【貧乏騎士に嫁入りしたはずが!? 1 ~野人令嬢は皇太子妃になっても熊を狩りたい~】  宮前 葵/ののまろ PASH!ブックス

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「熊を狩ろう」って言われて結婚したのに皇帝の隠し子とか、聞いてない!!
暴れん坊令嬢×身分を隠した最強騎士 溺愛成り上がり冒険譚!

侯爵令嬢でありながらワケあって田舎の領地で育ったラルフシーヌは、ずば抜けた運動能力と負けず嫌いな性格で、狩人としても村の子供達の親分としても名を轟かす「野人令嬢」である。

13歳となり、貴族の義務としてしぶしぶ参加した帝宮でのお披露目式でも暴れ周ったことで、騎士・セルミアーネに見初められ、帝都に嫁入りする羽目に。
しかし貧乏騎士だったはずの彼は、実は現皇帝の隠し子で――!?

戸惑いつつも覚悟を決めたラルフシーヌは、規格外の皇太子妃として、帝国の常識を次々と覆していく!


野猿系令嬢だ、これ。あっちよりもよっぽど野生児かもしれないが。
さりとて野人というほど文明は捨ててないと思うよ?w
侯爵家のご令嬢ながら、お父様とお母様が頑張りすぎて子沢山に作りすぎ、高位貴族の常としてマトモに育てるとお金が掛かり過ぎる問題から、帝都ではなく田舎の領地の代官夫婦に預けられて育てられたラルフシーヌ。どうせ地元の有力者の平民に嫁がせようと、令嬢としての教育は与えられなかったものの、育ての親の愛情を目一杯受けて貴族令嬢としてのしがらみもなく伸び伸びと育った彼女はバイタリティの塊みたいなガキ大将として、そして名うての狩人として一目置かれる存在になっていたのでした。
生みの親である侯爵家の両親にも捨て置かれたんじゃないくて、結構マメに地元に帰ってきてその際には目一杯可愛がってくれたみたいで、ラルは二組の両親がいるって感じだったみたいですな。
子供結局何人居るんだ? ラルが末っ子で11人兄弟。これ、側室とか抜きですよ? どんだけ夫婦仲良かったんだか。でもその愛情は子供達にも注がれていて、兄弟仲は貴族家としては望外の程の仲良し家族なんですよね。ラルも子供時代はあんまり兄弟とは面識無く育ったものの、王都に住まうことになって以降は大変可愛がってもらい色々とお世話になる事になります。

