【貧乏騎士に嫁入りしたはずが!? 2 ~野人令嬢は皇妃になっても竜を狩りたい~】  宮前 葵/ののまろ PASH!ブックス

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大神獣だかなんだか知らないけどその竜、私の獲物です!!

帝国を、国民を、そして我が子の未来を守るため──暴れん坊令嬢は最強騎士(夫)を従え、竜との決戦へ!!

田舎の“野人令嬢”と“貧乏騎士”から一転帝国の皇太子妃と皇太子となったラルフシーヌとセルミアーネ。
突然の皇族入りだけに敵は多く、儀式に外交に政治にと奮闘する中で貴族達と火花を散らせることも。

そんな中、隣国の侵攻を受けて出征することになったセルミアーネだが、実はその裏には、二人を陥れたい何者かの陰謀が渦巻いていて──!?

帝宮の常識を次々と覆す規格外皇太子妃ラルフシーヌの戦いが伝説の神獣「竜」を呼び寄せる!!


面白かった。
読後にじんわりと噛みしめるようにそう思える作品は良きものですよ。

マトモに貴族令嬢としての教育も受けないまま、まあ平の騎士の嫁だったら大丈夫だよね、と太平楽に構えてたら、実は旦那が皇帝の庶子であった。おまけに、皇位継承者が戦死や病に倒れるなどしていなくなってしまい、急遽皇太子として立太子される事になり、主人公ラルもまた皇太子妃となる事になりさあ大変。
いや、マジで大変。詰め込み教育で元気いっぱいの野人令嬢も息も絶え絶え、ストレスフル。幸い皇帝夫妻や実家の侯爵家は全面的な味方で、周囲の使用人たちも親密に助けてくれるけど、ほんと環境が変わる、無知に教養を詰め込んでいくって大変、死ぬほど大変。てか死ぬーー!!
という阿鼻叫喚の地獄絵図を夫婦で支え合って乗り越え、ボスザル気質が向いてたのか国内の貴族女性を取りまとめる皇妃、その次期後継者である皇太子妃という社交界でのポディションも、段々と慣れてきて性に合ってきて、気合と根性と地アタマの良さと無尽蔵の体力で頑張るぞー、てな感じで何とかやってけるようになるまでが1巻のお話だとすれば。
まさにこの巻は、皇太子妃として、そして皇妃として国の母となり夫のミアの私生活のパートナーとしてだけじゃない、政治上のパートナーとしても奮迅と頑張っていくお話でした。
皇太子妃としての役割はまあ大雑把に大きく分けて2つあり、一つは政治上のパートナーとしての役割。以外のこの国の皇妃って政治上の権力が大きくて、単なる座っているだけでいいお飾りでは済まない結構なお仕事なんですよね。お茶会などで代表される社交についても、どんな意味がありどんな役割が見込まれていて、そこで皇妃や皇太子妃などんな立ち回りをしないといけないのか。相続争いの仲裁や茶会を通じて情報を集めてそれを分析したり、また女性サイドから皇族の意向を浸透させたり、皇帝陛下や皇太子に意見を述べたり、と具体的な事例を語りつつ社交という仕事に関してかなり詳しく語られてるんですよね。
これは重要なお仕事だわ。男の世界では知り得ない、女性側でしか伝わってない情報なんかもありますし、これ社交界と距離置くと全然貴族界隈の情報が入ってこなくなる、というやつじゃありませんかね。こういう社会体制だと女性のパートナーの重要性というのがよくわかるというものです。
逆に、いや逆なのかな。女性が貴族家の当主となるパターン。女侯爵とかああいうのですよ、ああいうのもこういう体制だと難しいというのがなんとなくわかる。男の世界でバリバリやれるのはその女性の能力や周囲のサポート体制でなんぼでもいけると思うんだけど、女性側のパートナーがいないと社交での情報収集や女性サイドからの政治的なアプローチ、攻防……攻撃や防御が全然出来なくなってしまうという事でもあるから、事実上貴族家としては半身が機能停止状態で動かなくてはならないわけですから、そりゃまともに機能するの難しいわ。
ただこれ、女性側にも大きな権限があるという事でもあり、夫婦の意思疎通がちゃんとしていないと半身がアタマである当主の意向を無視して動き出してしまう危険性もあるわけですね。
もちろん、大概の家では当主の統制は効いているはずなんだけれど、そこを疎かにして国家の中枢のお仕事にかまけてしまい、奥方に家の事を丸投げしてしまった結果、えらいことになってしまったのがマルロールド公爵家だったんですねえ。
いやこれに関しては公爵がほんとに全く家のことや領地のことに関して丸投げも丸投げ、実際何をやっているかもまったく関知していなかったのが悪いので自業自得なんですけれど。公爵当人は皇帝陛下の信任も厚く、本人も忠誠心の塊であり宮廷政治家としても極めて有能で昔からリリーフ登板的に登極した陛下を支えてきた人だったらしいので、もったいないこと極まりないのですけれど。
奥方がぜんぶぶち壊してしまったんだよなあ。
夫婦仲は良かったみたい、良かったのかな? 公爵当人は奥さんのことだいぶ甘やかしていたみたいで、奥方も家をもり立てようというのは当人の自意識の高さやプライド云々を抜きにしても、夫のためという向きもあったでしょうし。いや、借金抱えまくってそれを報告できてない時点でアレなんだが。ともかく、夫婦仲に反してお互いの意思の疎通が疎かだったんですよねえ。
それに比べると、ラルとミアの夫婦というのはいきなり庶民レベルの騎士から、皇太子夫婦に成り上がらさせられてほんとに苦労しながらも、お互い支え合って踏ん張って頑張ってきただけあって、自分勝手しないし、意向を押し付けるというのもしない。ほんとお互いを尊重しているのが伝わってくる夫婦なんですよね。
だから、子供が出来ない時期というのは彼らにとって一番辛い時期だったと思う。皇妃さま含めて実家の家族たちも全面的に味方なんだけれど、子供に関しては皇族の責任として絶対に産まなければならないもの、としてプレッシャーを掛けてくるの、これ立場上どうしようもないんですよねえ。
むしろ善意として、子供が出来ないならミアに妾をとらせて子供だけ産ませればいいのよ、というのをラルの重圧を心配して善意で言ってきてくれるわけです。
でもラルもミアも、それは絶対嫌なんですよね。一目惚れして人生変わってしまったミアは元より、今となってはラルもこんなイイ旦那様はいないよ、としんどい時ほど支えてくれて優しく守り、何よりラルの自由を尊重し続けてくれたミアのこと、べた惚れになってましたからね。
ようやく子供が産まれたときの、あの喜びようはただ愛する人の子が産まれたというだけじゃない、重圧や責任感からの解放が見え隠れして、色々とぐっとくるものがありました。
どんな時でもへこたれなかったラルが、一番疲弊してメンタルもグズグズになってたのがこの時期でしたからねえ。
にしても、出産のときの痛みの表現が木から落ちて背中を岩にぶつけたときの5倍痛いとか、大猪の突撃をまともに食らって崖から一緒に落ちて大猪の巨体に潰されたときの10倍くらい痛いとか、普通そんなん死んどるわ!! ってなって笑ってしまったんですがw むしろ、なんで生きてるんだこの野人令嬢w

