【虚ろなるレガリア 5.天が破れ落ちゆくとき】  三雲 岳斗/深遊 電撃文庫

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すべての謎は解き明かされ、不死者の戦いはクライマックスへ!

京都に辿り着いたヤヒロと彩葉を待っていたのは、ギャルリー欧州本部を率いるベリト侯爵ユーセビアスだった。統合体と結託した彼は、妙翅院迦楼羅の持つ遺存宝器を奪うため、天帝領への侵攻を開始する。迦楼羅救出のために天帝領へと潜入したヤヒロたちは、そこで龍の巫女と世界の真実を知る。
そのころ、眠り続けていた鳴沢珠依は投刀塚の襲撃を受けてついに覚醒していた。世界の破壊を望む珠依を止めるため、ヤヒロと彩葉は始まりの地、二十三区の冥界門へと向かうのだが――!
廃墟の街で出会った少年と少女が紡ぐ、新たなる龍と龍殺しの物語、第五巻!

いやー、あらすじに書かれてる文なんて話半分だと思っておいた方がいい場合も多いのだけれど、本作に関してはマジですべての謎が解き明かされた感があるぞ。
あまりに解き明かされすぎて、これが最終巻かと思いましたよ。でも、実質最終巻ではありますよね。本筋としてはこれで決着したようなものですし。
記憶のない彩葉の本当の過去とは。
なぜ人間が魍獣なんてものに変わってしまったのか。
他にもジュリエッタとロゼッタの姉妹の本当の思惑とか。彼女だけじゃなくて、ネイサンや沼の龍の巫女や迦楼羅などその真意を見せないままだった人達も多かったけれど、それぞれみんな貫くべき信念や生き様というのをきっちり見せてくれましたからね。八尋たちと協力するか或いは対立するか立ち位置は違っても、意思も目的も全部見せた上で行動してくれたことで非常にスッキリした思いで彼らの行動は受け止められましたからね。
こうしてみると、最強の不死者とその龍の巫女だった投刀塚と華那芽が数居た不死者と巫女の中でももっともなんていうか、中途半端だったというか芯となるものを持っていなかったというのが興味深い。そんでもって、彩葉にしても澄華にしても、そして沼の龍の巫女の丹奈もみやびさんも、他の巫女たちはみんなメンタルお化けと言って良いくらい、その魂の真中に通っている芯は揺るがない強い女性たちだったのがまた印象的でしたねえ。そんでもって、そんな彼女たちに見合うだけの器を不死者たちも持ってたんだよなあ。山瀬道慈はそれがなかったから早々に脱落したとも言えるんじゃなかろうか。

また、なぜ妹の鳴沢珠依があの大虐殺を引き起こしたのか。彼女の想いも明らかになったことでただ盲滅法に珠依を殺すことに傾倒していた八尋も、あれほど仲の良かった妹のことを何も理解していなかった事をわかって、また彩葉の正体も明らかになったことで、彼なりにやるべきこと、成すべきことを覚悟と共に決めることが出来ましたからね。やはり主人公とメインヒロインの行動指針が強固にまっすぐ突き進むものだと、物語の駆動力も違ってきます。まあ、この怒涛の展開からして作品全体が終幕に向かってなだれ込んでいるという勢いもあったのですけれど。
あんまりにも時間がなくなってしまったので、せっかく崩壊した日本の中で唯一都市の景観を守っていた京都でのエピソード、いわゆる京都編が京都の街を堪能する以前に、なによりそこで長きに渡って「クシナダ」を待ちわびていた迦楼羅との邂逅も時間に追われてじっくりやる暇もなかったですからねえ。
……いや、この畳み掛けるよな怒涛の展開の中で、解き明かすべき謎を一つ一つ物語の進行に連動する形で、そしてその物語の中で駆け抜ける登場人物たちの心情に合わせる形で全部開示していったんだから、この構成力は何気にすごいよなあ。怒涛の勢いこそ感じましたけれど、そんな忙しなさとか展開にまきが入ってるという印象はあんまり感じませんでしたし。

