【ブレイド&バスタード -灰は暖かく、迷宮は仄暗い-】  蝸牛くも/so-bin DREノベルス

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――冒険の果てに、いつか魂さえ失うと(ロスト)したら?
「その時は、次の冒険者が上手くやるさ」

誰も足を踏み入れたことのない《迷宮(ダンジョン)》の奥で発見された、あるはずのない冒険者の死体――蘇生されたものの記憶を失った男イアルマスは、単独(ソロ)で《迷宮》に潜っては冒険者の死体を回収する日々を送っていた。《蘇生》が成功しようが失敗して灰となろうが、頓着せず対価を求める姿を蔑みつつも一目置く冒険者たち。そんな彼の灰塗れの日常は、壊滅した徒党(パーティ)の唯一の生き残り「残飯(ガーベイジ)」と呼ばれる少女剣士との出会いを機に動き始める! 蝸牛くも×so-binが贈るダークファンタジー登場!!
今なお熱烈なファンが顕在している伝説のゲーム【ウィザードリィ】
RPGゲームの起源となるゲームの一つであり、ダンジョンに潜っていくという形式においてはまさに始祖となるゲームでしょう。
それをゴブスレの作者である蝸牛くもさんが手掛けるとなれば面白くならないはずもなく。
とはいえ、後書きで触れているように【ウィザードリィ】というゲームそのものは移植された作品の最後が2000年あたりですからね。名前は知っているけれどプレイしたことはないよ、という人たちは多いんじゃないでしょうか。かくいう自分だって子供の頃、それこそ小学生の頃でしょうか、友達の家でパソコンで30分ほど遊ばせてもらったくらいしかゲームそのものの経験はないんですよねえ。
でも最近も日本で権利獲得してゲーム出ているらしいので、遊ぼうと思えば遊べるのか。
【ウィザードリィ】の小説として有名なのは、やはりベニー松山氏の【隣り合わせの灰と青春】と【風よ。龍に届いているか】でしょう。特に【風よ。龍に届いているか】はさすがに読んだの20年前なんで、内容はかなり薄ぼんやりとなってしまってるんですが、分厚い単行本2冊(復刻版でした)を完徹して読んじゃってるんですよね。途中で読むの止められなかったらしい。
これらのシリーズは2016年あたりに電子書籍でも発刊されているらしいので、今でもすぐに読めるので機会があればどうぞ。「bookwalker」には見当たらないんだよなあ。Kindleだけかしら。

さて、ウィザードリィという作品において一番印象的で特徴的なものといえば、やはり「ロスト」と呼ばれるキャラクターデータ消去でありましょう。ゲームなのに、復活できないケースがあるんですよ。マジで死んだらオシマイ、データも消えてしまうという極悪なことに。もちろん、死んだら必ずデータが消えるというわけではなく、ちゃんと条件があるのですがそれでも死ねばそのキャラはもう二度と使えないかもしれない、という事実はプレイに凄まじい緊張感を与えてくるものです。
必然、小説でもこのロストという部分は最大のアピールポイントになり得る要素なのですが……。
凄いな、本作ではむしろそれを逆手に取って、ロスト…つまり灰と化して二度と復活できなくなる可能性はあるけれど、逆に言えばロストにさえならなければむしろどんな状態からでも死体の一部さえあれば蘇生魔法で復活できる可能性があるよ、というところを強調して、主人公のイアルマスは主にソロでダンジョンに潜り、道半ばに倒れた冒険者の死体を見つけてはそれを担いで持って帰り、組成させて対価を貰うという事を生業にしてるんですよね。
彼に限らず、ここに出てくる冒険者たちはある程度死ぬことを前提として戦っている。ロストする危険を睨みつけながらも、それを是としてトライアル・アンド・エラーを辞さずに危地へと飛び込んでいく冒険者たち。ただの荒くれ者とは一線を画したある種の狂人たち、どこかそんな風に描かれている。斯くいうイアルマスからして、今は記憶喪失なんだけれど未倒地区域に初めて侵入した冒険者たちが発見した謎の死体だった、という来歴があるんですよね。
彼の冒険者の死体を集めてまわるという作業には、金を稼ぐ(借金返済)という目的以外にも自分の記憶を取り戻すきっかけを探している、のか? どうも彼の言い分を聞いていると若干ニュアンスが違うというか、記憶自体はそれほど重視していないけれど、自身の思い出せない衝動・欲求、ある探しものを求めてダンジョンに挑んでいる、という事なんだろうか。
どこか自動的だった死体回収の仕事は、だが彼が奴隷として冒険者パーティーに肉壁扱いで消費されながらも唯一生き残った「残飯(ガーベイジ)」と呼ばれる野良犬めいた少女剣士を拾ったことで、ややも趣きを変え始める。
同じく、だいぶガラの悪い冒険者パーティーに利用され搾取され使い潰されようとしながらも、パーティーが全滅し自分も死にかかった所をイアルマスに助けられた盗賊の少年ララジャを放り出さずに連れ歩き、この未熟者な少年少女二人の面倒を見ながらダンジョンを潜ることになる、つまりパーティーを組んだことでイアルマスに、どこか色が着きだすんですよね。
案外と面倒見が良く、決して多弁ではないものの必要な言葉を惜しまないイアルマスは、右も左もわからないガーベイジとララジャに丁寧にダンジョン探索について教えることで、二人をじっくり丹念に育てていくんですよね。時に頼もしい友人の戦士に同行を頼んだり、エルフの神官に手助けを頼んだりしながら、イアルマスはそれまでの一人での探索とは異なる、仲間たちとの冒険を徐々に自分の生死のなかに組み込んでいくのである。
どこか達観したような自分自身を突き放したような、それでいて情熱的に何かを探し求めるような、まだ子供めいた二人を穏やかに見守る保護者のような、そんなイアルマスの佇まいが何とも魅力的で引き込まれるものがあるんですよね。

