徒然雑記 : 絶対魔剣の双戦舞曲(デュエリスト) ２ ~暗殺貴族が奴隷令嬢を育成したら、魔術殺しの究極魔剣士に育ってしまったんだが ★★★☆

【絶対魔剣の双戦舞曲(デュエリスト) ２ ~暗殺貴族が奴隷令嬢を育成したら、魔術殺しの究極魔剣士に育ってしまったんだが】　榊一郎／朝日川日和 HJ文庫

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新たな少女魔剣士候補登場！
　皇国の動乱の中、ジンたちはどう動く!?

ヴァルデマル皇国の建国記念日、突如起きた皇太子襲撃事件。
その場に居合わせたジンやリネットらの活躍でなんとか事態は収束したが、謎めいた事件の経緯は、国内に不穏な余韻を残す。その後、期せずして腕を見込まれたジンたちは、女好きの皇子・クリフォードの護衛を引き受けることに。
だが、一見奔放すぎる皇子の態度の裏には、意外な事情が隠されていて……？
　今巻では新たな少女魔剣士候補・ミラベルも登場！
　皇国をめぐる陰謀の闇を、双つの絶対魔剣が切り裂くシリーズ第2弾！

これちょっと、敵のスカラザルン帝国の在り方が国家というよりもショッカーみたいな悪の組織じみてるんですけど、ほんとに国なのか？　そもそも国の成り立ちが皇国内での兄弟での皇位継承争いで敗れた側が逃げた挙げ句に、怨念を国是として建国したような国らしいので元からマトモとは言い辛い国家なのかもしれないですけれど、それにしてもですよ。
自分の国の兵士には人体改造平気で施してるし自爆機能付きですよ。それどころか、他国の一般人に触覚植え付けて無自覚に操り人形にした上に人間爆弾に仕立て上げてテロに使うという、外道も外道の作戦を平然と使ってくる。いや、ここまで鬼畜外道なやり方する国、なかなか独裁国家とかでも見たことないですよ。
おまけに、家族をもう救いようのない加工済みの操り人形にして言うことを聞かないと元に戻さず処分すると脅迫した挙げ句に、国や仲間を裏切らせて刺客に仕立て上げるとか。南米の麻薬カルテルかよ、と言わんばかりの外道っぷり。
……黒榊先生が炸裂してませんか、このあたり。いや、まじでここまで反吐の出そうな極悪非道の所業を平然と組織として行う集団は久々に見ましたよ。
こういう連中はほんと、全滅させないとダメなんだけれど恐ろしいことに相手が国だと絶滅戦争になってしまうので、これどうするんだろう。ってか一応帝国とは停戦状態なんですよね。よく交渉とか出来たな。そして一応停戦状態にも関わらず、平然とテロ仕掛けて王族殺しに来るとか、もう無茶苦茶だなこいつら。

正直、ここまで外道な作戦を仕掛けてくる相手、しかも魔獣やら魔術の起動を阻害する霧やらかなり強力な兵器を用いて、ただのテロや謀略で近衛騎士団とかもうほぼ半壊してるし、これ再び宣戦布告してきたら皇国側ひとたまりもないんじゃないのか、と恐ろしくなるんですけど。一般戦力で全然対抗出来なさそうなんだが。
戦力だけでなく、国を率いる王族からして今回の一件で受けた被害が大きすぎますからね。もう色んな意味でズタズタじゃないですか、これ？
クリフォード殿下、あの最初の襲撃のときはまだ普通に健在だったのか。てっきり、影武者のミラベルが出てきた時はもうずっと以前に殿下は亡くなっていて女性のミラベルが代わりを務めていたのかと思ってしまった。とすると、最初の方に出てた殿下って本物なんですよね。クリフォード殿下って女好きなのはともかくとして、ホントに有能だし育ての親の義母オーガスタ妃やその息子である弟のデイヴィット殿下に対する家族としての親愛も本物だったんですよね。実際、彼が襲撃の際に重傷を負ったのは二人を庇っての事でしたし。
これ、後から真実が明らかになるとクリフォード殿下不憫すぎるんだよなあ。彼、殺される謂われ全然ないんだもの。こんな酷い裏切りがあるだろうか。
それに、予備の影武者として王家の人間でありながら、クリフォードの姉でありながらその存在を抹消され、ある意味人間扱いされてこなかったミラベルの悲哀と苦しみが語られていましたけれど、クリフォード殿下はこれ実際本当の意味で存在そのものが消されてしまうんですよね。存在しない人間になってしまったからこそ、その死はなかったことにされ、誰も弔っても悼んでも貰えない無縁仏にさせられてしまったの、ほんと酷くないですか？　彼、マジでなんにも悪くないんですよ？
そういう意味では、結局クリフォード殿下もミラベルと同じ駒でしかなかったんだよなあ。ミラベルは姉弟としてずっとクリフォードと一緒だったんだけれど、あんまり彼については語らないんですよね。話を聞いている限りでは虐げられてたり上下関係があったという風でもなく、影武者云々は抜きにして入れ替わって遊んでいたりとか、普通の姉弟としての距離感だったみたいだし仲は良かったようにも思えるんだけれど、弟が死んだ際の反応があんまり見当たらないんですよね。その死を隠されてしまった弟に、彼女はどんな思いを抱いていたんだろう。
そしてやっぱり納得がいかないのがオーガスタ妃なんだよなあ。なんでこの人、ここまで思い詰めるようになってしまったんだろう。普通に考えればどれだけ自分が馬鹿なことをしているか、決して報われないどころか盛りたてようとする自分の息子デイヴィットを地獄に叩き落とすような真似じゃないですか。息子のためと言いながらこれ実際は子供の事なんにも考えてないでしょう。自分の存在意義にしか頭がいっていない。でも、どうしてそんな風になってしまったのか。デイヴィットが生まれるまで正妃が早くに亡くなった為に赤ん坊の頃から自分の子供のように育てたクリフォードを、どうしてあんな風にゴミみたいに始末できてしまったんだろう。決して虐げられてたわけじゃないですよ。正妃がいない以上実質唯一の王の后として尊重されていましたし、クリフォードにしてもミラベルにしてもオーガスタを本当の母のように慕い、デイヴィットの事も継承争いの対抗馬なんかじゃなくて本心から弟として可愛がり、弟の方も兄に懐いて慕っていた。これだけ兄弟として仲の良い関係そんなにないですよ。
一体何の不服があったのか。どんな憎悪があったのか。それは家族愛すら踏みにじれるほどの消えない激情だったのか。そのあたりの根源が描かれなかったので、どうにもこの人の凶行の根っこが理解できないし納得いかなくて、色んな意味ですっきりしない結末でした。
これ一番可哀想なのデイヴィットくんですよ。この子の無垢で素直な純真さにどろどろの血が頭からぶちまけられて、もう元には戻れないでしょう。こんなん絶対歪むよ。大丈夫なのかこれ？　本気でこの子が一番心配なんだけど。

ちょっと王家の人たちの方がもうえげつない事になりすぎて、リネットが順調に成長しているんだけれどあんまり意識をそっちに向けられなかったですわ。ジン先生抜きでリネットとルーシャが本気の殺し合いをくぐり抜け、危地を突破できるほどに立派に成長してるんだけれど、果たして敵の非道っぷりの凄まじさに、まっとうな成長で追いつくだろうかと心配にもなってきます。
行方不明だというジンのお姉さんについても、帝国の外道っぷりが想像を遥かに超えていたのを鑑みて、途中登場した女性のことを考えると、どうにも救いのない展開になりそうで怖い。