【魔女と傭兵 1】  超法規的かえる/ 叶世べんち GCN文庫

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魔女――。
魔術や魔獣が失われた大陸で、唯一超常の力を振るう魔女は人々から恐怖の象徴として恐れられていた。
傭兵のジグは国が立ち上げた魔女討伐隊に参戦し、部隊が全滅する中ただ一人生き残り、魔女を追い詰めることに成功する。
しかし、討伐隊に同行した報奨金を支払うべき依頼主が死んだ今、もはや命をとる意味がないと、その刃をおろすジグ。
道理に合わない行動に戸惑う魔女――シアーシャ。だが、その不思議な感覚に、自分の思いを傭兵に吐露し願った。

「私を、誰にも追われない場所まで連れて行ってください」

ジグは、高い依頼料を条件にその吐き出された願いを承諾しつつも、そんな場所はこの大陸にはないと非情な現実を伝える。
かくして2人はまだ誰も知らない未知なる大陸へ向かうことになった。
そこに魔術も魔獣も溢れる世界が広がっていることも知らずに……。
web小説発、圧倒的支持を受ける本格ファンタジー待望の書籍化!!


これは面白いぞッとオススメできるネット小説をあげよ、という話題になると毎回と言って良いくらい名前があがっていたのがこの【魔女と傭兵】という作品でした。
昨今の上滑りして全然アタマに残らないタイトルに比べてもシンプルなタイトルが印象的というのもありましたしね。
いやー、これだけ話題になってるんだからいつか書籍化するよね。その前にWEB版読んじゃうのはちょっともったいないぞ、と思って連載の方はずっと読んでいなかったのですが、これがなかなか書籍で出ない。出ない。なかなか出ない。あれ〜? 出ないぞ? なんでー? もう読んじゃう? 読んじゃう? と迷ってた矢先にとうとうこうして書籍版が出版されたのでした。
GCN文庫から、というのは正直驚きましたけど。
まあそういうわけですから、本作については極力情報を入れないようにしていたんですよね。魔女と傭兵がバディ組んで冒険するぞ、というくらいしか認識していなかった。いや、バディ組んでるというのも曖昧な認識でしたね。そもそも相棒なのか一緒に旅しているのかすら知らなかったし。
というわけで、情報無いなりに想像は巡らしていたんですよ。どちらかというと、派手なゲーム的な世界観ではなくて、渋めのお話みたいなイメージもあったので、主役となる魔女と傭兵の二人もこうダーク路線とは言わないまでも、クールなキャラクターでビジネスライクな関係なんだろうなあ、なんて勝手に思っていたわけですよ。

魔女さん、シアーシャさん……シアーシャちゃん、と言いたくなるくらい可愛い性格の子なんですけど! いや、登場時は周りが敵ばかりなせいか、淡々として敵には非情で感情も薄い感じで実に魔女って感じだったのですけれど、元の大陸から脱出して新天地に立ち、自分が人類の敵である魔女であるという立ち位置が失せてしまったあとは、見た目通りの少女らしいもうこれキャピキャピって言っていいんじゃないかってくらいイキイキした姿を見せるようになったんですよね。
好奇心に正直で目を輝かせて見たこと無いものにアタックしていく、田舎からのお登りさんみたいな仕草してたり、ジグが不当な扱いしていると露骨に不機嫌になってあなた絶対唇尖らせて不満そうな顔してるだろ、って感じで喜怒哀楽の感情表現が本当に豊かになっちゃってるんですよね。もう、若い! 意識も気持ちもハツラツとしていて、若い! あなた、年齢200歳オーバーとか言ってませんでした!?
ただ、彼女の天真爛漫さは作品そのものを明るくしてくれるので、とてもいいです、素敵です。
それに、何だかんだと沈黙の魔女とうたわれるほどの勇名を馳せただけあって戦闘能力は歴戦の一言ですし、世間知らずではあるんだけれど世慣れはしていて基本的な所はとてもしっかりしているので、目を離せない危なっかしさなどとは縁がなくて、非常に安定感があって頼もしい人物でもあるんですよね。
傭兵ジグの方もクレバーでしたたかで、契約に対して誠実でありなんだかんだと面倒見も良く、感情的になる所を殆どみせない我慢強さ、落ち着きの深さでその判断力の的確さは常に信頼できますし、二人して下手なことをしない揺るぎなさがあって、ほんと見てて安心できるんですよね。
ってか、ジグこいつこれで20代前半らしいんだよなあ。嘘だろ? お前、絶対アラフォーだろ? 精神年齢めっちゃ枯れてますし、大人びているを通り越して普通にオッサンにしか思えないメンタルですし。見た目の方も完全におっさんなんですよね。30代にも見えんわ!
いや、まじで君、見た目子供からオッサンになる間の時期いつごろだったんだ? 見た目、子供からいきなりおっさんになったのか!? ミッシングリンクはここに実在したんだよ!

