【英雄夫婦の冷たい新婚生活 １】 汐月 巴／だにまる MF文庫J
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冷え切った夫婦の離婚危機から始まる異色のカップルラブコメディ!
世界を東西に二分する強大な国家間の戦争を終わらせた東のエリート軍人・アルマと、西の麗しき超能力者・エリーゼ。
世界に平和をもたらした両国の英雄は、戦いの中で愛が芽生え結婚し『平和の象徴』として歴史と国民の心にその名を刻むことになった。
そうして始まるラブラブで甘々な結婚生活と両国の平穏な日々。これらは永遠に続くと思われた――が、なんと1年も経たずに些細な価値観の相違から二人は離婚を決意!?
両国平和の象徴である二人が別れたら、世界の平和が揺らいでしまう……!
さらにはレジスタンス組織が夫婦暗殺を計画しているという話も出てきて……?
英雄たちの家庭問題は国を揺るがす大騒動に──!
この表紙絵は分かってますよね。仲が悪そうという以上に、側にいるのが嫌でたまりません、という風情をご両人が出しておられる。それでいて隣り合った位置ににいないといけないというジレンマ。
立っている夫と座っている妻、という構図は古くからの家族の記念写真の王道というべき構図のはずなんですが、こうなってしまうともう同じ高さで隣り合っているのも嫌、という風にすら見える。
離婚まで秒読み段階というのがひと目で伝わってくる、極めて伝達力の高いイラストですねえ！
いやー、タイトルもこれ「冷たい新婚生活」ですし、あらすじ読むと元敵国の軍人同士。愛し合って結婚したとか書いてるけれどどこまで信用できるものか。これ和平と戦後の平和維持のための象徴として結婚させられたんじゃないの？ つまるところ政略結婚だったのが結局無理押しでは長続きせずについに両人とも我慢できなくなり破綻の危機を迎えた、とかいう話じゃないの？ と思いながら読み始めたのですが……あれ？ わりとガチ目にお互いべた惚れ同士だったの？
どうも結婚に至るまでの経緯とかラブラブの時期の結婚前から新婚生活の様子が描かれないので、実際二人のラブラブっぷりがわからないのですが、当時の断片的な言動からするとわりとあかんタイプのバカップルだった模様。
……これ、熱が冷めたら途端に食べられたもんじゃなくなる安物のファストフードみたいなバカップルですね。あー、これはうん、長持ちしないよなあ。
とまあ、ある種の納得すらあった両者の新婚生活の破綻。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってな感じでラブラブだった時は何やっても可愛いし何しててもカッコいいし、どんな言動もひたすら好きのベクトルに向かってしまうのがキレイに反転して、そりゃもう何をやっても何を言ってもムカつくしイラつくし我慢できなくなる、という典型的な離婚直前夫婦の様相を呈してしまっている二人。
あかん、これ子供がおったら幼心に大きな傷を残してしまうトラウマになってしまうやつや。
いきなり離婚の危機、というか既に両者的には合意して、それを周囲に報告したらかなり必死こいて止められている、というところから始まるので、そもそもどんな経緯で結婚したのかすらわからないのに、なんで今離婚の危機に発展しているのかすらわからないところから始まってしまう。
この離婚を巡る周囲の必死さと、当人たちの冷め切りながらも断固として離婚してやるという頑なさのギャップが、実に愉快なドタバタコメディとなっていてそれはそれで非常に楽しい転がし方、演出なんかで面白かったですよ？ 二人の結婚生活の破綻が今ようやく平和な親交を育みつつある両国の友好を、盛大にぶち壊しかねない巨大爆弾で、その処理を押し付けられた上司の温厚そうな将軍の悲愴さが、可愛そうながらもやっぱり面白いし。
