【魔王と勇者の戦いの裏で 3 ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~】  涼樹悠樹/山椒魚 オーバーラップ文庫

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勇者のいる戦場へ――「知略」を以て防衛戦を掌握する。

転生したゲーム世界で、魔王軍襲撃によるデッドエンドを免れるため奔走するヴェルナー。
勇者マゼルが旅立った王都で、内政の処理を続けていたヴェルナーだったが、大神殿で第二王女ラウラへの魔王軍襲撃を受け出動することに。
大神殿へ向かう途中、マゼルの家族に危機が迫っているとの情報を得たヴェルナーは、いち早く現場に駆け付けマゼルの妹・リリーを魔物から救いだす!
一方、襲撃を受ける大神殿では、マゼルの獅子奮迅の活躍により魔王軍が動きを封じられていて――!?
ゲーム世界とは違う展開に物語が動き始める!!
伝説の裏側で奮闘するモブキャラによる本格戦記ファンタジー、第三幕。

やーーー、面白い! マジで面白いなあ、これ。ファンタジー戦記物の特に軍事的な側面が強いものの中では特筆に値する面白さである。
いやー、これ主人公のヴェルナーが便利すぎるでしょ。前回のセイファート将軍に加えて、今回の聖都フィノイ攻囲戦の司令官となったグリュンディング公爵にも気に入られてしまったわけですが。この人、王妃の父親でラウラ姫の祖父に当たる人だから思いっきり外戚なんですよね。
そりゃ気に入られますよ。これだけ有能で見識も広く深くて、高くは国家戦略から国際政治、王族にまつわる政治力学にも理解があり、軍事作戦の立案力、一勢を率いての前線司令官としても勇気胆力視点の高さは際立っていて、後方に回しても支援体制をシステムから構築できる能力があり、兵站管理にも精通し、軍政全般にも手が届き、官僚としても実務能力に優れ、文官としても事務作業をただ熟すだけじゃなくて全体的な効率化にまで行ってるし、得られた情報からの分析力も非常に高い。
ぶっちゃけなんでも出来るし、何やらせても期待以上にやってくれる。それどころか、言われた事だけじゃなくて言われなくてもあれこれやってくれるし、他が気づかなかった事でも指摘して対策を提示してくれるし、魔王軍が仕掛けてくる謀略に対してのアンテナも高い、まさに痒い所まで手が届く、だ。
恐るべきはこれワンマンじゃないんですよね。システムそのものを構築するから、彼がいなくなってもあともちゃんと稼働するようになってるんだよなあ。
独断専行もするんだけれど、自分勝手や独善ではなくて、上役の意図もきちんと察して動いてくれる事も多いから、ほんと助かるんですよ。その上でヴェルナー自身には政治的な野心や出世欲みたいなものは殆ど見受けられない。
こんなん、絶対使い倒しますよ。上は上で下の連中の勝手な動きや思惑には振り回されて、これをどう抑えて思う通りに動かすか、という事に大変苦労するものですから、ヴェルナーみたいに言わずとも実情を察してくれて便利に使われてくれる人材なんて、まさしく宝物なんだよなあ。
こんなん、どんな手段使っても出世させて権限持たせようとしますがな。
ちなみに彼、功績を独り占めしようとせずに周囲に分配する事は惜しみませんし、同輩や下のものに対しても気配り欠かさずにフォローや支援、手助け諸々こちらも惜しまないので、直接関わった人達の大半は彼に対して好意的になる傾向が強いです。特に、同じ戦場で戦った、近くで戦った人たちなんかは特に好意的なんですよね。だから、わりと上役同輩直属の部下だけじゃない兵にも人気がある一方で、直接関わらない人達にはヴェルナーが具体的に何やってるかわからないのに何でか特別扱いされているように見えてしまうんでしょうね。今回の戦いでは特に公爵が彼を引き立てるために、あと実際問題としてヘイト集まるよなあ、という立ち位置に意図的に振っているだけに、かなりネガティブな感情がヴェルナーに向けられはじめているのは、少々危惧するところであります。
ヴェルナーってそのあたり、当事者意識が薄いんですよね。皇太子や軍上層部に目をかけられて若手の出世頭になりつつある、という自覚があんまりなさそうなんですよ。
国内外の政治力学について理解はあるにも関わらず、自分がその焦点の一つになりつつあるという意識がないから、それに対する備え、政治的防衛措置にどうにも無頓着に見えるのだ。
今回だって、勇者マゼルの家族に差し向けられた刺客の存在を察知したとき、軍規違反覚悟で戦線離脱した際も下手をすれば残してきた自分の軍勢を恣意的に使い潰される可能性もあったわけですけれど、それを防ぐための対策、誰か偉い人に口添えしてもらうとかフォローしてもらうみたいな事はしていない、というか全然その必要性考えてなかったみたいですしね。
幸い、ヘルミーナの所のフュルスト伯が先の戦いの借りを返すという形でフォローしてくれたので助かりましたけど、事前にお願いしていたわけじゃないから自分がどれほどヘイト集めていたかも知らなかったし、ちょっと危うかったんですよね。
これ野心が全然ないのと、下手にゲーム知識でラウラとマゼルがくっつくという認識があるから、ラウラの居るフィノイの救援に、下心満載の若手貴族が集まっているという件に、公爵との非公式会談で示唆されるまで気がついていなくて、さらに自分がその候補筆頭と思われて妬心からの悪意を向けられつつあるという件に関しては一切自覚していないっぽいからなあ。
親友のマゼルに関しては、平民である彼に向けられる悪意なんかには敏感だし、対策も常に考えているくせにねえ。また、文明の遅れた村の価値観によってマゼルの家族たちに向けられた醜悪な感情についても、すぐに察して守っているんだから、そういう感情的な悪意、身分差や貴族のプライドからくる悪意なんかに対して、察しが悪いとか鈍感というのは絶対にないはずなんだけど。
これが自分に対して、となるとほんとに無頓着になっているのは、今後導火線に火がついた爆弾になってきそう。ヘルミーナあたりは、このヴェルナーを取り巻く空気の悪化について感じているようでしたし。

