【俺と妹の血、つながってませんでした】  村田 天/絵葉 ましろ 富士見ファンタジア文庫

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「なにしたっていいんだよ。私たち、兄妹なんだから」

妹の久留里は超絶ブラコンだ。
俺と目が合うたび抱き着いてくるし、
膝に乗ることや手をつなぐことをいつも狙っている。

「えへへ。お兄ちゃん。大好き!」
にへっと笑う久留里が俺と同じ高校に入学した日の深夜。
両親から俺は、妹自身も知らない衝撃的な真実を告げられる。
「光雪くんと久留里ちゃんは、血がつながってないんだ」

え、俺と久留里が義理の兄妹なの!? それはヤバい――
「お兄ちゃんと血がつながってなかったら……結婚するよ!」
俺の妹は、常々こんなことを言うやつなのだ!

兄ガチ勢な甘えん坊義妹との兄妹関係は、一つの隠し事で変化し始め!?

これは……いいなぁ。うん、うん。

この妹ちゃんの久留里。自他共に認める超絶ブラコン。登校時に手を繋いだり家でもベタベタひっついて、スキンシップは濃厚の一言。上級生の教室まで入ってきて恋人のようにお昼誘いにくる。
母親がエロ漫画家だけあって、兄妹のスキンシップの基準がエロ漫画、というのはあくまで久留里の冗談で本気は半分くらいなんだろうけれど、それでも世間一般の常識的範疇なんて端から気にしていない、家族の愛し方は自分が決める!って感じではある。
まあ仲の良い兄妹の範疇を超えてるドコロじゃない超越っぷりだ。

でも、ヘタな兄妹の恋愛モノと違って、久留里の兄光雪への愛情ってのはあくまで家族への愛情、兄貴への愛情ではあっても、異性への愛情ではないんですよね。少なくとも自覚的には。
彼女にとって兄への愛し方と他の両親や妹への愛し方の濃度、深さは何も変わっていない。他の家族にも同じくらい愛情を注いでいる、兄だけを特別視しているわけじゃない。
彼女がこれだけ家族への愛情を惜しみなく過剰なほどに注いでいるのは、幼い頃から自分だけが他の家族に似ていない、と頻繁に言われたこと。実際、自分と他の家族とは容姿や性格にあまり似た所がなく自分でももしかしてという恐れを抱いてしまって、微妙な疎外感を抱いていたみたいなんですね。
久留里の感じていた違和感は半分当たりで半分間違い。彼女は自分だけが貰われ子なんじゃないかという疑念を持っていたみたいだけれど、実際はお父さんとはちゃんと血の繋がった親子だったわけである。頑固で堅物、と表層だけ見ると父と兄はよく似ているように見えましたからね。父と自分も似てないと久留里が思ってしまったのも仕方ないかと。実際の所、兄の居ない所では甘えない我儘言わない駄々捏ねない久留里って、普通に真面目で一途な子っぽいので、内面的に父と良く似てるんじゃないかと思うんですよね。
ともあれ、幼い頃に感じた疑念や疎外感は長じるに連れて、まあそんな訳ないよねと今となっては雲散霧消に近いものになっているのだけれど、それでも過剰なくらい家族に甘えたりひっついたりする事はこのもしかしてという恐れを少しでも解消するためのセーフティーだったっぽいんですよね。
だから、光雪が両親の密談を聞いてしまい、両親がそれぞれ連れ子を連れての再婚だったという話を聞いて以来、血の繋がっていない妹だった久留里とのスキンシップの濃度に今更ながら危機感を抱いてい、普通の兄妹を模して年頃の男女らしく適切な距離感を心がけはじめたことで……これ、久留里の安心を破壊してしまったのですね。
これ、光雪の距離の取り方も不器用の極みだった事もあり、不自然に突然に拒絶されたみたいになり、いきなり十年来メンタルを安定させ続けたセーフティーネットをいきなり取っ払われたみたいなものですから、久留里が過敏に不安を増大させてしまいややヒステリックなくらいこれまで以上に密な距離感でしがみつこうとしてきたのも、こうして見ると理解の範疇ではあるんですよね。