あと、最終巻でジュリエッタとロゼッタの二人のヒロイン度をガンガンあげてきたのには思わずニヤニヤしてしまいましたよ。どうしてもビジネスライクというか、その思惑真意に謎めいたものを抱えていたベリト姉妹が、完全無欠に八尋たちの味方であると示した上で女の子としての顔を見せてくるとか、タイミングも合わせて強烈でしたよ。特にロゼッタ。えげつないシスコンのくせに、最後の最後にジュリよりも熱量高く熱いベーゼを交わしてきたあたり、あれ結構な不意打ちでしたよ?

しかし、この世界観の正体には正直驚かされましたよ。龍の巫女たちが前世の記憶を持っている、つまり転生者であるというのはもうはっきりと描かれつつありましたけれど、だからこそこの世界において彼女たちの存在というのは不安定、という印象を抱いていたのですけれど、むしろ不安定だったのは、確固としたものではないのは世界の方だった、というのは想像の埒外でした。
これ、人間が人型ですらない完全な異形の化け物、魍獣に変わってしまうのはゾンビみたいな変異ウイルスとか外部から世界の法則を書き換えられたとか、いわゆる外からの影響によるもの。珠依が引き起こした八尋の龍化によって人間としての存在が変質させられた、みたいなふうに考えていたんですけどね。
そうじゃなくて、元々人間の方が……ちゃんとした人間じゃなかったのか。
これって、枯野瑛さんの【終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?】と方向性としては同じ方向を向いている世界観と言えるんじゃないだろうか。こっちは、人間という存在だけじゃなくて世界そのものがウロボロスの輪の中。胡蝶の夢。黄泉の国だったわけだけれど。
でもこれ、最終的にリアルタイム創世神話になってるんですよねえ。そう考えるとスケールでかいよなあ。神産みではなく、龍殺しによる骸を大地に、世界に、という神話なんだろうけど。
しかし、それを成すに至る女神が、彩葉というのは……一番幼い赤ん坊なんですよねえ、彼女。みんなのママだったのに、彼女こそが一番幼い子どもだったとは。
産まれたときは、それこそ無垢を通り越して虚無に近いものであった彩葉。小さい頃に八尋と出会っていた時は、まさに記憶も過去も何もない空っぽの魂だったんですよねえ、彼女。それが今こんなにも情緒豊かに育っているのは、彼女が魍獣の地東京の中でずっと守り育ててきた幼い7人の孤児たちのおかげなんですよね。八尋も述懐していますけれど、ママとして子供たちを育てているようで実際に赤ん坊から子供達によって育てられていたのは彩葉の方だった、と。
何気に本作って、八尋と珠依の父親にしても、ベリト姉妹の親にしても、他にも少なくない親という存在が大半毒親というほかない害悪に近い存在だったのと比べると、もしかして作中で一番真っ当に子育てして親としての仕事をしていたのは、この小さい兄弟たちだったんじゃないだろうか。
なにしろ、一番末っ子の瑠奈が彩葉の本物のママだったわけですしねえ……いや、この場合の本物認定は色々と複雑なんですけれど。
あと、彩葉のあの配信者設定もちゃんと大きな意味があったんですねえ。単に龍の巫女がみんな配信者だったら面白いよね!? というネタじゃなかったのか。
少しだけ物足りないというか、あとちょっと掘り下げてほしかったのが珠依の気持ち、特に兄八尋へのそれですよね。結局、最後の最後まで二人が正面からぶつかりあうことはありませんでしたし。彼女の絶望の色がどれほど濃く深く、それがどんな形で八尋に向けられていたのか。これに関しては、次巻以降に触れることがあるのかなあ。
って、これラストシーン完膚なきまでにキレイなラストシーンっぽくて、最終巻っぽいのに終わらないんだ!
しかも次回予告見ると後日談のオマケという雰囲気じゃなくて、なんか第二部開始!という勢いすらありそうなので、果たしてこれ次で終わるとかじゃないのか? どうなるんでしょうね!?