【悪魔公女 ２】　春の日びより／海鵜げそ Kラノベブックス

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
――光溢れる世界の夢を見る。
家族。学校。友達。電車。バス。映画。本。
『私』は光の世界で成長し……最後に白い部屋の中で、闇に包まれた。
夢から覚めると、魔界と呼ばれる世界で小さな一体の悪魔になっていた。
「――帰りたい――」
『私』の心に広がるのは、夢で見た光の世界への憧れ。
そしてある日、目の前に現れた『召喚門』に飛び込む。
再び『私』が目を覚ますと、人間の赤ん坊として生まれていた。
そこは神聖王国。「帰りたい」と願った世界とは異なる人間の世界。
悪魔でありながら、赤ん坊の力しかない『私』は恐怖する。
自分が悪魔だということは隠し通さなければ――……。
さあ、愛しき人間たちよ。
その絶望を“悪魔《わたし》”に捧げよ。
などと前世で言う厨二病的見得を切って、ベッドで黒歴史に身もだえした私、ユールシアも五歳になります。そうしたら、国王陛下であるお祖父様の一声でなんと誕生日は王城と王宮で行うことに。王位継承権を持つとは言え、私は大公家の娘なのにいいんでしょうか?
でも、そのパーティーでついに会ってしましました。私が美味しく頂いたアルベティーヌ様の娘である“お姉様たち”に。いきなり真っ赤な果実酒を私にぶちまけてくる悪意に、嬉しすぎて顔が引きつりそう。
そして、私に四人の従者が与えられました。まったくやる気の欠片もない怠惰で身勝手で貪欲な人材ばかりです。お父様の人選は素敵ですね。
最後に、『月夜の茶会』を主催する『白銀の姫』。血の匂いがする彼女の招待に応じるのも面白そう。
悪魔である私にとって、五歳の日常はなかなかに楽しいものになりそうですね。
前巻のラストで王城から街の夜景を見下ろしながら人間たちの絶望を悪魔公女が魂まで永劫に愛してあげる！　とテンション高く高笑いしていて、実に悪魔らしい姿に身震いしたものですが……。
……ほんとにテンション上がりすぎてて衝動的にやらかしてただけなのかｗ

この巻冒頭でメイドさん達がなんか変なこと叫びだしたユル様にびっくりして心配しながら流れ込んでくるわ、聞かれてたと知って冷静になったユル様が途端に思いっきり中二病なセリフで高笑いしてるという自分のありさまを直視して恥ずかしさに悶絶したりと。

……可愛いんですけど、この子。

いや、恥ずかしいんかい！　黒歴史なんかい！　悪魔的には実にそれらしいセリフだとは思うんだけれど、この子の価値観って人間とは少しズレているにしても悪魔のそれとも大きく違ってはいるんですよねえ。人間の苦しんでいる姿を見て愛でようという風には思ってないんだよなあ。この子の愛する人間の絶望って、悪魔の愛でるそれとは違うんだよなあ。
彼女が悪魔なことは間違いない。自分が悪魔な事にユル様は疑いも拒否感も抱いていない。悪魔を自認し悪魔らしく人の世界で生きていこうとしている。でもそれは人の皮を被って人の世界に潜んで人間たちを弄ぼうとしているではなく、人として産まれた以上は人間としてもちゃんと生きようともしている。
悪魔である事も人である事も両方否定せず、悪魔として人間としてを両立させながらこの世界で生きていこうとしている。そもそもこの子難しいことは考えておらず、感覚とその場の勢いで生きてるような所があるからなあ。だからテンションあがると後先考えずに厨二病発症するしｗ
そういう意味での自由さが、人生難しく考えない緩さこそが、彼女の魅力なのだろうし、彼女にかかわると周囲の人たちもユルくなってしまう、という由縁なのだろう。