二人の仲を取り持つために、護衛を兼ねて派遣された両国の若き士官たちが、あの離婚寸前の夫婦特有の冷たいを通り越して魂も凍るようなどうしようもない空気にさらされて、完全にお通夜とかしてしまうところとか。なかなかイケてる爺さんって感じのキング・ブラッドレイ味のある総統と、威厳と力量を兼ね備えながらわりとミーハーな所のある少女王とか、両国の首脳もいい味出してるキャラでしたしね。
しかしこのアルマくんとエリーゼ。二人の仲が急に悪くなった原因を辿っていくと……この二人って殆どお互いのことを知らないまま結婚したんだなあ、というのがわかってくる。
つまるところ、離婚の危機の最大の要因って、お互いの価値観というか信念の食い違いによるところなんですよね。二人の一番根本にあるだろう行動規範、二人にとってそれぞれ絶対に譲れない人間としての芯の部分が、どうしても相容れなかったわけである。
その人の魂の形というか、その人がその人足らんとする土台にして根本、心臓にして芯の部分に対してまったく踏み込んでいなかった、そもそも興味関心を持っていなかったんじゃないだろうか。
お互いに興味がなかったなんて事は絶対ないですよ。興味がない相手を好きで好きでたまらなくなる、なんて事はないですからね。でも、好きという好意、恋に浮かれて相手の可愛さかっこよさ、わかりやすい強さや表面上の言動。そういうわかりやすい、見えやすい部分を見て感じて受け止めているだけで、好きのメーター振り切って浮かれて目いっぱいになってたんだろうねえ。恋に夢中ってやつだ。そこまで相手の内面、基幹部分に踏み込まなくても、その前段階でもう十分相手のこと好きになっていたんでしょう。一生を添い遂げたいと思えるほどに夢中になったのでしょう。
だから、譲れない部分を容易に踏み越えていったお互いを、彼らは受け入れることが出来なかった。一気に反発へと転じてしまったわけだ。話し合い、お互いを理解し合い、その上ですり合わせていくという行程を彼らは踏むことが出来なかった。
普通の離婚の危機にあるような、相手への諦観や絶望、期待を裏切られたとか無関心という種類のマイナスベクトルは、この二人からは感じられないんですよね。
とかく、強烈な敵意と反発。
つまるところ、彼らは一足飛びに結婚という結末へと飛び込んでしまったために、恋人時代に育まれるだろう落ち着いた愛情というものを育てきる前に、恋に恋するまま結婚してしまったと思われる。
まだ本当に夫婦である、家族であるとは言えない間柄だったんじゃないだろうか。
……というあたり、想像にしかならないんですよね。何しろ、現在に至るまでの二人の夫婦時代の様子、夫婦になる前のことがまったく描かれていないので。
でも、お互いのタブーというか、地雷というか、ここは譲れんぞ、というラインを存在自体知らなかったというのは、そしてどうしてそこに拘るのか、という事を尋ねもせずに（この巻の後半近くになってようやくアルマの方がどうしてだ？と疑問を抱き始めるので、それ以前はお互い全く理解しようとした事がなかったと思われる）即座に許せん！となって関係が険悪化してしまった、というのを見るとねえ。まだ本当の夫婦とは言えない間柄だったんじゃ、と思っちゃうんですよね。バカップルだっただけで。
まあそういう夫婦も、そして短い期間で破綻してしまうのも今どき、どころか古来より珍しくもない夫婦の顛末なんでしょうけれど、この二人の場合そのまま２つの国家の平和に直結しているので、はいそうですか、と離婚を受理してもらえるはずもなく。
……これ、テロリストたち余計なちょっかい掛けなかったら、相互理解一切ないまま普通にさらに関係悪化して周囲がどう止めようが破綻して、無事両国の関係悪化、という顛末を辿ったんじゃないだろうか。それを、二人の英雄の命を狙うことで否応のない共同作業からようやく上っ面のラブラブよりも踏み込んだ、浮かれた感情を排したところでの相互理解が進展してしまったのですから、藪蛇ってやつでしたな、ご愁傷さまである。
しかし、これロキくん関係思いっきり放置なんですけど、せめて理由くらい語らせましょうよ。こうしてみると、結構物語上大事な話をかなりすっ飛ばしてぶん投げたままの事が多いんですけど！？
