分なんかにカーヤみたいな子がついてきてくれる価値があるんだろうかと悩んでもいる。でも彼女から逃げない。荘を出る時の野望や夢とはまた別に、今名を挙げて一廉の冒険者になるという目的の中には、カーヤに相応しい男になるという地に足の付いた目的もありそうですし、そのあたりのバランスが非常に彼への信頼度を高めてくれるんですよねえ。

しかしこうしてまっとうな主人公像を地で行っているディー君が登場すると、エーリヒの怪しさというか胡散臭さが露骨に臭ってくるw エーリヒって全然主人公らしくないですもんね、こうして見るとw
むしろエーリヒって主人公の一応仲間側だけど、主人公よりも格上の実力持っているしその背景も謎めいていて味方のはずなんだけど胡散臭いし怪しげだし、でも強いだけじゃなくて政治や謀略にも長けているやたら多方面に有能だったり、謎すぎる人脈持ってたり英雄性が飛び抜けていたりして、主人公が知らない秘密や真実を既に知っていて、大規模イベントが発生した時は訳知り顔になるほどそういうことか、なんてこっそりつぶやいてたりして、最後にはなんか黒幕としてラスボスみたいな形で改て姿をあらわす、みたいなポディションのキャラなんですよね、どちらかというと。
なんか、普段から仮面被ってそうな!
ソードアート・オンラインのヒースクリフ団長とか、ログ・ホライズンのD.D.Dのギルドマスターのクラスティとか、ガンダムSEEDのラウ・ル・クルーゼとか、異世界コンサル株式会社のジルボア団長とか、ベルセルクのグリフィスとか、そんな方向性のキャラクターだよね、なんて思ったり。
本作ではエーリヒが主人公だから彼の内面描写を中心に描かれることで彼が何考えてどんな趣味趣向でというの、十分にわかってるけれど、傍から見たら相当にわけわからん謎人物ですよ、彼って。
マルギットという無二の相棒がくっついている分、一人で暗躍してそうみたいな所が軽減されてるだけマシかもしれないですけれど。ただマルギットがマルギットなだけに二人で暗躍してそう、になるだけなのかもしれませんがw

ともあれ、前回で既に裏の顔役になってしまっているエーリヒですけれど、表の冒険者稼業ではまだまだ新人としてやっとひとつランクアップしたばかり。とはいえ、既にこの頃から【金の髪】なんて異名を【音無し】のマルギットとともにつけられはじめているように、実力に評判が追いつきだしている頃。
それに、ディー君とカーヤの二人を巻き込むことでほぼ4人パーティー結成みたいな感じで活動しはじめ、表でも華々しい勲功を立て始める。
悪逆騎士討伐なんて、これ以上無い名の挙げっぷりでしたもんね。いや、あそこまで華々しく誰にでも認められる形で名を挙げてるとは思わんかった。
あれ獅子人のガディさん、大人というか実質噛ませ役になりながらも、最後まで自分の責任果たそうとしてやりきり、終わったあともエーリヒ立てるあたり立派な人物すぎてちょっと感動してしまった。あれは人徳というか、人柄でも慕われそうですわ。快活な人物ってだけじゃなくて、心の器が広いですよ。それだけに、吟遊詩人たちの謳う詩では演出のために殺されちゃってるの可哀想すぎるんですけど! 生きてます、元気にその獅子人さん生きてますから!!


エピローグでは、このときの活躍が吟遊詩人たちに新たな英雄の詩として広まり、それが巡り巡ってエーリヒの故郷にまでたどり着いた時のエピソードが。訪れた吟遊詩人が、そこがエーリヒの故郷の荘だと知らずに歌いはじめて、わけも分からず荘中の人を集めた舞台に引っ張り上げられて大盛りあがりになるさなか歌い切るシーン、あれはテンションあがりましたねえ。
故郷の人たちが盛り上がりすぎて、詩人の思ってるところと違う所で歓声があがったり、合いの手やコールが巻き起こったり、このお祭り騒ぎほんと楽しかった。
んでもって、最後にTipsでしれっと
「吟遊詩人の詩は本来合いの手などを入れる文化はない」
という一文で締めてるの、オチが効いててほんと好きッ。