……逆に言うと、これだけユルくて大抵の物事に対してあんまりムキになったり苛立ったりせずに応用に受け入れたり、面倒くさい事もスルーして流してしまうユル様を、イライラさせたりやたらと気を遣わせたり青筋を立てさせたあの四人の従者たちは、何気に偉業打ち立ててたんじゃないだろうか、これｗ
お祖父様な国王陛下の溺愛ゆえの無茶ぶりとか、身の回りの世話をしてくれるメイドさんや使用人たちには案外と頭の上がらない所のあるユルさまだけど、嫌がらせされたり悪意ぶつけられてもむしろ悪魔的には喜ぶ人だけに、ほんと怒る事とか苛立つこととか殆どなかったんですよねえ。
それをあの四人の従者たちと来たら。
……どこからこんな子たち見つけてきたんだ、お父様。いや、作中でも説明されていたし、わかってますよ。ただ決して少なくない被害者の子供たちの中からどうして寄りにもよってこの４人を選んできたのか。もう厳選してきた、っと言っていいくらいの酷さでしたからね。
年齢的にもユルさまに近く、零落したとしても元々ユル様の身分に見合う格の家柄の子がこの４人しか居なかったのかもしれませんけれど、それにしてもそれにしてもですよ。
お父様、なにかユルさまに意趣でもあったんじゃないかとすら思えてくる人選である。いや、娘のこと溺愛している人なのでそんな事は絶対にないのですけれど。でも、この４人紹介する時の妙に焦った反応、従者としてユルさまに付ける以前から既に何かしらの問題を起こしていたと思しき所があるんですよねえ。その評判、絶対聞いていただろ、お父様。
にしても、ですよ。ユル様とさほど変わらない年齢ということで一番上の男の子ですら３才上だから８歳くらいか。まだ幼児と言って過言ではない子たちですから、いくら貴族として教育を受けていると言ってもまだまだお子様。従者としての仕事なんてよっぽど出来た子供じゃないとマトモに出来ないだろう、と思うじゃないですか。それどころじゃないもんなあ、この子ら。
幼児の段階でこんな使い込みとか横領とか名義詐欺とか、小悪党めいたこと平然とやらかすとか、逆にすごくないですか？　やってる事がどれも１０歳に満たない子供のやる事じゃないんだよなあ。
いや、まじでこんな子供四人にユルさまの世話任せてほったらかしとかどういう事なんだ？　
これ、そのまま放置でも幾つも犯罪行為が積み重なっている上にユル様に対してあんな態度取っていた以上、そのうち放逐されるか物理的に処分されていたんだろうけれど、果たしてこの４人にとってどちらの末路がマシだったのか。
でも、最後の最期までユル様ってこの子たちに救われる選択肢与えているんですよね。心を入れ替えて頑張れば助かる道は示していた。まあそういう性根の子たちじゃないと確信があったんでしょうけれど、それでもチャンスは与えたわけですからね。ユルさま慈悲深いとしか言いようがない。悪魔界人間界通じてこれだけ嫌ったヤツもいなかったろうってくらい嫌がってたのに。
そういう上から逆らわせずに踏み潰すんじゃなくて、助かるチャンスあるのに自分の愚かさ性根の醜さでもって自業自得の末路を自分で歩ませるというあたりが、悪魔的なのかもしれませんけれど。
吸血鬼たちも、救いようのない大人の二人は全く眼中になく滅ぼしておきながら、若きミレーヌや彼女を慕うたちは拾い上げて、ミレーヌは友達にしちゃってるんですよねえ。ユルさまの恐ろしさをあそこまで味わいながら、魂まで屈さずにちゃっかり面倒押し付けたりと逆襲したり、イイ態度とってるミレーヌ、なかなかの胆力である。けっこう真面目に友達やれそうだよね、この子。
遂に悪魔界から、あの吹けば消し飛びそうな存在から大悪魔に育てあげてしまった四匹の僕たちを四人の従者を器にして人間界に呼び寄せてしまったわけですけれど、着々と悪魔公女の力は王国の裏も表も関係なく隅々まで広がり、ユルさまの手のひらの中に収められそうな勢いですけれど……うん、なんでかそんな酷い事になりそうにないユルい感じのままなんですよねえ。
確かに、王国は魔の手に堕ちそうと言えばその通りなんだろうけれど。ユルさまの腹違いの姉であるアタリーヌの危惧は、ユールシアを危険視する事は間違ってはいないんだけれど、いないんだけれどさあ……ねえ？
にしても、このアタリーヌとオレリーヌの品性の下劣さを、ユル様はもう垂涎って感じでヨダレだらだら垂らしそうな勢いで愛でたそうにしてるんだけれど、実際どうやって愛でるつもりなんだろう。心入れ替えちゃったら悪魔としてのユル様の飴玉としては味の抜けたガムみたいになっちゃうし、さりとて下衆のままだと周りが放っておかないだろうし。ユルさま、この二人と一緒に遊びたくてたまらなさそうなんだけど、二人とじゃなくて二人で、かもしれないけれど、なかなか難易度高そうだみゃあ。


タグ ：
#海鵜げそ
#悪魔公女
#春の日びより
#Kラノベブックス
#ライトノベル