【魔界帰りの劣等能力者 11.悪戯令嬢の護衛者】  たすろう/かる HJ文庫

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次なるお仕事は秋華のボディーガード!?

入家の大祭が終わり無事に目的を達成した祐人。そんな彼の元に黄家の令嬢、秋華から緊急の護衛依頼が届く。
金欠状態の祐人がすぐさま黄家行きを決める中、それを偶然知ったニイナが何故か秘書としてついてくることになって――

「堂杜のお兄さん、私を守ってくれるかしら?」

悪戯な笑みを浮かべる秋華と黄家の秘密を巡って、機関最強の一人・王俊豪や各国能力者部隊が祐人たちを待ち受ける!!
最弱劣等の魔神殺しが秘密を抱えた少女を守り抜く、第11弾!!


殺伐とした仕事を生業としている古き異能者の家柄がたくさん出てくる本作だけど、意外とどの家も家族仲が良い所が多いんですよね。黄家も祐人たちを招いた秋華の口ぶりだと家督争いが起こりつつある、なんて不穏な空気を匂わせていたけれど、実際は家族仲は良好どころじゃなく親密だし、争いになっているはずの秋華と兄の英雄もむしろお兄ちゃんはシスコンなくらいですしねえ。秋華も言い方はいつも辛辣な方だけれど、あのポンコツなお兄ちゃんの事はちゃんと慕っているみたいですしねえ。
陰惨な因業が招く呪われた家、とかそういう暗い話が少なくて、ちゃんと家族同士の愛情が通っている人達が、術師異能者の大家を担っているというのはなんか安心出来ますし、読んでても心地よいんですよねえ。
だから、そういう人達が危地に陥るのを全力で助けてあげたくなるし、それを自然体で痛快にやってくれる祐人の立ち居振る舞いはいつだってかっこいいんだよなあ。普段の間抜けた所は愛嬌、というところで。
しかし、今回は祐人を引っ張り出してなにか企んでいる秋華の思惑だけじゃない、複数の思惑がこんがらがってかき混ぜられているために、一体何が起こっているのか読者サイドも当事者である祐人たちも掴みきれずに、なかなか五里霧中な状況なんですよねえ。
秋華の祐人への護衛依頼の内容は嘘八百だったりでまかせみたいに聞こえる部分も多々あって、これは信用できるのかと首を傾げてしまうところなんだけれど、一方でそうしたふざけたイタズラめいた語り口の中に、どうにもチラホラと真実味も隠れていて、果たしてどこに本当が存在するのかどうにも錯綜してこんがらがってるんですよね。それも、秋華の企みだけならそれを丁寧に紐解いていけばいいんだろうけれど、他者の悪意や陰謀が介在することで余計に錯綜しちゃってるっぽいんだよなあ。
これは祐人だけが言われたとおりに一人でひょいひょいと依頼料に釣られて参加しちゃっていたら、行き詰まっちゃっていたかもしれない。
しかし今回は、サポート役として或いはお目付け役としてニイナが一緒に参加してくれたことが、ある種の分岐点だったのだろう。
これまで、ヒロイン衆の中ではどちらかというと目立たない立ち位置というか、一般人であるがゆえに中途半端な立ち位置にいたニイナ。同じ一般人でも、一悟たちみたいな日常枠じゃないですし、祐人の切り札の特性によって、助けられた時の記憶を失っているというのも、絆の力によって思い出した瑞穂たちと比べると、一歩後ろに置いていかれている感があったんですよね。
所が今回はニイナは、出自が国家の中枢で革命家として、そして政治家として辣腕を振るっている人物を父に持ち、自身も荒波に揉まれるが如き国内情勢を要人の娘としてだけじゃなく、それを手伝える側近候補として鍛えてきた実績の持ち主。
単体戦闘能力やサバイバル能力、危険への対処能力など突出した能力を持つ祐人だけれど、それはあくまで戦闘能力に偏ったもので、その純朴な性格とわりと単純で脳筋な所もある祐人では、政治的な駆け引きとか本心を見せずにせめぎ合う交渉事、悪辣な企みによって幾重にも罠を仕掛けてくるような陰謀などに対しては、まあ間違っても得意とは言えない事柄だったんですよねえ。
これに関しては祐人以上に脳筋な瑞穂や、性格が真っ直ぐなマリエル。一般庶民の家で生きてきた茉莉なんかじゃちょいと手を出したら火傷しそうな分野だったんですよねえ。祐人に憑いている神獣たちも、彼らアタマは絶対良いはずだし賢者と呼ぶに相応しい知恵の持ち主もいるはずなんだけれど、基本人間のルールとか全然考慮しない人外ばっかりなんで、結局力押しだよねこの人達も。
というわけで、祐人の身近な仲間や身内の持ってる能力や才能からすると、ここらあたりは間隙だったんですよねえ。
それを、ニイナは見事に埋める、埋め尽くす勢いで今回位置取り決めてきたんだよなあ。
まさに政治顧問であり相談役であり、軍師であり参謀であり秘書であり、余人では出来ないサポート役を担うことになったんですよね。正直祐人としても、何かに付けてニイナと相談したり、意見を聞いたり、お互い鼻を突き合わせてディスカッション、議論しあえるというのは今までにないことなんですよね。今まで何だかんだと大事な決断の場面では一人で考え、一人で結論を導き出さなければならない事が殆どでしたし。
自分では理解できない領域のことをサポートしてくれる、防衛してくれる、代わりに片付けてくれる。自分ではわからない答えを見つけてくれる、より良い精度の高い深度の深い提案、選択肢を導き出してくれる。まさに祐人にとっての知恵袋なんですよね。
これ、一番密接な相棒的ポディションすら狙える立ち位置ですよ。まさかまさかの大躍進じゃないですか、ニイナさん。祐人に助けられた記憶が戻っていない、というのもこうなってくると、むしろここぞという場面で記憶が戻るという展開は、盛り上がりどころ・上がり目でしかないとも言えるんですよね。ヒロインとしてエース札を知らず持っているということだ。ここまで劇的に立ち位置が転換するとは思わなかった。
今回って実はニイナ回だったんじゃないですか、これ。