あと、ガーベイジちゃんが、挿絵の血まみれっぷりが見た目エグいし怖いんだけど……いや、この子やたら可愛いよ!? 事あるごとに「野良犬めいた少女」と言われてしまうんだけど、実際この子人間の言葉を喋れないんですよね。その境遇が生まれた時から人間扱いされなかったからなのか、それこそ犬みたいな吠え声しかその喉から発しないのである。でもじゃあ、野良犬みたいに凶暴ですぐ噛みついてくるような獣じみた少女なのかというと……これ野良犬は野良犬でも手当たり次第暴れて噛みついてくるような野犬ではなく、ふと気がつくとチョコチョコと後ろからついてきていて、餌をあげたりなでたりしてあげると尻尾振って喜んで懐いてくるような、そういう野良なんですよ。
しかも、一々仕草とか反応とかがみんなみんな本当にワンコみたいなのよね! 
いやー、人懐っこいワンコってこんなんだよね、という動きなんですよ、この子。吠え声も人間の言葉じゃないし喋っているわけじゃないんだけど、何を言いたいのか大体わかりますし。犬の鳴き声ってだいたい今どういう感情なのか、とかわかるじゃないですか。言葉じゃなくても律儀に返事してるなあ、という吠え方もありますし。あと、絶対この子尻尾ついてたらブンブン振ってるだろ、という動き方を良くしてますし、苦手な人を前にしたら尻尾丸めて警戒音発したり、あんまり機嫌よくないけれど大人しく頭ぐしぐしかき回されてたりとか。ワンコ、ほんとワンコw
自分より後に拾われたララジャの事は序列的に下に見ているのか、やたらと舐めた態度取るところとかも、それがかわいくてかわいくて。バシバシとよく足を蹴られてるララジャとしてはたまったもんじゃないかもしれませんけどさw
でも、飼いならされた犬とはまたちょっと違うんですよ。あくまで居心地良いから一緒にいるってだけで、飼い主に忠実だったり献身的だったりするわけじゃない。罠にハマってはぐれたとき、皆の所に戻ることにこだわらずに、どこか達観したように再び一人に戻ることを受け入れていたことを見ても、どこか野良の気風を失っていないんですよね。
とはいえ、そこでイアルマスが見捨てず追いかけてきてくれたあたり、彼がくしゃりと頭を撫でるのを普段みたいに嫌がらずに受け入れて、並んで大敵に立ち向かう姿が……こう、良い。良いんですよねえ。詳しく表情なんかは描写されていないのですけれど、無骨な手に撫でられている時の彼女の表情、なんかワンコが嬉しそうに頭撫でられてる絵面となんか重なって、うん……良い。好き。
やー、なんかガーベイジについてならずっと語れそうなくらい、なんかぎゅっとくるキャラクターでした。野生児でなんも喋んないのにねえ。でも何気に出自すごそうなんだよなあこの子。
でもワンコだ。落ちてたモノ拾ってきて得意げに渡してくるところとか、ほんとワンコ。可愛いなあw
いや、ララジャくんもあれひねた小僧っぽいわりに根っこ素直で、なんかすごく真っ当に成長物語の主人公になりそうなくらいのすくすくとした成長を見せているので、この子の伸び方を見てるのも楽しいんですよねえ。

次巻も順当に出てくれるみたいですし、次も楽しみ楽しみ。