また、光雪の方も彼は彼で普通の思春期の男の子からすると、やや不安定な部分があって。いわゆる人の心がわからない系の、他人の心の動きを察したり共感したりというのが苦手なタイプの子だったみたいなんですよね。そこに、両親の打ち明け話でどうやら自分の本当の父親は浮気して母と自分を捨てたクズ男だった事を知ってしまい、元々他人との距離感をつかめず対人関係に自信を持てなかった所に、自分もまたそんなクズな父の血を引いているのだから容易に人でなしの側に踏み外しかねない人間なんじゃないか、という不安を強く抱えているわけです。
故に光雪くんは、感情面で色々と察したり理解したり出来なくても真人間でいられるように、一般的な規範や誰もが正しいと思う常識やルールを重要視し、それを自分の言動に当てはめて動くことで周りから逸脱してしまわないように心がけていたんですね。
所が、今更ながらに愛する妹が本当の妹ではなかったと知ってしまい、それ以上に今までの自分達の兄妹のスキンシップとか仲の良さが、どうやら一般的な兄妹のそれとは全然違う普通とはかけ離れたものだと、本当に今更知ってしまい、理解してしまい、半ばパニックになりながらそれを修正していこうとするのですね。
でも、感情の機微がわからないというのは嘘がヘタというのにも繋がるわけで、恐ろしくぎこちなく下手くそに瑠璃と適切な距離を取ろうとしてしまうのです。
片や全力フルスロットルでただでさえ過剰だった今までよりも、暴走気味に距離の詰め方をしてくる妹に。はじめて自動車教習所で自動車に乗った初心者のごとく、ブレーキとアクセルを間違えたり踏みすぎたりとドッタンバッタン前後に人間関係の距離感の急発進と急停車を繰り返す兄。

もうぐっちゃぐっちゃである。

どれほど過剰で、それこそ血が繋がってなかったら結婚するー、なんて久留里が宣言するくらい仲の良すぎたとしても、それでもあくまで兄妹だった光雪と久留里。
血が繋がっていなくても何よりも大切な妹だった。どこか違和感があったとしても、血が繋がった確かな家族でありたかった。そんな二人だったのに。
でも、このお互いに冷静さを欠いた暴走気味に行ったり来たりの綱引きによって、この兄と妹という二人の認識の区分の壁までが揺れすぎて斜めに傾いで外れかかってしまうんですね。
どれだけ愛が深くても兄と妹だったのに、あまりに距離が近くなりすぎて、或いは兄妹というには他人みたいな遠さになって。その振幅の激しさが、二人の認識をグチャグチャにしていってしまう。
それでいて、二人がお互いに抱き注ぐ愛情の深さは何も変わらないわけです。
だから、本来家族愛だったその愛情は、激しく振幅するお互いの立ち位置によって、その意味合いが、質が、チラリひらりと今までと違う形でこの二人の脳内に焼付き、そのハートに刻印を残してしまう。

正しい形を心がけようとして、家族であろうとして、その愛は変わらないまま、光雪と久留里は今までになかったモノを、お互いに感じてしまうのである。

この兄妹の関係の変化。ドタバタラブコメ的に賑やかに楽しく描いているんだけれど、それでいていったんグチャグチャに撹拌してから丁寧に濾過させていくような、しっかりと筋道の通った推移、過程が描かれているように見えるんですよねえ。だから、二人の想いの行く先が自分でもびっくりするぐらいしっくりと納得が行くのです。
最初から妹が血が繋がっていないと知っている訳じゃない、久留里が真実を知らなくて、本当の家族だと信じていたからこそ生まれる、気持ちへの気づき、どうしようもない衝動の芽生え、そして真実を目の前にした時の静かな決壊。
ラストの久留里のエピローグはそれまでのドタバタとした賑やかさが嘘みたいな、静かでじんわりとした緊迫感が漂いながらしっとりと落ち着いた語りになっていて、ずしりと刺さってくるんですよね。
うん……うん、イイ。これは本当に良い兄妹モノです。ハートを掴まれた。