本来、ジグという傭兵はまさにプロ中のプロという感じで、情を一切交えずにビジネスライクに徹している。徹しているが故に、魔女の討伐隊に加わってシアーシャを実際討ち果たす直前で金にならなくなったからと辞めちゃうくらいだったんですよね。
魔女の依頼に応えたのも、ビジネスライク故。だから、シアーシャを護衛しているのはあくまで仕事、のはずなんですけどね。途中から明らかにこれ、単なる護衛仕事の範疇超えてるんですよねえ。
元の大陸では人類の敵として社会に混じれずに生きてきたが故に、長く生きていても人の社会というものには疎くて、世間知らずであるシアーシャのためにあれこれと教え手伝い、ちょっと甲斐甲斐しいんじゃない?と思うくらい色々と面倒を見ているあたり、とても依頼された護衛仕事の範疇に収まってないと思うんですよねえ、あれ。
もし依頼の内容が相棒になってください、というのなら納得なんですけどね。新天地でこれからどうするか、というシアーシャの将来設計にも色々と意見を述べてるし、シアーシャが冒険者になりたいと希望を口にしたらそれを叶えるために、シアーシャについて、じゃなくて彼女を連れて色々と話しを聞いてまわったり、なんか保護者じゃないそれ?と思うような振る舞いまでしてましたからねえ。
シアーシャからの依頼については、依頼料とかその期間とかもちゃんと決めてるのかよくわからんですし、シアーシャから給料貰っているようにも見えませんし。さて、一体いつまで一緒にいるつもりなのか。シアーシャはもう、ずっと一緒に居てもらいたいと思っているようですけれど。

面白い点としては、ジグとシアーシャが居た大陸には魔法を使うのはごく少数のみ存在する魔女だけで、魔獣モンスターと呼ばれる怪物も存在していない。そりゃあ、魔女が厄災として恐れられるわ。ジグを残して魔女討伐隊がほぼ一方的に壊滅してしまったように、魔女とそれ以外の人間には超えがたい壁が存在していたわけだ。そんな中でほぼ一人でシアーシャを追い詰めたジグってどんだけバケモンだよ、と思うところだけど。

ところが、ジグとシアーシャが潜り込んだ、戻ってきた者が一人もいないという新大陸行きの船団。強大なモンスターによって全滅してしまったわけですが、なんとか襲撃をやり過ごして大陸の奥地に向かった二人がたどり着いた人間が住む領域は……魔力を当たり前に使う人間たちと見たこともない異形のモンスターが蔓延る、しかし元の大陸に勝るとも劣らない発展した文明圏だったんですね。
ほぼ魔法の存在しない剣の大地から、魔法もモンスターも跋扈しているファンタジー世界に降り立った、みたいな感じでしょうか。元の大陸では存在しなかった魔獣退治をメインになんでも屋みたいな立ち位置にある冒険者という職業。ここでは魔法を使うだけならそこまで目立たない事もあって、シアーシャも普通に街を歩き、人の中で生きることが出来る。そこで、シアーシャは冒険者となって新しい人生を歩み始めることにするんですね。もちろん、この新大陸でも魔女シアーシャの突出した力は健在。なので、脅威の新人爆誕である。
ちょっとわからなかったのが、ジグが冒険者登録をせずにあくまでシアーシャの護衛であり続けてること。冒険者じゃないのに、依頼のお仕事に同行するの色々と面倒なことになっててほんと面倒くさいややこしい事になる事も多いのに、なんでかジグは自分を傭兵と定義して冒険者にはなろうとしないんですよね。いや、資格とってりゃいいのに。なんだろう、こだわり? こだわりなんだろうか。
便利だし冒険者優待みたいな便宜もあるみたいなんですけどねえ。
ジグというコブがついているので、シアーシャも他のパーティーやクランなどに参加できないですし。いや、シアーシャも別に他のパーティーに加わろうとか別に思ってもいないのですけれど。
とはいえ、アランくん達みたいな理解者となってくれている実力派のパーティーなんかもいますし、誤解からの殺し合いに発展しながら、縁が出来たイサナのようにフリーの凄腕なんかとも知り合いになったり、とプロの傭兵は不用意な争いや諍いは起こさず案外人脈広げるのうまいんですよね。魔女の方も別に人見知りではないので、慣れてくるとこっちはこっちで勝手に知り合いを増やしていますし、これは独自にクランみたいなのを立ち上げていく流れになるんだろうか。いやでも、タイトル的にはあくまで魔女と傭兵、二人の玄人が新天地で新人バディとなって繰り広げる渋い珍道中みたいなのがメインになるんですかね? いずれにしても、非常に読み応えのある展開に魅力的な主人公コンビによる物語の牽引力に引きずり回される深焙煎の面白さでありました。
うんうん、こういうの読みたかったという期待に十全応えてくれる作品でしたねー。