そして、まだ決定的ではないものの、劇的に人間関係が変わりそうなのが祐人と、秋華の兄である英雄である。協会の試験で登場当初から瑞穂に横恋慕する間抜けな噛ませ犬というかなり残念なキャラだった英雄。先の瑞穂の人生のパートナーを決めるための大会でも、まあ不憫な役回りだったわけですよ。短慮で傲慢。実力はあるかもしれないけれど、いささか品性に欠けるところがあってお世辞にも魅力的なキャラとは言えない人物だったんですけどね。
しかし、ここで彼は彼なりに重い過去を背負い、憧れる人が居て、その人の生きざまに恥じないために精進しようという心意気があり、おそらく困難な運命を背負っている妹を守るための覚悟を秘めている一廉の人物であるという姿が垣間見えてくるんですよね。
そんな英雄が、ついに祐人を認めた。それも力や能力、強さじゃなくて、信念・生き様。その使命に殉じる高潔な在り方そのものを、自分が魂に焼き付けて目指し続ける人物に、自分がその人の生き様を生涯かけて証明すると誓った、その相手に重ね合わせて、認めるのである。
ここで一気に黄英雄というキャラクターの造形が引き締まり、軽々とした部分が吹き消えてグッと重きを増したんですよねえ。
同世代の男の親友というと、一悟という得難い友人が居ますけれど。三千院水重という同世代のライバルとなるだろう天才も居ますけれど。黄英雄も術師サイドでの祐人の同世代の同性としてこれ面白い立ち位置になってくれそうじゃないですか。

まだ秋華を巡る幾つもの秘密、そして進行する陰謀は終わっておらず佳境に入りそうなところ、ニイナ参謀の脳裏に真実を紐解く鍵となる事柄が閃く! で次巻に続いたのですけれど、うんめちゃめちゃイイ所で終わったな! 続きなるべく早くでお願いします♪