さて、そんなこんなで随分な野生児として、地元でも良い意味でも悪い意味でも有名人となり、しかしあんまりにも色々とやらかしていた事もあって地元の平民達からも人気はありつつもアンタッチャブル扱い、嫁に欲しいという奇特な同年代は見当たらず、適齢期に差し掛かりつつあった事もありさてどうしようか、となっていた所に侯爵家の両親の願いもあり、王都で成人のお披露目だけはしたいと地元を出て初の帝都来訪、そして社交界デビューに王宮にて皇帝夫妻との面談と相成ったのでありました。まあ一度だけ顔見せ、というだけのつもりだったんですけどね。
そこで運命の出会いとなるのです。と、言っても一目惚れしたのは抽選でラルにエスコート役があたった新人騎士のセルミアーネ君の方であり、ラルの方は結構気が合うなあとは感じつつも特段異性として意識する、なんて事はなかったのです。
所がセルミアーネことミアくんは、お披露目式の破天荒なラルの振る舞いに完全にハートを撃ち抜かれてしまいまして。うん、彼女の振る舞いはそれまでのミアのどん詰まりに行きかけていた生き方や価値観を一気に打ち崩してくれるものだったんですねえ。そんなんラルとしては知った事ではないのですが、ミアくんは大変熱心に侯爵家に日参してラルを嫁にくださいと年単位で頑張って頼み込んだのでありました。その頃ラルは領地に戻り狩り三昧の日々に戻っていたのですが。もちろん、ミアの求婚はラルにはとんと預かり知らぬことで。数年後、いきなり領地に押しかけてきて、結婚の許しは得ました、嫁になってください!と来たミアに対して、なんじゃそりゃ聞いてないぞ! と、まあミアくん後で散々怒られるはめになります。
とはいえ、元々平民の誰かに嫁がないといけなかった身。結婚したら平民の嫁だろうと今までみたいに自由に伸び伸びと好き勝手に暮らすなんて不可能です。平民だって妻は夫のために貞淑に家のことをやらなければならない、というのは変わらない時代ですからね。むしろ平民のほうがそのへん窮屈な側面もあったかもしれません。
それなら、一介の騎士にすぎないミアでも身分的には変わらないし、貴族令嬢として教育を受けてこなかったラルでも、まあ最低限帝都で暮らすためのあれこれを身につければ大丈夫でしょう。何より、ミアはラルのその自由でありつつ一本芯の通った生き様にこそ惚れ込んだので、多少窮屈な思いはさせるかもしれないけれど、出来る限り今までみたいに自由にしてほしい。帝都の森で熊狩るのもオッケーだよ、自分も一緒に手伝うよ。と最大限ラルを慮ってくれる上に、なんだかんだと気もあって相性も良さそう。これならまあ夫婦になってもいいかなあ、と……。
この手の作品としては珍しい類なんだろうけれど、結婚した時点ではラルの方は別に旦那様に対して親愛はじわじわ芽生え始めていても、恋だの愛だのとは無縁の結婚だったわけである。貴族の令嬢の、というかこの時代の結婚としてはそれが相応と言えばそういうもんだったんでしょうけどね。
それでも、ラルが惜しみなく注いでくれる愛情、さりげない気配りや優しさ、野生化しているラルの乙女心をも擽る夫としての振る舞いに、徐々にラルの方も愛情を育んでいくのです。このあたりは巻末の番外編などで描かれていますねえ。
このままなら、裕福じゃないけれど仲睦まじく帝都の端で穏やかに暮らす一騎士の夫婦として一生を終える……いや、ラルの奔放さからすると冒険者兼任の奥さんとして有名人になっていたかもしれませんが。ってか、事が起こる以前に帝都の森デビューしてハンターとして既に声望を得始めていたのですけれど。
しかしなんの因果か……色々と不幸あって3人居た皇子が次々と亡くなり、残された三男の皇太子も早くに奥さんを亡くし、自身も急な病を得てついには助かる見込みがないまでに重病となってしまうのでした。そこで急遽、市井にいた唯一皇帝の血を引く愛人の息子であるミアが立太子されることになってしまうのである。
聞いてないんですけどーー!? となったのはラルであり、ちなみに実家の侯爵家の人たちも全然知りませんでした。いや、嫁さんにくらいは話しておけよ、旦那様!?
とまあそれにも理由があって、それだけ頑なにミア自身が皇族として名乗りをあげる事を拒否してたんですね。一生涯ただの騎士として兄である皇太子を支える、と決め込んでいたので、ラルにも話していなかったわけです。このあたり、ミアの亡くなった母親の固い意思も絡んでいて、息子に対して固定観念になるほど厳しくお前は配下として皇帝家を支えるのだ。いらん事を考えるな、と仕込んでたらしいんですよね。むしろ、父親である皇帝や兄の皇太子、何なら実はミアの母の親友だったという皇妃様もミアを皇子として迎えたいと度々求めていたのを拒否してたみたいなんですよね。
それが、回り回ってミアとラルの夫婦に大変な苦労を強いるわけになるのですが。
