【私をそんな二つ名で呼ばないで下さい! じゃじゃ馬姫の天下取り】  宮前葵/碧風羽 SQEXノベル

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
世界を手に入れましょう元気少女と貴族少年、二人の王朝ロマンが始まる!
農家の少女イリューテシアは、十歳で王国のお姫様となった。成長した彼女は婿を迎える事になり、訪れた隣国で運命の出会いを果たす。その出会いは、彼女を歴史の表舞台へと押し上げていく。元気少女と貴族少年、二人の大活躍が始まる!


【貧乏騎士に嫁入りしたはずが!?】が面白かったので、同じ作者さんの作品にも手を出してみました。
こちらも主人公の女の子が早々に結婚して、夫を支えながら国をもり立てていくというお話ですね。いや、だいぶ違うか?
歴史上では旦那のクローヴェルは病弱で特に秀でた能力もなく、唯一目立った功績は嫁選びの目利きであった、と語られているそうだけれど、主人公にして彼の奥さんとなるイリューテシアは「そんなことないよ!」と歴史は自分の夫を過小評価している! と激おこですけれど、1巻の範囲を見る限りではクローヴェルくん、本気で病弱ですぐに寝込んでしまうので本当に何もしていないんですよね。その分、イリューテシアがガンガンあらゆる事業、物事を牽引していってしまうのですが。
ただ、彼がイリューテシアの持つ王国の継承者としての権威ではなく、彼女個人を見て求婚したこと。目先の損益ではなく、国の行く末という展望を持ち、そのためには皇帝の座を手に入れたいという大目標を立てたことが、イリューテシアが動く原動力となったのだからイリューテシアの相手が誰でも良かった、というわけじゃないんですよね。
まあ、イリューテシアって個人の為人はともかくとして、帝国内の皇帝を排出する権利を持つ7つの王家のうちの一つイブリア王国の継承者という権威の持ち主なので、求婚については山程あったみたいなんですよね。なんなら、クローヴェルと既に婚約したあとでもなお口説かれているほどですし。
クローヴェルが嫁を選んだんじゃなくて、イリューテシアが婿を選んだよなあ。そういう意味では嫁選びの功績も彼には無いのですが。むしろこの場合は婿に選ばせたというのが最大の功績というべきなのかもしれません。
その後も、彼自身自分で何も出来ないという事もあって、イリューテシアの行動を掣肘せずに彼女のやりたいようにやらせていた、というのも夫なりの支援だったのかもしれません。いや、彼女が戦場に立つなど危険な所に行こうとした時は必死こいて止めてましたけどね……止まらんかったけど!!

このイリューテシアことリューちゃん、イブリア王家の血を引いているのは間違いないのですが、実は嫡流じゃないんですよね。このイブリア王国長い歴史の中で盛大に衰退していて、王家本流以外の傍流、貴族家はみんな生きるため生活のために帰農してしまっているという超貧乏国。リューも祖母が降嫁した王女様なので血筋としては十分王族に近いのですけれど、普段の生活は思いっきり農家だったのである。それが、王家嫡流が絶えてしまった事で急遽、国王陛下から養子になってくれない? と頼まれて、イブリア王国継承者となったという経歴の持ち主なのである。
もちろん、王女となってからはミッチリと王族教育は受けているので、マナー教養などは詰め込み教育ながらしっかり身についたんですけれどね。ハリボテ王女ではさすがにないのであるけれど、産まれたその時からの王族貴族ではない、それなりに大きくなるまでは庶民として元気いっぱいに生きてきた、というのが彼女のヤンチャすぎるブレーキなしのパワフルさの原動力だったように思います。
それにこの娘、貴族育ちではないにも関わらず、いやだからこそか。教育勉強によってイブリア王国の王族が持つ帝国内での重要な地位、その血筋の権威というものを理解したせいか、その使い方がべらぼうに上手いんですよねえ。
生まれたその時から当たり前のように権威を身にまとっていると、それを利用するべき道具や自分の身を守るための防具、相手に言うことを聞かせ従わせるための武器とするという発想が意外と生まれにくい、身につきにくいのかもしれない。
下剋上の世なんかでは、むしろ下から成り上がってきた者の方が「権威」の利用の仕方というのを心得ているものなんですよねえ。リューはそういう成り上がり者と違って、彼女自身が権威を身にまとう存在になってしまったのだけれど、だからこそその「権威」の持つ力を誰かに貸し与えて代理させるのではなく、自分自身で振りかざしていくのである。
本来、リューの持つ権威を利用して、リューを神輿として担ぎ上げて自分の家の発展、いや生存のために利用するつもりだったのが、クローヴェルの実家のアルハイン公国だったんですね。それが、リューが頑として自分の権威の力を譲り渡さず自分自身の武器として携え続けたものだから、神輿の上のリューに公国の実権すら奪われるはめになったのである。
まさに軒を貸したら母屋まで取られた……これは恩を仇で返すの類義語だからちょっと違うか。でも、本来ただ権威しか持っていないはずの貧乏国イブリア王国を継承したリューとクローヴェルに、帝国内でも屈指の国力…経済力軍事力を持つはずのアルハイン公国のすべてが、リューとクローヴェルの意向によって動かされることになってしまったのだから、母屋を取られたとしか言いようがないよなあ。
ただ、義父であるアルハイン公爵がリューの権威に唯々諾々と従わなくてはならなかったのは、彼女の持つ権威を従来の計画どおりに奪っていても、既に帝国内で出る杭を打たれる状態で追い詰められていたアルハイン公国が生き延びる逆転の策とはならない、とリュー自身に現実を突きつけられたからでもあるんですよね。アルハイン公国が生き残るためにはリューとクローヴェルの野望に手を貸し、彼らの忠実な股肱の臣になるしかない、と分からされてしまったからなのである。もし、リューたちの野望に乗っかって勝てば、次期皇帝の外戚になれるし帝国内で唯一無二の大勢力ともなれる。
まあ、乗っかるしかなかったのである。でも、その御蔭で公国はリューによって馬車馬のようにこき使われるはめになり、権威を奪って美味しい蜜を吸うはずが過労死寸前の息も絶え絶えな過剰労働の憂き目にあうのである。やっぱりご愁傷さまである。
まあ、リューの事を操れる、うまい事コントロール出来ると考えてしまった結果でもあるわけだが。
こんな可哀想な勝ち組もなかなかお目にかかれないですよw

さて、夫の実家の公国に手綱を付けて、ハミを噛ませて、走れ走れと鞭打つことに成功したリューですが、本来の目的は夫を皇帝にすること。つまり、目下最大の政敵は現皇帝家となるクーラルガ王国。そして、その後継者であるフェルセルム王子である。この王子こそ、リューが正式にクローヴェルと婚約したあとでちょっかい掛けてきた青年であり、バシッとリューに振られてしまった事を根に持って、あれこれと陰謀を仕掛けてくる……粘着男であった。
フットワーク軽く帝国内を飛び回ってその名を高めながら、フェルセルム王子のし掛けてくる悪意マシマシ、ねちっこくて嫌らしくてリュー個人だけじゃなく周囲を巻き込むような下衆めいたやたら殺意の高い陰謀に真っ向からぶちかましていくのである。……そりゃ、この王妃様ばっかり名声高まりますわw
ほんとパワフル極まるお姫様で、見ていて痛快でありました。