【ねぇ、もういっそつき合っちゃう? ３ 幼馴染の美少女に頼まれて、カモフラ彼氏はじめました】 叶田キズ／塩かずのこ HJ文庫
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思い出の秋祭りで、仮初な関係に進展が――
幼馴染であることを隠して偽装カップルを演じる正市と十色。
しかし、恋人ムーブを繰り返していくうちに、十色の中に正市への新しい感情が芽生え始めていた。
そんな時、猿賀谷とまゆ子の二人と行くことになったダブルデート先の牧場で、十色が打ち合わせなしの恋人ムーブを正市に仕掛けてきて――
「――これは……本物の恋人ムーブだよ」
幼馴染と恋人の間で揺らぎ始めた正市と十色。幼い頃の思い出が詰まった秋祭りの夜に、ついに二人の関係に進展が!!
幼馴染で偽装カップルな二人の、本物以上になりたいラブコメ!!
だからもう付き合っちゃえばいいじゃない！？ で、相変わらず話が終わってしまうのですが。
いや、付き合わないから終わらないんだけれど。
なんで付き合わないか、というと……なんでなんだろう？ なんで付き合わないの？ なんで？ ほんとになんで？
これ、実際に十色と正市に聞いてみたいくらいだ。はたして、彼らはそれにちゃんと返答できるんだろうか。
ところが、本編ではこれを二人に尋ねる人はいないんですよね。なぜなら、二人は表向き付き合っていて彼氏彼女の関係だから。もう付き合っているんだから、なんで付き合わないの？ と聞く人はいるわけがないんですよね。誰も、そのお付き合いが偽装だなんて知らないんだから。
そのせいで、誰もが疑問に思うだろう問いかけを、誰も詰めてこないのである。おかげで、十色と正市は自分たちの気持ちと実際の関係がどうにも拗れておかしな事になっている事に薄々気づきながらも、本当は付き合ってなんかいないという一線に引っかかってしまっている。
もし、ちょっとでもこれつつかれたら。なんで付き合わないの？なんてふうに今の感じでいる時に問い詰められたら、お互い自分の気持や関係性に真正面から向き合うきっかけにはなったんじゃないだろうか。
でも、その偽装の関係が彼らからきっかけ、機会を奪い続けている。とはいえ、偽装とはお付き合いしている体をとっているせいで、ただの幼馴染やクラスメイトという関係では出来なかった彼氏彼女の関係だからこそ出来る密接な交流を、幼馴染の気のおけない距離感を超えた熱量を、実地で体験していることが二人の気持ちをどんどんと推し進めている効果もあるだけに、良し悪しなんですよねえ。
とはいえ、周囲からの応援や後押しがない以上、二人の関係は誰の介在もなく二人だけでなんとかしないとどうにも動かない。偽物を本物にするには、どうしたって主体的に動く必要があるからだ。
「本物の恋人ムーブ」なんて言って周囲に見せるためじゃない恋人同士のそれを二人の間だけで始まってしまっている時点で、もう偽装なんてのは言い訳にすぎないことは、もうふたりとも否定できないと思うんだけれど、まだ向き合えないんだよなあ、この二人。偽装をセーフティーネットにして安全圏から出ないまま、我慢しきれずに「本物」という遊びを挟んでしまっている。
いや、流石にここまでくるとまじでいい加減にせえよ、と思えてくるんだけれど、これを打破してくれる第三者が本当に存在しないんだよなあ。
その意味では、まゆ子と猿賀谷という十色と正市のそれぞれの友人同士の間で芽生えた甘酸っぱい恋は、彼らの後押しや応援を先輩カップルとして十色たちがしてあげることで、むしろ十色たちの刺激になってくれたんですよね。まゆ子たちは事情を知らないから主体的に十色たちに何かをしてくれるという訳ではなかったんだけれど、間接的に本物の恋に夢中になる男女という姿を見せつけることで、十色と正市に自覚を促すきっかけになってくれたんですよね。
さらに、十色と正市が恋人としての姿を見せつけながら、なおも諦めずに虎視眈々と十色を狙う春日部の存在が、正市の本音を引き出していく。
……って、もう実質告白してるようなものだし、完全に本物の恋人としてのラインを跨いじゃっていると思うのだけれど、当人たちだけが跨いだまんままだ超えてない超えてない偽装だから、嘘の恋人だから、とムダで無意味な主張を繰り返しているんですよねえ。
……いや、だからもう偽装である意味、ある？ なんでそこまで気持ちも伝えあっていて、自分の気持にも気づいて、なおも偽装に拘るの？
それこそ、自分の中の好きという気持ちを、未だ信じきれていなかったから、なんだろうか。好きという感情を知らなかったことで、初めての感覚を確かで確実で疑いようのないものだと確信を得るまでやっぱり怖かったんだろうか。
でも、もうわかっただろう。いい加減、認めろ、受け入れろ、真正面から向き合いなさいな。でないと、ふたりとも踏み切り時を見失ってどこまでもズルズルと行ってしまいかねないぞ。
何しろ、周囲を偽っているが故に、周りから修正、後押し、サポートしてくれる人はいないんだから。
