【攻撃力ゼロから始める剣聖譚 1 〜幼馴染の皇女に捨てられ魔法学園に入学したら、魔王と契約することになった〜】 大崎アイル/kodamazon オーバーラップ文庫

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手にするは、最強の剣技と魔王の力

名門剣士の家系ながらも、防御力は桁外れだが攻撃力を持たない“欠陥剣士”の烙印を押されたユージン。
国を去り、大陸の最高学府である魔法学園へ入学することに。
学園でユージンは、神話生物が蠢く封印牢の瘴気に当てられない唯一の逸材として、その最奥へ向かうよう依頼される。
歴戦の大魔法使い達ですら道中で膝を折る牢の最奥に封じられていたのは――かつて大陸を支配していた伝説の魔王・エリーニュス。
彼女のもとまで軽々と辿り着けたユージンは、魔王と契約を交わせるたった一人の存在らしく……!?
魔王の力を掌握した落第剣士が、最強の剣聖へと至る異世界ファンタジー!


【信者ゼロの女神サマと始める異世界攻略】の方が佳境ながら、新シリーズもスタートした大崎アイルさん。両方並行で進めていくつもりなのか、流石だなあ。
ちなみに、信者ゼロの方と世界観一緒……ではないんですよね。世界そのものは違うのか。でも神界経由では繋がっているのかして、メインヒロインである魔王エリーニュスって信者ゼロの最新刊の方でも魔王の一角として登場してるんですよねえ。
……って、ちょっと!? この主人公、ユージンって魔王エリーに食べられちゃってるんじゃないですかこれ!? あっちの主人公のマコトが健気に(なんとなく)純潔を守っているのに、なんて不埒w
でもユージンって、スミレと出会うまでずっと燻っていたというか、惰性で生きてるみたいな感じだったんですよね。父によって鍛え上げられた剣の腕をもって、婚約者である帝国の皇女の剣として生きる事が彼にとっての人生そのものだったのが、防御の才のみを授けられた結果、普通に修得した剣技を使っても一切ダメージを与えられない攻撃力ゼロの身になってしまった結果、人生の目標そのものを失ってしまったわけですね。
ただ、彼の防御(白)の才というのは実際とんでもなくて、見ている限りでは物理だけじゃなくて火などの魔法などでも全然ダメージ与えられないし、結界術や回復術なんかも人知を超えたレベルなんですよね。
女神から才を与えられる儀式では、士官学校首席の圧倒的実力を示していた人物が特殊すぎる偏りの才を与えられてしまった事で随分とけなされてしまい、欠陥剣士なんて言われて同じ生徒たちからはバカにされていましたけれど、実際の所彼の所属していた国である帝国でも現場に近い騎士団などでは、結界師や回復術師としては傑出した人物になるんじゃないか、と将来を嘱望すらされていたっぽいんですよね。
しかし、ユージンの父は皇帝陛下の剣術指南役であり、異国からの亡命者でありながら剣の腕だけで成り上がった人物であり、ユージン自身もそんな父を尊敬して半生を剣の道に注いできたわけですから、そう簡単に剣を捨てて違う道には進めなかったんですよね。はたして、欠陥剣士になってしまったという事にばかり彼自身目が行っていて、白の才能についてはユージンは使えるから使っているけれど誇るべき自身の能力とは欠片も意識していなかったみたいなんですよね。
幼馴染に振られた……というよりもこれ、若干ユージンの早合点もあったようにも見えるんですけれど、才を授けられた翌日にとっとと士官学校退学して実家に引きこもっちゃってたあたり、まあショックだったのはわかるんだけれど、わりと衝動的に動いちゃってるよねえ、と。
迷宮都市の学園に放り込まれたのも、引きこもったまま出てこなくなったユージンに対して、環境を変えて立ち直ることを期待した親父さんの親心みたいだし。
それでも、学園でもずっと燻って惰性で目的なく過ごしていたみたいなんですよね。幼い頃からずっと欠かさなかった剣の修業もしなくなり、さりとて白の才を伸ばすために修練するわけでもなく。
そういうフラフラうじうじとした状態なら、魔王エリーに押し倒されてもまあ抵抗もしないだろうなあ。抵抗する拠り所がこのときの彼には何にもなかったわけですから。
でも、困っている人が居たら見過ごさずに手を差し伸べるし、惰性で生きてはいても怠惰ではないので、頼まれたらあれこれ仕事手伝ったり、面倒見良く同じ学生を助けたりもしているので、知る人ぞ知るという感じで、ユージンの事を評価して見込んでいる人はけっこう学園内にも沢山いるっぽいんですよね。
何より、学園長にして迷宮都市の王であるユーサー学園長がユージンには特別に目をかけてますからね。封印されている魔王エリーに、彼を引き合わせたのもユーサー学園長ですし。
どこか退廃的で冷めた雰囲気のあるユージンと比べて、ユーサー学園長の方は良い年したナイスミドルなのにやたら暑苦しいしパワフルだしド派手でバイタリティの塊という感じなので、むしろ存在感なら彼のほうが大きかったかも。
やたらと声も大きそうだし、笑い声とかもはるか彼方まで響きそうだし、何かと存在するだけでうるさいというか目立つというかそういうオッサンなのですけれど、やっぱり魅力的でカリスマである事は間違いないんですよね。
学園都市自体、周辺の大国である帝国、神聖同盟、連邦と各国から理事みたいなのが送り込まれて色々と口出ししてくるし、国際情勢を鑑みながら国家間のパワーゲームを仕掛けてきているようなのですけれど、都市国家の王でありながらユーサー学園長はそうした大国からの干渉を、堂々と跳ね飛ばして小鳥のさえずりくらいに聞き流して、呵々大笑しながら胡座かいて良いように利用している、という感じすらさせる自由奔放さで統治してるんですよねえ。
こういう人、好きだなあ。遊び心や稚気の巨魁みたいな人だし、迷惑だけど、目をかけられればかけられるほど大迷惑を被る人なんだろうけど。

さても、このラストダンジョンとも呼ばれている天頂の塔。その攻略のために存在している学園都市。この攻略のために用意された様々なシステムや仕組みが、本作をダンジョン攻略モノとして非常にワクワクさせてくれる枠組みになっていて、毎日がお祭り騒ぎみたいな雰囲気がまた楽しい感じなんですよね。
極限まで死が回避できるシステムで安心感もあるんですけれど、決して蘇生の方も万全ではなく、蘇生にはやべえくらい金がかかる薬も必要だし、その薬も万全じゃない後遺症などもちゃんとある。さらには魔物に死体を食われたら、それは=死である、という絶対安全のシステムではないあたりに、ちゃんと緊張感も保たれる仕組みになってるんですよね。
それでも、学生たちが様々な部活ごとに攻略チーム組んでたり、ユージンがあっちこっち助っ人や、救援なんかしているのを見ると、横の繋がりも結構頻繁にあるみたいで、ピリピリしているだけじゃない緩くてノリの良い仲の良さなんかも普通に感じられて、どこか学園祭とか巨大学園のノリが感じられて、こういうのは好きだなあ。

そんな中で、異世界からの来訪者として突如ダンジョンの中に現れ、学園に保護されてユージンが面倒みることになったスミレ。彼女が、目的を見失い足元の定まらない浮雲のような在り方をしていたユージンに、大きな指針を与えることになるのです。そして、彼女の能力はユージンの失われた剣の道を再び彼に開くことにもなる。
まさに冒険譚、神々の領域へと辿り着くためにバベルの塔を高みへと高みへとひたすらに登っていくダンジョン攻略譚のはじまりだ。ワクワクしますね!