【物語の黒幕に転生して 2 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~】  結城 涼/なかむら 電撃の新文芸

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運命の出会いが新たな伝説を生む!? 大人気Webファンタジー第2弾!!

世界的な人気を誇るゲーム『七英雄の伝説』の世界に転生したレン。
村を離れた彼は聖女リシアとその父であるクラウゼル男爵の言葉もあって、
しばらく町にある男爵の屋敷で過ごすことを決める。
男爵家の仕事をしながらギルドで冒険者としても腕を振るい、リシアとともに充実した日々を送っていたが――。
そんな中、男爵家に力を貸すためリシアに見送られ、レンはある場所へ向かう。
そこで彼を待っていたのは思いもよらぬ少女との出会い。彼女は物語の大きなカギを握る人物と関係があり……?
「俺の剣はこういうときのためにありますから。なので──」
レンの物語は、さらに大きく動き出す──!



………うわぁ。

これはもう何と言いましょうか。イグナート侯爵令嬢フィオナ様。彼女を巡る今回のお話はなんというか、王道も王道の英雄譚なんですよね。
フィオナにとっては、長きにわたる闘病生活。やがて来る死の定めを受け入れるしかなかった静かな絶望を、ある若き英雄の活躍によって得られた希少な素材によって覆された事は、彼女に運命を意識させるに十分な出来事だったでしょう。
出会ったこともない命の恩人に思いを馳せて、その人となりに想像の翼をはためかせて、いつかほのかな憧れ以上の想いを抱くようになっていた、というのはそれまで生きること精一杯だったフィオナにとっての乙女心の発露と言えたのではないでしょうか。
ところが、フィオナにとって運命的だったのは、士官学校の入学試験で起こった陰謀によって炎龍の眠る真冬の山嶺で遭難した際に、救援のために現れた騎士と冒険者の合同チームの中に、当の命の恩人である若き英雄レン・アシュトンが加わっていた事なのでしょう。
偶々レンの方が名乗る機会を得られず、相手の正体を知らないまま冒険者さんと呼びながら親しくなっていく二人。そのまま順当に襲いかかってきていた魔物の群れを撃退して山を降りられるかと思ったときに、フィオナを巡る陰謀の罠は彼女を徹底して死の運命に叩き落とそうとする。
それに颯爽と割って入り、魔物の群れを、魔王教の悪意を、そして最後には名高き赤龍アスヴィルの躯を退け、再び命を救われる。いや一度目どころじゃない、目の前で何度も困難を、絶望を、試練を乗り越え覆し、自分の諦めを吹き飛ばし、劇的なまでに英雄的なまでに自分を救ってくれた剣士さま。
ドキドキするとかときめくどころじゃないですよ。物語のお姫様でもこんな風に助けてもらえんぞ、というくらいの勢いで偶然の出会いから何から何まで劇的でしたからね。
こんなんもう、自分とレンさまは結ばれる運命としか思えない! とまでは全然フィオナさん、落ち着いた人で自意識高い女子じゃないのでそんな事は思わず別段頭お花畑になっちゃってるわけじゃないですけど。
それでもこんなんもう運命! 運命よ! と思っても当然だろうって一部始終でしたからねえ。メインヒロインとの運命の出会いという章題がつきそうな英雄譚の一遍って感じでしたからねえ。


