【メイデーア転生物語 6.片想いから始まる物語】  友麻碧/雨壱 絵穹 富士見L文庫

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世界樹に抱かれて、マキアは〈紅の魔女〉の追憶の旅路へ向かう!

魔法学校を揺るがした、帝国の襲撃。垣間見た三大魔術師の過去と、転生の秘密。そして苦楽をともにした学友たちとの別れ――。
大きな試練を乗り越えたマキアは、今は〈救世主の守護者〉として、トールたちとフレジール皇国へ向かう旅路にあった。その途中、前世の記憶を呼び覚ますため、世界樹を擁するヴァベル教国に立ち寄る。世界の始まりからあるという大樹にマキアが触れたとき、追憶の旅が始まるのだった――。
これは〈世界で一番悪い魔女〉になる、とある魔女の物語。いつか、誰かの、片想いが紡いだ物語。
これは……なかなか衝撃的な内容で。
そうかー、カノンこっちでは堪えきれんかったのか。
旧作WEB版は読了済み。なのでそれだけ衝撃を受けたのかもしれません。旧作とはもうストーリー展開も違うしキャラクターの立ち位置もかなり違っている部分もあるので、もう別物である、と分かってはいたつもりだったんですけどね。分かってはいたものの、なんていうんだろう、基本路線というか向かう方向は同じものになるんだろうなあ、と思っていたので、ここまで大きく舵を切ってくるとは思わなかった事がインパクトになってるんだろうなあ、これ。
でもそうか。このメイデーア転生物語ってあくまでマキアが主人公という点に焦点を絞った物語って事なんでしょうね。旧作ってメイデーアという世界そのものの成り立ちから行く末を描く物語だったような気がします。だから、世界の在り方を担う魔王たちみんなが主人公の群像劇めいた所がありました。マキアは主人公ではありましたけれど、あくまで主人公の一人でありトールと二人で主人公格みたいな感じだったんですよね。
でも、本作では明確にマキアが主体になっている。カノンにその名前を与えたのが、藤姫シャトマではなく紅の魔女マキリエであった事がその大きな証左となるだろう。
本作ではシャトマとカノンの関係ってどうなってるんだろう。彼らの入り組んだ父娘関係は大いに惹かれるものだったのですけれど。
今回はエスカに導かれてマキアがヴァベル教国、つまり世界樹にまつわる秘密を。すなわちこのメイデーアという世界そのものの根幹にまつわる秘密と、そこに深く関わる10人の大魔術師たちについて知り、マキアの前世ともなる紅の魔女マキリエの記憶を辿っていく話になる。
大魔術師クラスの生まれ変わりであるマキアとトールはいずれその記憶を取り戻さなくてはならない。ただマキアと比べてもトールの方はさっぱりというくらい全然前世にまつわる記憶を取り戻していないんですよね。それどころか、彼自身は黒の魔王の記憶を取り戻すことに不安すらも抱いている。その理由というのが、かつての記憶を取り戻すことでマキアと自分との間の気持ちが揺らいでしまうのではないか、という危惧だったんですよね。
何しろ、伝承によれば紅の魔女と黒の魔王は不倶戴天の敵同士みたいな敵対エピソードが山盛り。その上、紅の魔女も黒の魔王もそれぞれに子孫を残している。マキアの実家のオディリール家と黒の魔王の魔術を受け継ぐトワイライト一族ですね。つまり、紅の魔女も黒の魔王もそれぞれに別に伴侶が居て子供を残していた、という事なんですから、記憶を取り戻すという事は必然マキアじゃない、そしてトールではない伴侶の記憶まで取り戻してしまう、という事なんだから、今マキアの事一途に愛しているトールとしては、不安に思うのもまあ仕方ないところではあったんですよね。
幸いにして、その不安というのは取り越し苦労であったのですけれど、別の一面では的中も的中。まさに危惧していた通り、というかそれ以上だったんだよなあ。
いや、黒の魔王トルクはかつてそれを嫌というほど目の当たりにして、痛切にその届かない思いを抱えながら亡くなっているだけに、その想いがトールに宿っていて彼に焦燥を抱かせていたんじゃないか、とも想起させる。彼があれだけマキアに一途なのも、過去の記憶が全然戻らないのも、黒の魔王の痛切なる思い故、と思えば納得できるんですよねえ。
これもまた、片思いの物語か。

そしてカノンである。元より途方もない感情を抱え込みながらそれを冷徹な仮面の奥に押し込める事で与えられた役割を果たし続け、旧作では最後まで使命を果たし貫いたカノンでしたけれど……本作ではそのあたり、完全に失敗しとるやんけ! 
そうなんだよなあ、本作のマキアって。マキリエもだけれど、人当たりが柔らかいんですよ。旧作のマキアよりも攻撃性が薄くって受容度は包容力が思いの外高いんだ。変に意地張りすぎない。それ故に、人恋しさや寂しがり屋な部分がより強いとも言えるんだけれど。だからこそ、トルクの致命的なほどに遅れてしまった求愛をそのまま受け入れたし、カノンについてもあれほど愛情を注いでしまった。
カノン、このときばかりは耐えられなかったんだな。我慢の限界を突破してしまったんだなあ。冷徹に徹しきれず、情を切り捨てられなかった。その愛情を振り切れなかった。
いやお前、わりと最初から自重していなかった所も多々見受けられたんですけどね! マキアが自分を子供としてしか見ていないからって、本音ダダ漏れにしちゃってたでしょ!
結局、彼の片思いは秘めたるまま、押し殺したまま、に出来なかった。彼が果たさなければならない役割を、やらねばならない事を、その想いが縛り付け、動けないままにしてしまった。そりゃあ、そんな行為強いる方が可哀想だよ。なんで自分がそんなことしなきゃならないんだ、ってずっとずっと抱えてきた想いが彼の体を凍りつかせても、誰も非難できないだろう。彼を非難できるのはカノン自身だけだ。
だからこそ、マキリエは自分から動いてしまったんだろうけれど。あんなのを見せられたら、マキリエなら躊躇も出来ないよねえ。これも、片思いの物語だ。カノンの想いから、この物語は始まったと言って良い。

そしてマキア、マキリエである。これ、これホントにどうするんだろう。
なんて言うべきか、マキリエって恋する少女をもうとっくに通り過ぎてしまったんですよね、これ。黒の魔王を愛していても、愛する男性が居ても、子供が出来れば自らの命を賭けても、捧げても守り大切にしたいと思ってしまうのが母のそれとしたら。
助けて、と乞い願う子を前にして、救われぬ我が子を前にして、母たるその人の最優先事項はどうなるかなんて自明の理じゃないか。
マキリエの記憶が蘇ったとき、マキアの意識もまた恋する少女で居られるのか。
トール、トール、君これはとてつもない覚悟を必要とするぞ。それこそ、マキアを置いて救世主の守護騎士にさせられた時以上の、必死なマキアの背中だけを見続け追い続け支え続けるような覚悟が。
マキアの悔悟は、自身にトールを振り返ることを許さないかもしれない。もう彼女は自分を顧みてくれないかもしれない。それでもなお、彼は一途で居られるのか。でも、それこそが報われなくても愛する事が、黒の魔王トルクの誓いなんだよなあ。
辛いのう。辛いのう。

なんかもう、緑の巫女さまは、ペリセリス様は普通にユーリと幸せになってくださいね。癒やし枠になって。