ラルはそもそもまともな貴族令嬢としての教育も受けていない野人育ち。ミアだって騎士として生きると決めていたので、皇太子だの次期皇帝として必要な帝王学なんてさっぱり受けてない。
主人公のラルは大変破天荒で自由な人ではありますけれど、そんな彼女が旧弊とした帝宮のしがらみをバンバン打ち破って風通しをよくしていく、改革していく! みたいな話では実は全然無いんですよね。無いんですよ。
むしろ、文明とは縁のない世界で育った野人の娘が、必要な皇太子妃としての教育を詰め込まれ、百鬼夜行のような宮廷の人付き合いを差配するためのアレコレを学び、帝国の女性たちの頂点にふさわしい立派な次期皇妃になっていくお話なのだ。
同じく、殆どゼロから皇帝になるためのあれこれを詰め込まれて過労死しかけるミアと共に、夫婦二人三脚で頑張っていくお話なんですよねえ。
プロポーズの際にミアがラルに約束した自由、その約束を大いに違えてしまう事になる立太子の件は明確な契約違反であり、ミアもラルに対してこれからの苦労を考えたら、束縛され自由を失い凄まじい責任と重圧に見舞われ続けないといけない人生を歩むことになるのを考えたら、ここで降りて貰っても構わない、離縁しても仕方ないと言ってくれたのを、ラルはまたきっぱりと男前に断るんですよねえ。しっかりと支えちゃるから、一緒に頑張るぞ! ってなもんで。
ここからこの二人は仲睦まじい夫婦である以上に運命共同体であり、同じ困難同じ苦労に支え合って立ち向かう戦友としての側面も得ていくのである。
皇族としての責務や、ある意味人間として当たり前の情すら棚に置かなければならない責任、というものは皇帝陛下や皇妃陛下が度々見せてくれるんですよね。普段は大変愛情深く、皇妃さまからすると自分の血を引いていない、自分の子供がみんな死んでしまってその跡を継ぐ義理の息子とその嫁という立場であるラルとミアを、ほんとの子供みたいに可愛がって慈しんでくれる人なんですよ。一から教育をはじめて右も左もわからないラルを庇護し、後見として守り教え導いてくれるのもこの人でしたからね。そんな彼女や皇帝陛下が垣間見せる皇族としての冷たい顔は、だからこそゾッとするほどの凄みと重みを感じさせ、ラルとミアはそれを引き継がなければならないのだ、という事実を実感させるのである。
いや、実際問題よくラルはこれ耐えられましたね、と感心するくらい朝日が登る前から夜も耽るまで厳しい勉強勉強でしたからね。良くまあ頭おかしくならなかったよなあ。
ところが、このラルさんと来たら……ほんと、バイタリティの塊というか一度やると決めたら絶対に止まらない振り返らない機関車みたいな女性で。普通、こういう境遇に押しやったミアに対して恨み言の一つでもつぶやいてしまいそうなものなんですけれど、一旦自分でこの旦那についていってやろうと決めたんだから、と泣き言は言わないし、後悔する素振りも見せないんですよねえ。
とはいえストレスはたまりまくるので、それを発散するために夜に街に抜け出したり、こっそり狩りに言ったりもするのですけれど、そういうお嫁さんの性格というか性質をよくわかっているミアくん、ちゃんと許可出してくれるんですよね、そういう所ほんと理解のある夫である。理解があるというより、奥さんのことを知り尽くしているこの愛情深さを思うべきか。
というわけで、ストレスを定期的に発散できるようになると、途端そのバイタリティが活性化して貴族世界の中でのあれこれに関しても社交だの皇太子妃としてのお仕事についても、慣れてくると面白いぞこれ、と前向きにのめり込んでいくこのラルさまのメンタルの強さ。
田舎の方でもガキ大将にのし上がっていたように、何気にコミュ力の化け物だったりするし、野生児だからといってガンガンと正面突破するだけじゃない、狩人らしく絡め手も得意だし話術に謀、カリスマ性なんかでスルッと人心掴むのも上手いし。
またその自由奔放さは、これだけ型にはめる教育を受けようとも健在も健在で、立派に皇太子妃としての体裁は整えつつも、裏でこっそり変装して下の身分の人たちの間を泳いであれこれ情報収集して案件をまとめたり、また軍を出さないといけないような巨大熊の発生にも、旦那のミアに堂々とついていって、一緒に熊狩しようという結婚する際の約束を果たしたり、と型に嵌まらない姿も見せてくれるんですねえ。
面白いです、型に嵌まる嵌らない、どちらか一方じゃなくて両方時と場合に合わせてしっかりちゃっかり切り替えてるんですからねえ。
本来正式な皇妃や王妃となるための、そうでなくても高位貴族の令嬢としての教育も受けていないぽっと出の娘が突然王子に見初められて結婚する、なんてシンデレラストーリー。実際になってみると、苦労するのは死ぬほど苦労するのは当人たちなんですよね、というのがほんと身に沁みてわかるお話でもありましたが。
それ以上に、一組の若い夫婦が頑張ってお互いを支え合っていくというお話の味わいが大変濃くて、ただの恋愛モノとかでは味わえないものがありました。
うん、いい夫婦いい夫婦♪