ともあれ、今回の戦争シーンも大変おもしろかった。1巻のスタンピード。2巻の対アンデットの軍勢に続いて、今回は爬虫類系の軍勢と軍としてのスタイルが全部違うんですよね。
元々ゲームの原作はRPGタイプのものらしいから、ゲーム原作では軍対軍の戦争みたいなものは起こっていないか、具体的には描写されていないらしいのだけれど、たとえそういう世界観であろうと現実の世界となれば、こうして勇者以外のモブ同士も世界の命運をかけて火花散らし血と泥に塗れて必死に戦う戦争が起こっているのだ、というのが実感として伝わってくる展開である。
まあ、そんな純粋な気持ちで戦っているんじゃなくて、人間の方でも今回は政治的な思惑が複雑に絡んだり、シンプルな野心がそのままむき出しになっていたり、と世界の命運そっちのけの部分も多々あるのですけれど、そんな生臭さもまたイイんですよね。
今回は魔王軍側の指揮官であり魔王軍の大幹部の一人でもある爬虫人のベリウレスが完全に一騎当千の無双ユニットで、これが出てくると人間の騎士兵士はどうやっても太刀打ちできず、数で挑んでも蹴散らされ、とほんとにどうしようもない存在として大暴れして、初戦は王国軍側が散々に蹴散らされてしまうのですけれど。
そのユニットがいる戦場ではそのユニットは不敗にして無敵、というたった一人の無双キャラが居ても、大規模な軍勢同士がぶち当たる合戦場では無意味、とは言わないけれど、その無敵ユニットを遊兵化させてしまって戦力として無価値にしてしまうやり方はなんぼでもあるんだよ、というのを地で見せてくれる展開は、これはこれで戦記物としては熱いんですよねえ。
あとはそれをどうやって孤立化させた上で、唯一対抗できるユニット。つまりマゼルたち勇者パーティーにぶち上げるか。ここの段取りにヴェルナーの作戦が冴え渡るわけだ。ちなみに、功績の第一等はもちろん、王国軍を壊滅させかけた魔王軍の将ベリウレスを少人数で討ち取ったマゼルたちに行くので、ヴェルナーとしても万々歳という流れw
ヴェルナーは意図していないんだろうけれど、勇者しか倒せなかった魔王軍幹部。そんな勇者の動きを封じるべく家族を人質に取ろうとした魔王軍の策謀を事前に潰したという意味合いで、ヴェルナーの独断専行による戦線離脱も、勇者の価値が高まれば高まるほど相殺されるんですよねえ。こういう政治的な立ち回りをヴェルナーももっと意図的に狡猾に出来るようになればいいんでしょうけれど。

さて、さらに今回はマゼルの相手としてライラ姫が。そして、ヴェルナーが救出に向かった先でマゼルの妹であるリリーが、となかなか本作では出番のなかったヒロイン役がやっとこ登場。特にリリーはWEB版よりも出番が増えているみたいなので、このままメインヒロインになってくれればいいんだろうけど、王都で暮らすようになったはずだしヴェルナーの家が面倒見る予定なので出会う機会はあるはずなんだけれど、今後さらにヴェルナー使い倒されて忙しくなる予想がつくだけに、果たしてリリーと絡む余裕あるんだろうか、とちと心配になってしまう。今の所、リリーって地方の村落にある宿の娘でしかなかったから、ヴェルナーの仕事に噛んでまで出番増やせるだけの何かを持っているかどうかなんですよねえ。果たして、この先女性の存在で華やぐことはあるんだろうか、この作品。ヘルミーナは相変わらず、ヴェルナーとは殆ど絡まないままですし。WEB版に存在しないキャラらしいので本編に絡ませにくいんだろうけれど。