だが待って欲しい、フィオナ嬢。
多分、大変に盛り上がってしまっているご気分でしょうけれど、どうかお待ちになって欲しい。
その若者、レン・アシュトン君はもう運命の女神さまが既に売約済みなんですよーー!
そもそもこの2巻。フィオナ様救出行以外のターンはほぼ全部、レンとリシアがイチャイチャしてるんだよーー!
ただイチャイチャしてるどころじゃないんですよね。故郷の村を出てリシアの住まうクラウゼルの地で大怪我の治療のために逗留しているうちに、完全に囲われちゃいましたからね。怪我が癒えるまでという話だったのが、怪我が治ってもリシアの家に客人として逗留し続け、二人の仲はどんどんと睦まじくなっていく。リシアパパである領主様を含めて、家人や使用人、この地の騎士を含めてみんな完全にレンを狙い定めて、この若者はリシア様の婿、絶対! という勢いで前のめりで二人のイチャイチャっぷりを温かく、温かくどころかかなり熱量高く見守ってるんですよねえ。
リシアは当然レンに夢中も夢中ですし、レンの方もこれかなりリシアの事好きですよね、大好きですよね? 接し方がもうダダ甘ですもの。誕生日の贈り物をするにも非常に労を傾けて、かなり希少な素材を採ってきてリシアパパ含めて周囲の度肝を抜いてましたもんねえ。あれ。ものが貴重という驚きもあるんでしょうけれど、あの皆々の衝撃というかどよめきみたいなものって、これもう実質プロポーズじゃね? というどよめきも混じっていたような気がします。
てか、周りからして領主である父親が先にプレゼントを渡してしまい、一番盛り上がる最後のプレゼンターをみんなしてレンにやらせようとしている時点で、お膳立て整えまくっているんですよねえ。
何気にフィオナ救出の際のラスボス戦、赤龍との激闘で最後の最後にレンを救うのは、リシアがレンの無事を祈って加護を込めた短剣でしたからねえ。つまり、フィオナがヒロインであるあのシーンであっても、肝心の一番大事な所はリシアが持っててるわけですよ。

フィオナさま、本当に残念ながら始まった時点でもうレンの運命の人はもうもういらっしゃったんですよーー。
ちょっとここから巻き返しはかなり厳しいと思うんだが、リシアの存在を……というかレンとの関係の深さを知った時のフィオナの衝撃を想像すると、なんかもう胸が痛い。あんまりこう、ガンガンと自己主張して割って入るタイプの娘にも見えないし。
正直、ヘタにイグナート侯爵家という家が介在してしまうと、つまりレンくんをうちの娘の婿に、とかうちの騎士に、みたいな事を侯爵様が言い出してしまうと、レンやリシアよりもむしろクラウゼル男爵家が一族郎党まとめて激烈な反発を起こしそうなんですよね。中立派であるクラウゼル男爵家を引き込みたいイグナート侯としてはヘタな真似できないだけに、レンに対してはかなり慎重な対応を心がけるでしょうし。ほんと、フィオナ様かなりチャンスに欠ける立ち位置なんだよなあ。何よりレンがほんと、リシアにかなり気持ち向いちゃってる感じですしねえ。レンくん、大変真面目で誠実で浮つかない子なので、気が多いタイプとは正反対だしなあ。フィオナに対しても今の所親しくなりましたけれど、女性として意識している様子は殆ど見られませんでしたからねえ。
対してリシアに対しては、ようやっと帰ってきたと思ったらあの膝枕ですもん。どないせいっちゅうねんこれw
今回のフィオナにまつわる展開が劇的にも程があるほど見事な英雄譚で、フィオナの立ち位置がこれ以上無いくらいヒロインしていただけに、全く当人たちに責任とかないんですけどね、可哀想。いや可哀想なんて言ってしまうの負け扱いで大変失礼なんですが。
なんですが。これだからそもそも勝負して貰えるのか、と思っちゃったんですよねえ。
二巻終わりましたけれど、1巻での感想から同じくリシアがヒロインとしてあまりにも圧倒的という印象はむしろいや増した感すらありました。

しかし、本来のゲームでの物語的には意味深な黒幕的なポディションであるレンですけれど、今のところ全く裏事情や政治的な側面には触れておらず、魔王教の暗躍にこそ事件を通じて関わっていますけれど、何も知らないと言って良い立ち位置なんですよねえ。そして、あまりゲーム云々は今は意識しないまま、クラウゼルの街にホーム、帰るべき場所という意識を抱くようになりつつ、クラウゼル家の、リシアの騎士として誠実に成長していっているという風情なんですよねえ。
そして、レンの手の届かない所で、しかしレンが活躍した影響による歴史の改変によって本来の歴史では死亡する人、敵役になる人、つまりゲーム原作では端役か敵か既に死亡して存在していない人たちが、レンの思惑とは関係ない所で道を同じくして新たな派閥を形成しつつある、というのは面白いバタフライ効果である。
あと、やっぱりタイトルにあるゲーム知識の方は全然活用してないよね!? 出来ないもんね! 正史と全然違っちゃってるんだから。そもそももう殆どレンくんもゲームではどうだった云々はあんまり意識していないように見えますし。