貴族令嬢として、皇族の妃として破天荒で立場もぶん投げるような枠組みを破壊するような乱行をしているようで、上でも触れているようにラルフシーヌは決して無為に既存の枠組みを破壊して勝手に振る舞うような真似はしていません。むしろ、なんでこういう立場は窮屈で色々と言動が制限されるのか、様々な決め事に縛られているのか、というのをそういうルールだからと考えずに受け入れるのではなくて、ちゃんとそれぞれ理由を鑑みた上でそういうルールが必要だからこそ存在するのだと受け入れて、精一杯こなしていってるんですよね。
道理を示されてそれが正しいことだと納得するなら、きっぱりとそれを受け入れて振る舞いを変えてもいる。皇宮外へのお忍びも、一度外の人にお叱りを受けた後は生涯やらなかった、なんて語られてますしね。
皇族としての仕事、責任、重圧、そういったものから逃げず放り出さず、全部背負っていった上で、それでも潰れずに枠組みを無闇矢鱈に壊さずに、自由を見失わずに伸び伸びと生涯振る舞い続けたラルフシーヌ。実に格好良い女性でした。
竜討伐でミアとともに最前線に立って戦ったシーンも格好良かったんですけどね。皇族の地位に上がりながらも、元々侯爵家の娘という地位にありながらも、田舎の領地で育ち、庶民の間で大きくなり、平騎士の夫婦として新婚を過ごし、狩人として故郷や帝都の森を駆け回って身分関係なく人を引き付け、賑わいの中心にいた事を忘れず、常に庶民の視点を忘れずに地位や身分に囚われない女性でありつづけたこと。その天真爛漫さや元気いっぱいの姿を失わなかったこと。すべてが格好良かった。
そういう奥さんの、なにより自由を奪うまいと、皇太子になってしまった時点でその大半を奪ってしまった事を自戒しながらも、出来る範囲で愛する人のもっとも輝かしい部分を守り続け、尊び続けた夫セルミアーネとの夫婦の関係も、なんかもう素晴らしかったです。愛がすべてを解決するんじゃない、愛を失わないために双方が努力をし続けたんですよねえ。ふたりとも苦労はしたけど、愛する事に苦はなかったんだろうなあ。
だから、老境に差し掛かったもののまだまだ元気なうちに早々に息子に地位を譲って、ラルが生まれ育った故郷にかつて結婚したときの約束を守って、ラルを連れて行くエピローグは胸を突くものがありました。ほんとねー、この故郷の街での話が良かったんですよねえ。皇妃さまの帰還じゃなくて、あくまで大昔、この街でガキ大将やってたラルフシーヌの里帰り、という感じで同世代以上の男女が飛び出してきて押し寄せてきて、そのままお祭りになってしまうの。誰も、ラルが皇族になったなんて知らないのね。ミアと結婚した事は知ってるから、ミアもラルの旦那として一緒に囲まれるんだけど、誰もそれが先の皇帝夫婦だとは知らないの。でも、大歓迎されてまるで彼らの人生そのものを祝福してくれるように、帰郷を喜んでくれるんですよね。
ラルがもっとも報われた瞬間で、彼らの人生そのものが寿がれた瞬間で、ほんと彼女を約束守って連れてってあげたミアが良い旦那さんで、良い夫婦のお話だったなあ、と……うん、感じ入る事が出来ました。
恋人関係すっ飛ばしてまず夫婦からはじまるような関係でしたけれど、とても素敵なお話でした。良かったなあ、うん。