【彼とカノジョの事業戦略(ビジネスプラン): ~“友達”の売り方、教えます。~】  初鹿野 創/夏ハル ガガガ文庫

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天才コンサルと挑む、ビジネス頭脳バトル!

『”ビジネス”は世界を描き替えるツールだ』
ワールドビジネス育英財団ーー通称WBFには、己が理想の”世界”を作り上げるべく、若き天才経営者が集まる。
「ねっ、”友達”いりませんか?」
環 伊那ーー金髪、巨乳、明るい笑顔が特徴の経営初心者。WBFに参加するため高校を中退した元JKがパートナーに選んだのは、<成功請負人>の名を持つ天才コンサルタント真琴 成。
「アンタに、本当の”ビジネス”ってヤツを教えてやるよ」
天才たちの集う戦いで、経営初心者の彼女を勝たせる唯一の方法は、”友達”を売ること!?
『このライトノベルがすごい!』(宝島社刊)3年連続ランクイン! 人気作『現実でラブコメできないとだれが決めた?』著者・初鹿野創が描く、世界を変える「ビジネス頭脳バトル」ここに開幕!
リアルでラブコメをやってやるんだ、と現実の学校生活の中で自らプランニングして数々のイベントを実現させた【現実でラブコメできないとだれが決めた?】の作者・初鹿野創さんの最新作は、ビジネス!

いきなりサブタイトルで「“友達”の売り方、教えます。」ですからね。自分の友だちですら金儲けのために売っぱらう、そんな情熱も人情も友情も愛情も切り捨ててただひたすらに金儲けに邁進するビジネスに魂を売った金の亡者たちの物語……なのかって思っちゃうじゃないですか。
そもそも、ビジネスという言葉からくるイメージというのは「商売」とか「事業」とかであって、そこには情を介在としないどこか冷たい関係と、金儲けというモノがシンプルに思い浮かぶんじゃないでしょうか。
ビジネスライクな関係とかってその典型ですよね。
ヒロインとなる環 伊那はビジネスのビの字も知らない商売や経済のど素人。その上で底抜けの善人ということで、人たらしの化け物である彼女にビジネスの鬼である主人公がぶつかり合いながら感化されていく話なのかな、と勝手に想像してたんですけどね。
いや、そうじゃなかった。それどころじゃなかった。
主人公の真琴 成。天才コンサルタント。成功請負人と呼ばれる彼こそが、もっとも「ビジネス」というものに対して高い理想を描き、その理想を実現するために邁進する気高き青年だったのである。
そもそも、なんで成くんが自ら経営者となってビジネスシーンを引っ張る存在になるのではなく、コンサルタントというサポート役に回っているのか、その理由から意図から志から、すべてが物語の中で明らかになっていくんですけれど……その内容が痺れたなあ。
そもそもこの物語って、「ビジネス」とはなんぞや!? ってところから始まってるんですよね。
ビジネスというのは単なる金儲けの手段じゃない。ビジネスってのは、世界を書き替えるツールだ、という本質を訴えてくる物語なのである。
そして真琴成という人は、そんなビジネスの本質を信じているからこそ、誰よりも理解しているからこそ、それを自ら実践するのではなく、そのツールの使い方をあまねく多くの人に伝えるために、そもそもビジネスとはツールなんだ、とても凄い武器で道具で原動力なんだと伝えるために、ビジネスを成功させることを手伝うことで、多くの人々を助けるために、幸せを広げるために。
Win-Winを連ねていくために。
彼は牽引者ではない、導くものではない、支援者となったのだ、と。
その事実を余すことなく看破して、そう真琴成という人物をこの上なく理解して認めて大賛同して、彼の思いを叶える切っ先となるために、フルスロットルで動き出すのがヒロイン・環 伊那なのである。
なんかもう、とてつもないコンビが生まれてしまったなあ。この切っ先にして穂先、尖兵にして相棒にして無二の相方となる彼女は、だからこそ彼の方向性が歪むのを認めないんですよね。彼の願いの絶対的な味方となったからこそ、最上の支持者となったからこそ、彼がその志から効率、最善を優先してはずれようとした時、毅然とダメ出ししてくるんですよね。それは、彼女が言われたまま動くだけの傀儡ではないということ。正しく、相棒であり共犯であることを示してくれているんですよね。
成はあくまで支援者。道を切り開いて歩いていくのは、経営者であり事業者でありビジネスレディである環 伊那である、というのを示してくれたクライマックスであり、大きな方向性を彼女が指し示せば、そこに至るためのプランを瞬く間に整え、これをやってみせろ!と提示するのがコンサルタント。
うんうん、実にいいコンビ。強固に結びつきながら、お互いをブンブンと振り回してさらに遠心力をマシていく、実にフルスロットルな最強コンビの誕生だ。

個人的にはこれほどビジネスというものに大きな志と才能を持つ二人だったら、よその会社が作った舞台・ワールドビジネス育英財団なんてものに主導権・主催、ルールを任せて乗っからず、自ら舞台とルールを作って「世界」を創造するくらいしないと、たとえ100兆円が掛かっていようと盤上の駒で終わってしまうんじゃないか。盤を作り用意する側に回れるのか、とチラッと思ったりもしましたけどね。
100兆円ってまさに日本の国家予算に匹敵する途方もないお金ですけれど……所詮一年分でしかない事も確か。使い方じゃなくて、使い続けられる方法を考えないと世界を一瞬変えることは出来ても、決定的に変え続けるためにはこれを生きた動くお金として使う、運用しないといけないわけで、はたして今からどういうプランニングを考えているんでしょうね、天才コンサルタントは。
あと、本当に世界を書き替えていくだけの大きなビジネスに携わるとなると、経済界だけで完結して動けるわけじゃないのは、最後に成が会談した相手の末路が示してるんですよね。
関わる世界が大きくなればなるほど、その世界……社会そのものが自分に触れてくるものに対して干渉し返してくる。だまって替えられるほど世界も簡単じゃないってことだ。なにしろ、世界はそれこそ住まう人の数だけ関わって構築されているもの。たとえビジネスが世界を替え得るツールであったとしても個人の意志でそれを振るうにはとてつもない力が必要になってくる。
とてつもない規模の意思に、その集合体に、その集約された相手に向き合うことになる。
それが政治だったり官僚機構だったり外国だったり世論だったり……時代だったりするわけだ。
他にビジネスをがっつりテーマの中に組み込んでいる作品というと、二日市とふろうさんの【現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変】はその一つだけれど、この作品は特にそれら社会、政治、世論、そして時代と真っ向からがっぷり四つに組み合って戦い協調しせめぎ合ってる作品なんですよね。これも兆単位の金がバンバンと飛び交う魔窟の世界、というか現代社会なんだが、ビジネスで世界を変えるというのは、勇者となって魔王を倒して世界を救うよりよっぽど大変かもしれない難事であり、しかし選ばれたものだけがなし得るものではない誰もが可能性のある手段でもあります。それを絶対に成功させてやるという成功請負人と、天使のようなその天真爛漫な人たらしの才と人の本質を見抜く目、そして一心不乱に揺るがぬ胆力でもって、未知のビジネスの世界へと飛び込んできた元JK少女のでこぼこコンビのスタートダッシュ。なにより心にドバドバと燃料が注がれ熱くなり温かくなり気合の入る、情の籠もったWin-Winを目指して突っ走るビジネスシーンは実に痛快で気持ちよかった。ダイナミックに面白くなりそうなシリーズのはじまりでしたよ!